安藤美姫とマリア・シャラポワ

安藤美姫17歳 ’06トリノ五輪へ/2

 ◇65歳の「ジャンプ娘」と

 米クリーブランドの貸し切りリンクに大きな声が響き渡る。声の主は1960年米スコーバレー五輪女子金メダリストのキャロル・ヘイス・ジェンキンス、65歳だ。「ワンダフル。随分良くなった」。新コーチの言葉に安藤美姫が笑顔で応える。「最初からスムーズに入っていけた」。祖母と孫ほど年の離れた師弟関係は順調に滑り出した。

 人見知りの激しい安藤がすぐに打ち解けた。1日、空港に56年イタリア・コルティナダンペッツォ五輪男子金メダリストでもある夫のヘイズ・アラン・ジェンキンス(72)と迎えに来た。束ねた金髪。背筋が伸び、気品が漂う。笑みをたたえながらの言葉に安藤は優しさとぬくもりを感じた。

 ヘイスは4月に腰の整形手術を受け、松葉づえなしでは歩けない。日本スケート連盟からのコーチ就任要請に、いったんは「6月になれば、スケート靴を履いて指導できる」と延期を申し入れた。だが、五輪シーズンの重要性を知るだけに「1カ月はおろか、1週間さえも無駄にはできない」と受け入れを決めた。

 レッスンはもちろん、車の移動も腰への負担は大きい。それでも世界選手権5連覇の名選手は、つらい顔など見せない。現役時代、女子で初めてダブルアクセル(2回転半ジャンプ)を跳び、「ジャンプ娘」と呼ばれた元気の良さは相変わらず。安藤には、よく通る声での称賛を惜しまず、身ぶり手ぶりを交えながらアドバイスを出す。

 「フィギュアを始めたころのように、スケートを楽しいと思わせてくれそう」。ほとばしるような情熱を肌で感じている安藤の第一印象は確信へと変わりつつある。=敬称略(つづく)<文・張智彦/写真・貝塚太一>

毎日新聞 2005年5月10日 大阪夕刊
by markzu2B | 2005-05-11 23:59