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日本ハム リーグ優勝の裏に

10月3日 21時40分

梅本一成記者

プロ野球の日本ハムが大混戦のパ・リーグを制して3年ぶりの優勝を果たしました。
就任1年目の栗山英樹監督がなぜリーグ制覇を成し遂げることができたのか。札幌放送局の梅本一成記者がお伝えします。

“対話重視”のチーム運営

今シーズンの日本ハムは開幕前に2つの不安が指摘されていました。
そのひとつは、絶対的エースのダルビッシュ有投手が大リーグに移籍したことによる投手力の大幅ダウン。
もうひとつは解説者としてプロ野球を外から見続けてきたものの指導者としては未知数の栗山監督の就任。
周囲がどんなシーズンとなるのか、不安と好奇の目を向けるなかで新たなシーズンを迎えました。
その栗山監督が掲げたのは“対話重視”のチーム運営でした。
キャンプ中、そしてシーズンが始まってからも、みずから選手やコーチに近づいて、ことばを交わす姿が目につきました。
就任当初、栗山監督は「僕がどれだけ選手のことを理解できるのかということに時間をかけたい。理想は選手の心の中がすべて分かること」と話していました。

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解説者やキャスターなどとして、長く取材活動をした経験を生かして、対話を通して選手一人一人の気持ちを理解し、自分の考えを伝えようと努めたのです。

急成長“新エース”誕生

この栗山新体制の中で急成長を遂げたのがプロ6年目の吉川光夫投手でした。
吉川投手は、高校生ドラフト1位で入団し、ストレートで勝負できる本格派の左腕として期待されましたが、最初の2年間で6勝を挙げて以降は勝利から遠ざかっていました。

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フォアボールでみずからピンチを招いては自滅する精神的な弱さを見せていた吉川投手に対し、栗山監督は開幕前「ことしダメだったらユニフォームを脱がす」と強いことばで先発投手としての自覚を促していました。
そして迎えた今シーズン2回目の登板の対ロッテ戦。
この試合でも多くのフォアボールを出して崩れかかっていた吉川投手に、栗山監督はベンチで「フォアボールを出してもいい。しっかり腕を振って投げた結果なら俺は納得してマウンドに送り出す」と声をかけました。
このことばで立ち直った吉川投手は4年ぶりの勝ち星をつかみ、その後も投げるたびに自信を深めて勝利を重ねていきました。
今シーズンは、ここまで14勝を挙げてチームの勝ち頭になり、防御率もリーグトップ(3日現在)の大活躍を見せています。
まさに栗山監督の対話重視の姿勢が、ダルビッシュ投手が抜けた穴を埋める新たなエースを育てたのです。

4番 中田選手へのこだわり

栗山監督のチーム運営を物語るもうひとつのキーワードは“選手への信頼”です。
その象徴が、すべての試合で4番に起用した5年目の中田翔選手でした。

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栗山監督は今シーズン、試合ごとに打順を組み替える細かな采配を見せましたが、中田選手については、打率が1割台に低迷した前半戦でも4番に据え続けました。
その理由について、栗山監督は「彼の能力にほれ込んでいるわけだから、それをなんとか開花させるのが僕の使命。仮に打率が1割5分を切っても外さなかったかも知れない」と語っています。
苦しいときも4番を任され続けた中田選手は、後半戦の大一番でその力を発揮しました。
先月23日に行われた2位の西武との首位攻防戦では、2本のホームランで4打点、さらに28日の対戦でも2本のホームランで5打点を挙げ、激しい優勝争いの帰すうを決しました。
優勝を決めたあと、中田選手は「シーズン当初は全然だめだったのに、我慢して起用してくれた栗山監督に優勝して恩返ししたいと思っていた」と振り返りました。
選手に信頼を寄せる監督と、それに応えようとする選手たちとの一体感が、大混戦のパ・リーグを制した原動力だったのです。

定着した“道民球団”

日本ハムのリーグ優勝は、前身の東映時代を含めて6回目、本拠地を札幌に移した平成16年からの9年間では実に4回目です。
この強さを後押ししているのが地元のファンの温かい声援です。
札幌ドームでは、ほかの球場では見られない光景があります。
日本ハムのピッチャーがスリーボールになったとき、スタンドから自然と拍手が起こります。
この拍手には、コントロールに苦しむピッチャーを勇気づけたいというファンの思いが込められているのです。
球団もこうしたファンを大切にしようと、さまざまなサービスを行っています。
優勝が決まった2日は日本ハムは試合がなく、選手たちは札幌ドームで練習を行いましたが球団は急きょ、一般のファンに公開しました。
そして、練習が終わったあとにはグラウンドに招き入れ、優勝が決まった瞬間には1万5000人を超えるファンの目の前で胴上げをして喜びを分かち合いました。

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こうした対応は、今年1月に行われたダルビッシュ投手の大リーグ移籍の記者会見などでも行っていて、ファンとチームを結ぶイベントとして定着してきています。
日本ハムは17日から札幌ドームで行われるクライマックスシリーズのファイナルステージに臨みます。
栗山監督は「優勝した瞬間から次のことが気になって仕方がなかった」と話し、すでに気持ちは今後に向かっています。
地元の大声援を受けて、6年ぶりの日本一を目指す戦いに進むことができるのか、これからの熱い試合がさらに注目されます。

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