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建国編
切捨
数日後、皇国会議に出席したカストール伯爵は、伯爵家の責任はないと主張する

「何をおっしゃるか??。アーシャ殿は貴殿の次男。カストール家の責任は免れませんぞ」
「アーシャは確かに我が次男ですが、もはやカストール家には縁なき者です」
「どういうことですか!!」
「彼に対しては正式に勘当いたしました。いや、騎士として国に仕えると決まったとき、カストール家の者ではなくなったのです」

「・・ち、父上、何を仰るのですか?勘当など私は聞いておりません!!」
アーシャが悲鳴を上げる。カストール伯爵は今まで優秀な息子である自分を愛し、跡継ぎにすると公言していたはず。自分を切り捨てるつもりかと睨みつける。

「アーシャ。父として最後の言葉だ。お前は騎士になる時、カストール家よりも優先してフリージア皇国に忠誠を誓ったはず。お前が今生きているのも国からの禄を食んでいるからだ。そうである以上、お前はカストール家の者ではない。」
カストール伯爵が冷たく言う。

「・・言われてみれば一理ありますな」
「確かに勇者生贄計画に加担した時点では、身分は皇軍獅子騎士団副長でしたな」
「騎士団副長として失敗した責任を、実家に持っていくというのはいささか筋違いではないかと・・」
カストール伯爵の根回しを受けた有力貴族たちが同意する。

「確かになぁ。伯爵家に残った男子とはドンコイのみ。ドンコイの行いなら伯爵家にも責任があるが、騎士団副長殿の責任は騎士団にとってもらうべきだよなぁ」
ニヤニヤと笑いながら第一王子カリグラが言う。

(こ、この無能王子めが!まさかあの豚に買収されて・・くっ この私がなんという屈辱を。これはドンコイの策略に違いない。あの無能者が余計な事を父上に吹き込んだのだ。卑怯者め・・)

今まで散々見下しあざ笑っていたドンコイに、アーシャは確実に追い詰められていた。

翌日、騎士団に対しての命令が下った。

「皇軍獅子騎士団は魔国に赴き、改めて経緯を確認して、勇者を丁重にフリージア皇国まで移送せよ。命令があるまで決して手を出してはならない。責任者はアーシャ副長を任命する。また、この命令は完全に非公式のものとし、途中何があっても国は関与しない」
「・・・謹んで拝命します」
騎士団100人のみで魔王亡き後の混乱している魔国に非公式に潜入し、勇者を丁重に連れ帰れという、半ば死んで来いというのと同様の命令である。
アーシャは観念し、膝を付いて命令を受けた。
「これでよかったのであろうか・・」
カストール伯爵が懊悩する。
「ご心配なく。どう転ぼうが、カストール伯爵家は安泰です」
「なぜだ。」
「アーシャが勇者と和解すればそれもよし。アーシャが勇者を暗殺すればそれもよし。勇者がアーシャの処分を求めてもそれもよし。どのような結果になろうが、カストール家に被害はありません」
ドンコイがしたり顔で言う。

「だが、もしアーシャが勇者と和解すれば、自分を切り捨てたカストール家に対して復讐を企てるぞ」
「ああ、その場合は生贄が必要ですな」
「生贄だと!!これ以上誰を犠牲にするというのだ!!」
伯爵が激昂する。

「決まっておるではありませんか。私ですよ」
ドンコイが涼しい顔で言う。
「なに・・・・?」
意外そうな顔をする伯爵。
「つまり、アーシャを切り捨てる事を提案した、私を勘当するなりアーシャに差し出すなりすべきでしょう」
「き・・貴様。一体何を考えているのだ。お前の考えていることはわからん」

今まで、ドンコイの事をすべてわかっていたはずだった。出来の悪い息子として見限ったはずだった。
しかし、今までの態度が仮面をかぶっていたとわかった後は、ひたすら不気味さを感じていた。

「やれやれ。情けないですぞ父上。我等兄弟に対して常に伯爵家の為に行動しろと説いていたではありませんか」
「それは・・貴族としては当然のことだが」
「ふふ。私が家中でどう思われているか、すべてわかっております。剣でも学問でも容姿でもアーシャにかなわないと知れわたった頃から、父上やアーシャや家臣の見下す目。無能者とあざ笑う声、すべて私に届いておりました。」
ドンコイが父親を睨みつける。

「・・お前は・・」
ドンコイの濁った目に見据えられて、伯爵は身震いした。
「ですが、私はこれでも長男です。カストール家の為に役に立て、自らより家の事を考えろという教育はしっかりと根付いております。だから私は考えました。アーシャの逆を行こうと」
「逆だと・・」
「アーシャが痩せて美しくなるなら、私は太って醜くなりました。アーシャが金に執着せず清いとこを見せると、私は金を横領して溜め込みました。
アーシャが騎士や兵士達と修行して力をつけると、私は惰弱で放蕩者の貴族たちと遊びまわりました。アーシャが美しい王女と恋愛をはぐくむと、私は娼館に入り浸りました。アーシャが父上や家臣の評判を上げると、私は逆に評判をさげました」

「な・・なぜだ。わかってて今までなぜその様な事をしてきたのだ!!!」
「なぜですと?カストール伯爵家の為です。アーシャが伯爵家を継ぐなら、私はすべての悪評を背負って消えましょう。それでアーシャが伯爵家を掌握できるでしょう。もしアーシャが気の緩みでつまらぬ醜聞をたてれば、私が身代わりになることが出来るでしょう」
「・・・・・」
「私がごく潰しの放蕩者である限り、家中はまとまっていたのです。アーシャを立てることで」

「・・・そのような事を考えておったのか。我等はお前の演技を見抜けず、騙されていたのか」
疲れた声で伯爵が言う。

「だが、それもすべてアーシャが順調に行っていればのことです。今回のような国を揺るがす失態をしでかした場合、アーシャのせいでカストール伯爵家そのものの存続が危ぶまれているのです。魔王を倒した勇者が戻ってきて、アーシャを裏切り者と非難した時、誰もかばうことなどできません。今までの実績も名声も地に堕ちて、うすぎたない裏切り者として滅ぼされるでしょう。我等も確実に巻き込まれます」
「・・そうだな」
「今までアーシャの味方だった清い者達はアーシャが失敗したとき、手のひらを返すように敵に回るでしょう。清い者を代表としていたカストール家の味方はいなくなります。そのような時にこそ、私の濁った生き方が生きてくるのです。今まで彼を妬んでいた醜く濁り堕落した者たちは、私を押し立てて彼に対抗させるでしょう。結果、カストール家は救われるのです。」
ドンコイが目を伏せる。

「・・私は今までお前を見損なっていた。お前はお前なりに考えていたのだな。伯爵家を継ぐのは、お前こそがふさわしいのかもしれん」
「それはわかりません。器量、時の運、状況によります。誤ちを謝罪して勇者をわが国に引き込めるか、あるいは愚かにも勇者に敵対を続けるか。前者ならアーシャは一国の重鎮となるにふさわしい器量を示す事になるでしょう。私は自分なりの器量を示しました。後はアーシャ次第です。」
ドンコイは静かに言う。部屋には沈黙がおりた。

フリージア皇国、教会。
「ナムール街に侵入していた間者から、勇者についての情報を集めた手紙が伝書鳩で届きました。」
ノーマンが報告する
「ふむ。勇者がどうやってかは知らぬが魔王を倒した後、ナムールの街に来ていたのだな。そこで奴隷を解放したと」
「はい。ナムールの街では解放された奴隷が話を広め、噂になっております。領主やヤクザの首領が消え、不当に奴隷にされそうになっていた者達が助けられたと。それをしたのが勇者を名乗る少年と、魔王を名乗る少女だと」
「魔王を名乗る少女じゃと?」
マリコル大神官が首をかしげる
「はい。おそらくは、人質にされたメアリー王女かと」
「ふむ。あの小娘も生き残っておったか。しかも魔王を名乗るとは・・」
「はい。この話を使えば、勇者を堕ちた偶像にすることができるでしょう」
ノーマンが笑う。
「よし。光の国にある大神殿にはワシが報告しよう。お前は勇者が魔王と結託して魔族に協力していると広めよ」
「了解いたしました」

その後、国中の神殿に使いを出し、勇者が裏切り魔王と結託したという噂を流した。

フリージア城
玉座の前で膝をつくアーシャ。
「アーシャよ。いよいよ明日出発か。余が望んだ事ではないが、こうでもしないと貴族どもの不満は抑えられん」
へラート国王がアーシャに話しかける。
「陛下のご厚情感謝いたします。必ず勇者を探し出して連れてまいります」
アーシャが言う。
「・・アーシャと話がある。全員退出せよ」
玉座の間にいる者に退出を命じ、部屋の中には二人になった。

「アーシャよ。余は正直お主と、メルトに次代のこの国を任せるつもりであった。玉座が誰のものになるかは別として、実権はな」
「身に余る言葉、勿体のうございます」
「だが、ここまで貴族の間に不信感が広まると、そうも言ってられなくなる」
王の言葉に肩を落とすアーシャ。

「アーシャだけの話ではない。メルトも、余も今回の件で立場が危うくなっておる。もはや、勇者は存在するだけでフリージア皇国の害となる」
ハッとして顔をあげるアーシャ。
「よいな、今回は非公式での任務じゃ。つまり、お主も騎士団も皇都から動いていない事になっておる。対外的にはな」
「それは・・」
「国の支援を受けられぬということじゃ。同時に国の制約もない」
「・・わかりました。」
国王の意を察するアーシャ。

「よいか、必ずフリージア皇国の害を取り除け。それさえ出来れば、後のことはどうにでもなる」
「はっ。必ず陛下の意に沿うようにいたします」
頭を下げるアーシャ。
「・・・メルトに会って行くがいい。お主の為に祈る女は、男に確実に力を与えてくれるものじゃ」
「重ね重ねのご配慮、誠にありがとうございます。もはや父にも見捨てられたこの身、陛下とメルト王女にすべてをささげます」
アーシャは涙を流して礼をいい、退出していった。
(・・この試練を乗り越える事が出来れば、父として安心して娘を託せる。頼むぞ・)
退出していくアーシャの後姿を見つめながら、へラート国王は思った。

「アーシャ様・・」
「メルト様・・・・」
メルト王女の私室で抱き合う二人。
「必ず、必ずあの憎き勇者を滅ぼして帰ってきてください。そうしたら、私と・・」
「はい。その時には、堂々とメルト様に求婚させていただきます」
恋人同士の逢瀬はいつまでも続く。二人はこの時だけは幸せだった



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