デスクでゲラと格闘中。
カラフルな付箋や文具、資料が、ところ狭しと並んでいる。

校閲室の基本的な仕事内容は?
「校正・校閲」と「校了までの進行管理」のふたつが軸になります。
通常は書籍が刊行されるほぼ4か月前に担当する作品が決まりますので、発売日から逆算してスケジュールを組み立てていきます。著者、編集者、外部の校正者、印刷会社の仲立ちとなって、スムーズに進行するように入朱や疑問点をまとめたり、日程を調整します。発売の1か月前に校了し、本になるのを待つ、というのが大まかな流れです。
「校正」は、原稿が指定どおり正しく組まれているか、誤字・脱字・衍字(えんじ)などがないかを確認する作業のことで、「校閲」は、作品の舞台となっている時代背景や事実関係に間違いはないか、前後の内容に矛盾はないか、差別的な表現はないか、用字用語は正しいかなどを見ます。署名原稿ですので文体に手を入れるということはありませんが、誤っていたり、疑問点があるときは、資料にあたって裏付けをとったうえで、著者に伺うようにしています。

著者や印刷会社の方が読みやすいように、
校正紙には丁寧に修正指示が書き込まれる。

仕事を進めるうえでのこだわりは?
校了まで3か月間作品とつきあいますので、気を抜かず手を抜かず、いかに集中力を持続させるかということですね。現在、宮本輝先生の『水のかたち』という上下巻で700ページ以上ある作品を担当しているのですが、仕事を終えて帰宅しても、「どこか確認を忘れているんじゃないか」と不安になることもあります。
作家が大御所でも若手の方でも関係なく、疑問に感じた部分は率直に提示するようにしています。作家の属性によって対応が変わるのは編集者の仕事で、我々はそこから離れて、虚心に作品にあたることが大切だと思っています。

編集者と打ち合わせ。
ときには進行状況や表現をめぐって、激論を交わすことも!?

校閲室ならではのやりがいとは?
最近は編集者を通じて、「たいへんよくやっている」「集英社の校閲室が見てくれるのなら安心だ」と名誉なことを言ってくださる作家の方もいて、ありがたく感じています。
また、対読者でいえば、少しでも間違いのないよい作品を世の中に送り出せるか、ということに尽きると思います。発売後しばらくたっても外部から誤りの指摘などがないときは、「なんとかなったかな」とほっとした心持ちになります。

迷ったり、疑問を感じたときは、他のスタッフにアドバイスを
求めることも少なくない。

職場の雰囲気は?
みんな自分の仕事に没頭しているので、どちらかというと静かな職場です。ただ、ひとりですべてを解決しようとすると視野が狭くなってしまいますので、他のスタッフと意見交換したり、アドバイスをもらうこともあります。ふだんは穏やかな人が多いのですが、仕事に関しては「大事なことは譲らない」頑固な一面も持ち合わせているように思います(笑)。

今まで携わってきた作品の一部。ジャンルに関係なく、
常に2、3点並行して担当する。

校閲室が求める人材とは?
「日本語の感覚」が他人より鋭敏であること、そして「調べる力」が磨かれていることですね。ひとりの人間の知識量なんて大したものではありませんから、何を調べれば欲しいデータを得られるのか、例えば歴史小説のこういう記述であれば『徳川実紀』にあたればわかる、といったような感性を持っていることが重要になります。もちろんその前提として、校閲の仕事は地道なことの積み重ねですから、労を惜しまずにコツコツとやっていける真面目さ、几帳面さは不可欠かもしれません。
また、一緒に本をつくり上げていく校正者や編集者との意思疎通も欠かせませんので、原稿に没入するだけでなく、社交性も必要です。

「コーヒーは一日3杯程度です」。
根を詰め過ぎないよう適度に休憩をとることも大切。

今後の展開について
私自身、前職は新聞社で働いていたんです。新聞はデイリーですが、書籍は3か月、4か月と時間をかけて世に送り出すので、はじめは100メートル走者がマラソンを走っているような戸惑いもありました。
活版の時代から新聞CTS、デジタル組版まで見てきましたが、校閲の仕事はヒューマンで職人的な要素が大きいからでしょうか、基本自体はあまり変わっていないように思います。それでもInDesignのような新しい技術やシステムに対する基礎知識は、常に学んでいかなければいけないと感じています。