(英エコノミスト誌 2012年9月29日号)
自民党は新総裁に安倍晋三氏を選び、日本とその近隣諸国に衝撃を与えた。
日本国民はまたしても、政治は自分たちにきつい冗談を投げかけることしかできないのかと、首をかしげているに違いない。
野党・自民党は9月26日、国家主義者でかつて首相を務めた安倍晋三氏(58歳)を、次の総選挙に向けて党を率いる総裁に選んだ。安倍氏は2007年に、政治の失敗とストレスによる腸疾患を理由に、わずか1年で首相を辞任したにもかかわらず、だ。
安倍氏が選ばれたことは、自民党が数カ月以内に政権を奪取する見込みが十分あると思っていた一般党員にとっては、とりわけ衝撃的な出来事だった。
一般党員の間で一番人気だった石破茂氏は1回目の投票では最多の票を獲得したが、過半数には達しなかった。
2回目の決選投票は自民党所属の国会議員のみが投票権を持つが、議員たちは一般党員の意向を無視した。総裁に選ばれた安倍氏は、同じくタカ派の石破氏を右腕の幹事長に任命する意向だと報じられている。
首相としての功績
安倍氏が首相を務めた2006年から2007年にかけての12カ月間で際立ったのは、政府の機能不全と不祥事、第2次世界大戦中に日本軍の性の奴隷を務めることを強要された近隣諸国の女性たちに関する安倍氏の見解(安倍氏は強要の事実はそもそもなかったと主張した)を巡る無用の騒ぎだった。
その間を通じて、安倍氏は胃腸の不調に悩まされていた。2007年8月のインド公式訪問後には病状が極めて悪化し、あまりにも頻繁にトイレに駆け込まざるを得なくなり、もはや首相の職を務められないと感じるに至ったのだった。それから間もなく、安倍氏は辞任した。その2年後には自民党そのものが政権の座を追われた。
安倍氏の首相としての最初の(そして、恐らくは唯一の)輝かしい功績は、前任者の小泉純一郎氏が不用意に焼き払ってしまった韓国と中国との架け橋を再建したことだ。首相に就任するや否や、安倍氏はソウルと北京を訪問し、関係改善を望んでいるとの意向を示して両国を安心させた。
領有権を巡って係争中の島々を抱え、日本が中韓両国と極めて緊迫した関係にある今、前回と同じことをするつもりだとしても、安倍氏は全くそのそぶりを見せていない。それどころか、前回の歩み寄りについて後悔の念をほのめかしている。
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