ここから本文エリア 企画特集1
(上)国は一方的に存在否定2012年05月01日
■「あるはずない場所」に位置特定 電源開発が青森県大間町で建設中の大間原発近くの海底に「未知の大規模な活断層」があるとの専門家の指摘を、国が一方的に否定する文書を作っていたことがわかった。東日本大震災後、各地で活断層の再評価が進むが、大間は置き去りにされたままだ。最短で約23キロの距離にある対岸の函館市を中心に道内で反対の声が高まる中、その存在があいまいなまま震災後に止まった工事は再開されるのか。議論の足元を2回にわたり報告する。 「渡辺ほかが示す活断層を確認することができなかった」 東洋大の渡辺満久教授は、国の原子力安全・保安院が2010年4月に作成した文書を昨年秋に目にし、愕然とした。活断層が専門の変動地形学者で、08年秋に広島大の中田高名誉教授らとともに「(大間原発がある)下北半島沖の津軽海峡に活断層がある」と、日本活断層学会で発表。それを一方的に否定されていたからだ。 文書は、大間原発から約30キロ東に離れた下北半島に建設される使用済み核燃料の中間貯蔵施設の安全審査で、原子力安全委員会から渡辺氏らが指摘した活断層について見解を求められ作成。提出されていた。 強い力が働いて地層や岩石が過去に繰り返し大きくずれたことがあり、今後もずれる可能性があるのが活断層だ。ずれ動く時に地震が起きる。 陸上では、地面を掘って地層のずれから活断層を見つけられる。海底ではこの手法は難しく、音波で海底の様子を把握するのが中心だ。保安院が否定の材料に使ったのは、電源開発が08年5月の大間原発着工前に実施した音波探査記録だ。 渡辺氏らが問題視するのは、その否定の仕方だ。渡辺氏は「強い力でずれ動いた活断層は海底を盛り上がらせ、急な崖を作ることが多い。だから活断層は急な崖の根元にある、とまず考えるのが常道だ」と話す。 ところが、保安院が文書で「渡辺らによる推定活断層の位置」として矢印で指し示し、「確認できなかった」とした地点は水平な海底が多かった。渡辺氏は「そんな場所に活断層が存在するはずがない」と指摘する。 そもそも活断層学会で渡辺氏らは、海底活断層が存在する理由を詳しく論じる一方、位置は地形図をスライドで示して大まかに説明しただけだった。「想定する位置はどこか、との照会も一切なかった」のに、保安院はその位置を特定した文書を作った。文書の存在を知ったときは「稚拙で意図的だ」と感じた。 朝日新聞社は保安院に文書作成の背景に関する記録を情報公開請求したが、文書が存在しないとの回答だった。保安院耐震安全審査室は取材に「事業者が参考までに作成した図を引用した。活断層の位置を特定したものではない」と、文書で回答した。 中間貯蔵施設を持つ会社の広報担当者は「渡辺氏らとは話し合っていないが、活断層の位置がちょっと違っても活断層の有無を判断する議論の本質には影響しない。音波探査記録はすべて分析した」と反論した。 10年春の中間貯蔵施設の安全審査で保安院幹部は「大間の審査は結論が出ている」と、活断層の議論に釘を刺した。当時、原発推進は国策。渡辺氏らは「国は活断層の存在を認める訳にはいかないのだ」と感じた。大震災後、「脱原発依存」に変わっても、渡辺氏らが求める活断層の存在を前提とした大間原発の安全審査のやり直しが行われる兆しはない。
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