ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
週刊 上杉隆
【第16回】 2012年10月4日
著者・コラム紹介バックナンバー
上杉 隆 [(株)NO BORDER代表取締役]

放射能事故の実態をめぐる報道で
ようやく変わり始めた日本の空気感

previous page
5

 また、そのための作業である新メディアの設立に時間を費やしたかったということもある。そういえば、驚くべきことだが、原発事故と放射能の問題で、私自身に直接質問を投げかけてきたジャーナリストや知識人は、この一年半、いまに至るまで、畠山理仁氏とプチ鹿島氏と朝日新聞の奥山俊弘記者の3人だけである(ただし、奥山氏は私の反論と発言だけを削除して記事にするというアンフェアなことをしでかしたが――)。

 実は、勇ましいことを述べている他の人は、陰でいろいろ言っているだけにすぎないのだ。

 いや、私のことなどどうでもいいだろう。しょせん、先ほども述べたようにこうした状況に陥ることはあらかじめ予測していたのだからだ。

 ただ、今回こうやって初めてこの件について触れたのには理由がある。

 それは、いまようやく、震災から一年半が経って、日本の空気感が変わり始めたという実感があるからだ。その兆しは大切にしなくてはならない。

 具体的には、これまで県民の健康被害やそれにともなう隠蔽、そうした現実を直視してこなかった大手メディアの報道ですら変化を余儀なくされたということだ。被ばくの安全を訴えてきた斗ケ沢秀俊記者のいる毎日新聞が、一面トップの記事でそれに触れたのが何よりその象徴だ。

 果たして、江川氏や斗ケ沢氏は今回の毎日新聞の記事を「デマ」や「ウソ」と言うのだろうか?

 今、ジャーナリストであり続けたいと願うならば、それこそ現実を直視せず、時代の雰囲気に呑まれてしまったこうした知識人たちこそ変わるべき時期に来たのではないだろうか。

 みな個別に取材して、個別に自分の信じたことを報じる。それこそが筆者が米国の新聞で学んだ多様性を重視するジャーナリズム本来のあり方ではないか。

 日本で報道に携わる人々が、早くそうできるようになることを、元ジャーナリストとして、私は心から願っている。

previous page
5
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事


DOLSpecial

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

話題の記事


上杉 隆 [(株)NO BORDER代表取締役]

株式会社NO BORDER代表取締役。社団法人自由報道協会代表。元ジャーナリスト。1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局記者、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者、フリージャーナリストなどを経て現在に至る。著書に『石原慎太郎「5人の参謀」』 『田中真紀子の恩讐』 『議員秘書という仮面―彼らは何でも知っている』 『田中真紀子の正体』 『小泉の勝利 メディアの敗北』 『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』 『ジャーナリズム崩壊』 『宰相不在―崩壊する政治とメディアを読み解く』 『世襲議員のからくり』 『民主党政権は日本をどう変えるのか』 『政権交代の内幕』 『記者クラブ崩壊 新聞・テレビとの200日戦争』 『暴走検察』 『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』 『上杉隆の40字で答えなさい~きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」~』 『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』 『小鳥と柴犬と小沢イチローと』 『永田町奇譚』(共著) 『ウィキリークス以後の日本 自由報道協会(仮)とメディア革命』 『この国の「問題点」続・上杉隆の40字で答えなさい』 『報道災害【原発編】 事実を伝えないメディアの大罪』(共著) 『放課後ゴルフ倶楽部』 『だからテレビに嫌われる』(堀江貴文との共著)  『有事対応コミュニケーション力』(共著) 『国家の恥 一億総洗脳化の真実』 『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』 『大手メディアが隠す ニュースにならなかったあぶない真実』


週刊 上杉隆

芸能・スポーツから政治、原発問題まで、(株)NO BORDER代表・上杉隆が鋭く斬り込む週刊コラム。

「週刊 上杉隆」

⇒バックナンバー一覧