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2010年2月号

UQコミュニケーションズ 代表取締役社長
田中孝司氏
人口カバー率1年前倒しで達成
WiMAXらしさ全面発揮に挑む

新たに2段階定額プランを導入したUQコミュニケーションズ。
一時遅れていた屋外基地局の建設も軌道に乗ってきた。
田中社長は、WiMAX内蔵PCのモデルを増やすとともに、
携帯電話とPCの中間領域の端末など新しいカテゴリーも
作りたいと意欲を見せる。

Profile

田中孝司氏
(たなか・たかし)
1957年2月26日生まれ。79年3月京都大学工学部電気系学科卒業。81年3月京都大学大学院工学研究科電気工学第2専攻修了。同年4月国際電信電話入社。2000年10月ディーディーアイIP事業統括本部eビジネスシステム部長(01年4月KDDIに社名変更)。03年4月同執行役員ソリューション事業本部ソリューション商品開発本部長。07年6月同取締役執行役員常務ソリューション事業統轄本部長。09年4月同取締役執行役員常務ソリューション事業部門担当。07年8月よりUQコミュニケーションズ代表取締役社長を兼務、現在に至る

2009年7月にWiMAXの有料サービスを開始してから約半年が過ぎました。この間の事業展開について、どのように評価していますか。

田中 いろいろなことがありましたが、何とか予定通りに来たかなと思っています。
 屋外基地局の建設も一時期、設置場所のオーナー様との交渉や設置工事の遅れに苦しめられましたが、何とかリカバリーして、09年12月末現在で電波発射は4752局になりました。
 免許取得時の計画では09年度末で4000局を目標にしていたので、3カ月前倒しになっています。今では1カ月間に1000局弱の基地局建設ができる実力が付いてきており、年度末には7000局弱ぐらいになりそうです。最終的には2012年度末に人口カバー率93%を目標にしていますが、このままのペースでいけば1年早く達成できそうなペースです。

加入者数は09年度末に数十万加入を目指したいという話でしたが、TCA(電気通信事業者協会)の発表によると、09年9月末時点で2万1700、12月末時点で6万3600となっています。計画よりやや遅れているのではありませんか。

田中 9月末の数字については社外の方から「少ない」と言われたのですが、我々はむしろ「結構よくやった」という印象を持っています。12月末の数字もほぼ予定通りです。
 皆さんはNTTドコモさんやイー・モバイルさんと同じぐらいの契約数をいきなり取れると思っているのかもしれませんが、まだ開業半年ですし、エリアが拡大途中に加え販売チャネルの数もまだまだ少ない状況です。まずまずの結果といえるでしょう。

販売チャネルの手応えはどうですか。

田中 MVNOはKDDIの他にISP、家電量販店、商社が中心で、特に量販店が頑張ってくださっています。当初はWebからの直接契約の方が多くなると予想していたのですが、現在はMVNOが上回っています。今年は代理店を含め販売チャネルを拡充していきます。

WiMAXは理論値で下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsの高速データ通信が可能です。実効速度の現状はどうなっていますか。

田中 東京23区内の基地局建設がほぼ完成したことで、同エリア内の幹線道路の約8割で10Mbps前後のスピードが出ています。こうした地域は、次のステップである屋外カバーから屋内の不感地対策に重点をシフトしつつあり、現在、小型レピータ(中継装置)の準備を進めているところです。
 また、23区外の多摩地区、横浜、埼玉地区等は、さらに基地局の密度アップを推進し、WiMAXらしい速度が体験できるよう基地局整備を進めています。

実効速度を20Mbpsレベルに

携帯電話は今後HSPAやLTEと高速化が進むことで、データ通信市場での競争がさらに激しくなると見られます。

田中 当社にとって速度は一番の訴求ポイントなので、他社が高速データ通信サービスを始めても、速度では負けないようにするつもりです。そこで、近々には端末のファームウェアをバージョンアップし、20Mbpsレベルまでもう一段、実効速度を上げる予定です。

最大300Mbps以上の高速通信が可能になる次世代モバイルWiMAX規格「IEEE 802.16m」の導入についてはどのような計画ですか。

田中 システムの開発は順調に進んで来ています。2010年度中に公開試験をお見せしたいと考えています。

料金面では、12月から基本使用料の下限を業界最安の380円に引き下げた2段階定額プラン「UQ Step」を新たに開始するなど、選択肢を広げています。

田中 1日当たり600円で利用できる「UQ1Day」は、利用後30日間はお客様情報などを入力しなくても再度、IDとパスワードで利用申込ができることもあり、ユーザーの方に好評です。一方、月額4480円の完全定額プラン「UQ Flat」は、ハイエンドユーザーの間では「安い」と評価されていますが、ミドルレンジユーザーの間からは「使わない場合もお金を取られる」という声が聞かれます。こういったお客様の要望を解決するために、2段階定額プランを導入しました。
 実を言うと、サービス開始当初から同プランについては準備しており、導入時期を模索していました。これからさらに新しいプランを入れる可能性もありますが、種類をいっぺんに増やしてもお客様は混乱するだけかもしれませんので、タイミングが重要だと思っています。

基地局、速度、料金プランが充実してきたことで、「地歩を固めた」といえそうですね。2010年はどのようなことに取り組んでいくのですか。

田中 2010年の課題は3つあります。第一に、エリアをできるだけ早く広げることです。これが最も重要です。第二に、WiMAXの理解度をもっと上げたい。当社の犬や猫のCMはかなり人気があり、よく知られています。ところが、WiMAXを「ウィマックス」と呼ぶ方や、「WiMAXって何」と聞く方がいらっしゃるなど、CMと購買層の間がまだうまくつながっていないようです。もっとCMを工夫するなどして、WiMAXの理解度を上げていく必要があります。
 そして第三に、WiMAX内蔵PC(WiMAX PC)の市場シェアをさらに高め、新機種ではWiMAX PCをデフォルトにしたいと考えています。WiMAX PCはすでに16機種が発売されていますが、この1月から新モデルが20機種以上追加リリースされる見込みなので、B5ノートPCではデフォルト化に向けてかなり進展するのではないかと予想しています。
 振り返って09年は、WiMAX事業をロケットにたとえると、1段目は切り離すことができたかなと思います。しかし、軌道に乗せるためには市場である程度の認知がなされ、一定の数が出るところまで持っていかなければなりません。まだ2段目は切り離せていない状態だと思っています。

固定ソリューションの代替

軌道に乗るためには、WiMAXならではの製品など何らかの“追い風”が必要になります。

田中 そうですね。移動体通信市場は明らかに携帯電話からデータ通信カードの方に人気がシフトしてきています。そういう意味で今は、WiMAXにとって追い風です。しかしながら、私は本格的なモバイルデータ利用というのは、コンシューマーでも法人でも始まったばかりだと思っています。イー・モバイルさんはデータ通信カードとネットブックのセット販売により、これまでPCを持っていなかった人を中心に加入者を大幅に増やしましたが、PCの外でのモバイル利用はまだまだこれからです。
 一方、企業においても、移動中や外出先で仕事をする本格的なモバイルワークは一部では始まっていますが、全体ではまだこれからです。
 そうした中で、普段でもPCを持ち歩く人が以前と比べて格段に増えつつあるので、我々は、モバイル利用の本命ソリューションとして、PCへのWiMAX搭載を積極的に進め、企業のモバイル活用の動きを加速させたいと考えています。

スマートフォンやMIDのように、携帯電話とPCの中間領域も注目されています。

田中 例えば大阪出張の場合、日帰りではまだまだPCを持たない人が多いのですが、1泊になるとPCを持って行く人が多くなってきました。これは、ビジネスが翌朝まで待ってくれなくなっていること、その業務は携帯電話では処理できずPCが必要だということかと思っています。
 確かに普段でもPCを持ち運ぶ人が多くなってきていますが、ちょっとした移動だとPCは重いですよね。でも、携帯電話だと十分ではありません。例えば、メールの添付ファイルを見るにはさすがに携帯電話の画面では厳しいと思います。iPod touchは、最近ビジネスでも使われるようになっていますが、携帯電話と比べると見るのは非常に洗練されていますが、入力となるとまだまだ改善の余地があります。
 こうしたことから、2010年はスマートフォンやMIDのような中間領域分野がもう少し広がっていくのではないかと見ています。当社はもともとPCから入ったことから、まずはWiMAX内蔵PCでPC事業を軌道に乗せたうえで、PCと携帯電話の中間に位置するような端末に取り組んでいきます。その際、従来にはないWiMAXらしい新しいカテゴリーを作ることができたらと考えています。

WiMAXは特に法人ユーザーに人気があるといわれます。

田中 法人の場合、まず速度に対するニーズや使い勝手に対する要求が高いことから、WiMAX内蔵PCの普及が進むと思います。また、それ以外のアプリケーションとして、デジタルサイネージやテレメトリングなど各種組込み利用に向いていることから、法人からいろいろな問い合わせがあります。
 これらのアプリケーションは当初から予想していましたが、予想外なことにオフィス内でWiMAXをWiFiの代わりに利用しようというニーズが寄せられています。オフィスで利用する無線LANというと普通はWiFiですが、セキュリティに不安があるというのが理由のようです。
 無線は安価でモビリティも高いので、固定のソリューションで無理にLANケーブルを引いていたところなどもいずれ無線に代わっていくと見ており、大きな市場が期待できます。
 デジタルサイネージも、LANケーブルを引くよりも無線の方が楽です。当社でも、これまで固定のソリューションではできていなかったところに積極的に取り組んでいきます。

2010年のある時期に「WiMAXらしい新たな使い方の提案」をされるそうですが、どのような方向性の内容になるのですか。

田中 具体的なことはお話できませんが、今でもいくつかの新しい使い方が出てきています。1つ目は、WiMAX内蔵PCは上フタを開けるとすぐにネットに接続できるので、屋外でも、常時ネットにつながっている不思議な感覚を持つことができます。ここから新たなことが生まれるのではないかと思っています。
 また、すでに発売されている製品の中にも面白い使い方ができるものがあります。その1つが「WiMAX WiFi対応モバイルゲートウェイ」で、iPod Touchやゲーム機を外出先で利用するときに使うのが当初考えられた用途です。ところが、それを訪問先の会社の会議室の窓際に置いて、WiMAXを搭載していないPCも含めてインターネットVPN接続を可能にし、出先でも会社にいるような感覚で情報シェアするなどの用途で使われているそうです。
 携帯電話は垂直統合モデルなので、通信事業者が考えた企画がそのまま商品になりますが、WiMAXはむしろユーザーの方でいろいろな使い方を考えてくださっているようです。

今後の事業展開における抱負をお聞かせください。

田中 今年は、WiMAXを軌道に乗せるということが大目標ですが、その前提として、我々はこれからもずっとこだわっていこうと思っていることが3点あります。1つはWiMAXの特徴である通信速度です。2つ目はCS(顧客満足度)で、UQの料金プランは期間拘束がなく、解約しても違約金を取らないことからお客様に好評です。そして3つ目として、マーケットの声に常に耳を傾けてWiMAXを使う新しいアプリケーションを積極的に支援していくということです。

(聞き手・土谷宜弘)

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