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【放送芸能】

「アウトレイジ」続編 北野武監督 ヤクザ+エンタメ 今を描く

 北野武監督の最新作映画「アウトレイジ ビヨンド」が6日から、新宿バルト9などで公開される。青を用いた静けさのある映像や自分史、死と暴力…。北野作品はさまざまな側面を見せてきたが、前作に続くヤクザ映画。エンターテインメント性を重視したというが、なぜ今ヤクザ、そしてエンタメなのか。北野監督に話を聞いた。  (小田克也)

 新作は、関東の暴力団が勢力を伸ばしたため、警察が、関西の暴力団と対立させて共倒れをもくろみ、そこに過去のしがらみなどが絡んでくる。

 ヤクザに戻るのを嫌がっていたが、抗争に巻き込まれていく大友(ビートたけし)、暗躍する刑事・片岡(小日向文世)、経済の最新知識を駆使し、古参幹部を排除する若頭の石原(加瀬亮)…。

 殺すか殺されるかの緊張がラストまで続く。登場人物は男ばかり。女性はほとんど登場しない。北野監督は「ひたすら上を目指す刑事やヤクザを描くのにサブストーリーはいらない。家庭とか付随する社会を描くと、観客の主人公への気持ちが揺れる」と理由を明かす。

 ただ残酷な描写は極端に少なく、激しいのは言葉の応酬。「大阪弁と関東弁のけんかとか、言葉の暴力をやってみようと。漫才も同じだが、映画でやるとどうなるか…」

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 北野監督が自身の姿を投影したともいえる貧しい画家が主人公の「アキレスと亀」(2008年)から、「アウトレイジ」(10年)「アウトレイジ ビヨンド」とヤクザ映画に転じた。

 「やる気はあまりなかったが、みんなが面白いという映画を撮ってみるかと。エンターテインメントを気にしてみようと思った。昔、青山に屋台のおでん屋があって、客が入ると店を持ち、失敗すると、また屋台をひいて…。これで稼いだらアート的な作品を撮って、失敗してまたアウトレイジのようなエンターテインメントを撮る予感はあるが…」

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 エンタメを意識したとはいえ、従来のヤクザ映画の義理人情の世界とは異なり、昔のヨーロッパのギャング映画のような虚無的な雰囲気が漂う。「乾いているというのか…。『兄弟』とか言いながら、どうやってこいつを外そうかと考えている。バックボーンはヨーロッパのギャング。イタリアでは、マフィア映画ですねと言われたけど…」 

 何も生み出さないヤクザ同士の無益な争いは、政治も経済も閉塞(へいそく)感が漂う国内の現状を思わせる。北野監督は任侠(にんきょう)物の映画の変遷について「高倉健さんから深作欣二監督にきて、その先はVシネマに行ってしまった。映画としてはまだ先がある」と見る。娯楽でありながら、時代を映し出す映画としての可能性をヤクザ映画に見いだしているようだ。エンタメにこだわりながらも、冒頭、クルマが海からゆっくり引き上げられる場面など、北野監督ならではの描写が随所にみられる。

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 監督が自作の続編を撮るのは初めて。「ゴッドファーザー」のようなシリーズを構想しているとも取れるが「米国はマフィアを描けば、移民、政治、貧困…と出てくる。日本では、そうした歴史を描きにくい。だから現在のヤクザと警察のやり合いというか…。米国映画に興味がなくはないが、やれるとは思わない。バックボーンが違う」。

 新作はキャストの豪華さも魅力の一つ。「高橋克典に『殺し屋やる? せりふないけど』と言ったら『それでもいい』と。そう言われると、せりふがなくても際立つように撮らないといけないから苦労したよね」。むろんビートたけし演じる大友がすごみを帯びていくのが最大の見どころ。アウトレイジは英語で、非道な行為などの意味。

 

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