Fate/EXTRA〜騎士王と聖杯戦争〜 (松本 雅明)
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第五話『西欧財閥』

 目を覚ますと待機室に備わっていた窓から青白い光が差し込んでいる。ぼやけて見えない視界で辺りを見渡す。


「おはようございます、煉児」


 横には正座をして此方を見ているセイバーの姿があった。先程見ていた夢は一体なんだったんだろうか……。曖昧なまま起き上がり布団を畳み、制服に着替える。


「じゃあ、朝食を取りに行こうか」


◆◇◆◇◆◇


 セイバーは昨日と同様にサバの味噌煮定食を、自分はカレーライスを食べていると目の前の席に赤いワンピースの少女こと遠坂凛がトレイを片手に座って来た。


「お食事中ゴメンね煉児君。席空いてるのここしかなかったから」


「とっ、遠坂……」


「ここでは食事をしなくても健康は保たれるものなんだけど……、習慣で食べてしまうのよね」


 遠坂のトレイの上には焼きそばパンしか乗っていない。そんな事を考えていると、後ろから何か驚く声が聞こえる。後ろを振り返ると、慎二の姿があった。どうやら、自分より遠坂の方を見て驚いているようだった。


「予選の時の女!?煉児……お前まさかこいつと手を組むんじゃ」


「あら、アジア圏有数のクラッカーが随分と弱気なのね?マトウシンジ君」


「なっ!?何で僕の名前を知ってるんだ!!」


「予選の時はマークしていたけど、ゲーム感覚で参加してるお気楽な人なら大したことなさそうね」


 遠坂の挑発的な言葉に言葉を失う慎二。遠坂は瞼を閉じ、再び口を開き


「周りを見て見なさい。結構な大物も、この聖杯戦争に参加しているわ。警戒してないのは貴方達だけよ」


「みんな聖杯を手に入れる為に参加してるのか?聖杯って一体何なんだ……」


「わたしも実物を見たわけじゃないから詳しい事は口に出来ないわ。けれど、その実在と願望器としての力は間違いないと言っていいでしょうね。何しろ西欧財閥がわざわざ封印指定にしたってくらいだから、聖杯に眠っている力は計り知れない。世界を容易に変え得るほどのものよ」


 すると、自分の言葉を遮るように前方から歩いてくる少年が口を開く。


「そうです遠坂凛。聖杯は僕達の管理下に置かせてもらいます」


 声の主の方を向く。そこにはオレンジ色の服に身を包んだ西洋の少年と、白い鎧を纏った金髪の騎士がこちらに向かって歩いて来る。通り過ぎるマスター達は驚きの顔を隠せず、少年の顔を見て固まっている。


「みなさん、ごきげんよう」


少年は涼しい表情で周りのマスター達に挨拶していく。しかし、彼の挨拶に平然と返事を返す者はいない。


「遠坂……彼は?」


「さっき言っていた西欧財閥の次期盟主で実質的、地上の支配者」


 遠坂は一拍置き


「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ……」


 少年、レオは片目を瞑り遠坂の方を向き


「レオでいいですよ遠坂さん。直接お会いするのは初めてですね、貴方ほどの人が参加しているとは楽しみです。貴方の行動力にはハーウェイアジア支部も手を焼いていましたよ」


御自(おんみずか)ら出陣とはね。……いいじゃない、地上での借り天上で返してあげる」


 すると、レオは自分の方に向き口元を緩め


「そして志波煉児さん、僕はあなたが興味深い。あの状況でサーヴァントを引き当て、彼の攻撃を防ぐとは」


 何故レオが自分の事を知っているのか?しかも、セイバーと初めて出会った事までも。


「ガウェイン、紹介を」


 ガウェインと呼ばれるレオの後ろにいる騎士はレオの問いかけに頷けば、一歩自分達に近づき


従者(サーヴァント)のガウェインと申します。以後、お見知りおきを。どうか我が主のよき好敵手であらんことを」


 瞬間、さっきまでサバの味噌煮定食を食べていたセイバーが焦るように立ち上がり


「何!?ガウェインだと……」


 セイバーの驚きを隠せず頬から一滴の汗が流れ落ちる。ガウェインはセイバーの方を向けば少し目を見開くが、すぐに元の表情に戻ればレオの後ろへと戻っていく。


「おまえ!この僕を随分と無視してくれるじゃないか。言っておくけどな!このゲームに勝つのはこの僕だ!ハーウェイだか知らないけど生意気だぞ!!」


 慎二が顔を真っ赤にしてレオに噛み付いている。慎二の言葉から、自分の存在がアジア圏有数のクラッカーなのに遠坂や自分よりない事に怒っているように見える。しかし、レオが返した言葉は


「……それは失礼しました。申し訳ございません、知らず不快な思いをさせてしまったのですね。あなたの()()()は?」


「なっ、舐めやがって……。来いっ!!ライダー!!」


 爽やかな笑みで慎二の名前を問いかける。自分の事を眼中にないレオの発言に堪忍袋の緒が切れたのか、慎二は霊体でいるサーヴァントを無理やり呼び出す。慎二のサーヴァント、ライダーは頬を掻きながら慎二を横目で見据え


「小僧、相手の挑発に易々と乗らない方がよいぞ?それにここで戦うのか?」


「うるさい!!いいから、アイツのサーヴァントを叩きのめせ」


 周囲のざわめきも気にせず攻撃命令を下されたライダーはハァとため息を吐けば腰に納まっている刀を引き抜き、構える。ガウェインもレオを守護するべく、レオの前に立てば一本の剣を掴み前方に構える。


(ガウェイン……そうか、彼は円卓の騎士の一人「ガウェイン卿」が真名なのか)


 などと考えてしまうが、そんな場合ではない。そうこうしている内に、二人のサーヴァントの剣が混じり合い刃と刃がぶつかり合う事で発生する風圧が此方まで飛んでくる。


「遠坂、早く二人を止めないと」


 遠坂に二人を止めるように促そうとするが、彼女はガウェインが戦う姿を目視している。それよりか、他のマスター達も戦いを止めようとせずレオのサーヴァントのガウェインを目視している。


「そこまでだ」


 二人の前に神父の格好をした男、言峰神父が現れ二人の戦いを強制的に終了させる。


「僕の指図をするなっ!!」


 慎二は言峰神父に魔術を行うが何も起こらない。


 言峰神父はフフッと笑みを浮かべれば慎二の方を向き


「間桐慎二とレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ、規則違反で君達のマスターのステータス低下を行使する。遺言はないな?」


「グッ……」


 学園内での戦闘は禁止されている。その規則を破った二人は罰則としてマスターのステータス低下をされた。慎二は苦悶の表情を浮かべているが、レオは涼しい顔をしている。


「命拾いしたな、レオ。次はないからなっ!!」


 そう言い残すと、慎二は踵を返し食堂を後にする。レオも食堂にいるマスター達に軽く会釈すればガウェインと共に食堂から一階へ繋がる階段へ消えて行った。


 嵐が過ぎ去ったような静けさが訪れれば、他のマスター達は途中であった食事を再開していく。遠坂も食事を始めていたので自分も席に着きスプーンを動かしていく。セイバーはまだ立ったままだ。


「セイバー?」


 自分の声に我に返ったセイバーは、少し暗い表情で席に着き食事を再開する。


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