2012年9月24日(月)

緊張高まるペルシャ湾 合同演習の最新報告

原油輸送の大動脈、中東のペルシャ湾。
ここで今、アメリカ軍を中心に34か国が参加して合同演習が行われています。
ペルシャ湾では過去最大規模とされるこの演習。
想定しているのは、イランによる、ペルシャ湾入り口の封鎖です。
核開発をめぐって欧米と対立を深めるイラン。

アフマディネジャド大統領は、事態をどう見ているのか、NHKは単独インタビューを行いました。
 

アフマディネジャド大統領
「核エネルギーの利用はすべての国の権利。
それを奪うことは誰にもできない。」
 

緊迫するイラン情勢の今後を、最新情報をもとに、読み解きます。
 

傍田
「イランは、経済制裁を強める欧米諸国に対抗するため、ホルムズ海峡の封鎖も辞さないと警告してきました。」



 

鎌倉
「こちらの地図をご覧下さい。
そのホルムズ海峡は、ペルシャ湾の入り口に位置しています。
日本が輸入する原油のおよそ9割が通過するなど、世界で最も重要な原油の輸送路です。」
 

傍田
「イランによるホルムズ海峡の封鎖という事態を想定した今回の合同軍事演習。
NHKは、アメリカ軍、そして日本の海上自衛隊の船に乗船して現場で取材しました。」

海峡封鎖に備えペルシャ湾で合同演習

アメリカ軍を中心に34か国が参加したペルシャ湾では過去最大規模の軍事演習は、今月16日から12日間の日程で行われています。

中心的な役割を担うアメリカ海軍の洋上支援艦「ポンセ」に乗り込みました。
イランの革命防衛隊がホルムズ海峡周辺で得意としているのが、高速艇を使った作戦。
この日、ポンセでは不審船が警告を無視して近づいてくる事態に備えて警告射撃の訓練が行われていました。
さらに接近する不審船を常に警戒するために、重さ16キロの無人偵察機を飛ばします。
半径およそ50キロの範囲内を20時間以上飛行し、映像をリアルタイムで撮影し続ける能力があるということです。

別府記者
「こちらは、アメリカ海軍第五艦隊の洋上の支援艦ポンセです。
あちらに見えますのが掃海用ヘリコプター。
機雷を探査するセンサーを使って演習を行っています。」

演習の最大の目的は、イランによって大量の機雷がホルムズ海峡にまかれた事態に備えて、機雷を発見し、処理することです。

別府記者
「洋上には何時間くらい?」

海上自衛隊隊員
「今日は、ミッション自体は4~5時間。
後は、サポートの掃海艇がありますので、そこで今度は取ったデータの解析を。」

掃海部隊の能力では定評のある日本の海上自衛隊も訓練に参加し、存在感を示しました。
さらに、掃海艦「はちじょう」では、発見した機雷を処理するための訓練も行われました。
海中に投下されたのは機雷処分具です。
機雷に近づいて爆発物などを仕掛け、破壊することができます。

「ポンセ」 ジョン・ロジャース艦長
「世界中がホルムズ海峡を通る石油に頼っているから、機雷除去の態勢を作っておきたい。」

ホルムズ海峡が仮に封鎖されても、各国と協力し、打ち破る能力を示すことで、イランを牽制しようというアメリカ軍。
一方で、イランと敵対するイスラエルに対し、アメリカ軍がイランの脅威に対応していることをアピールすることで、はやまった軍事攻撃を押しとどめたいという狙いもうかがわせました。

アメリカ第5艦隊 ミラー司令官
「この地域の関係国とは頻繁に協議し、安定のために努力していると伝えている。」


 

鎌倉
「緊張が高まるペルシャ湾情勢を、イラン側はどのように見ているのでしょうか。
国連総会に出席するため、アメリカを訪問しているアフマディネジャド大統領が、NHKの単独インタビューに応じました。」

イラン大統領に聞く 合同演習をどう見る?

記者
「ペルシャ湾での合同演習をどう思いますか?」

イラン アフマディネジャド大統領
「今回の合同演習は大きな欠陥があります。
イランが参加してません。
外国の軍隊が来たのでこの地域が不安定になっているのです。」

記者
「アメリカやイスラエルが攻撃したら、ホルムズ海峡を閉鎖する可能性はありますか?」

イラン アフマディネジャド大統領
「歴史的にイランは、海峡の安定を維持してきました。
イランが脅威をもたらしたことは決してありません。」

イラン大統領に聞く イスラエルの脅威は?

イランの核関連施設への軍事攻撃も辞さない態度を示しているイスラエルについては。

イラン アフマディネジャド大統領
「イスラエルは行き詰まっています。
やぶれかぶれの戦略をとろうとしています。
イスラエルは攻撃したがっています。
しかし、イスラエルによる軍事攻撃など起こらないと思っています。」

イラン大統領に聞く 核開発問題は?

一方、核開発問題については、あくまで平和利用であり、その権利は譲れないと強調しました。

イラン アフマディネジャド大統領
「核兵器を持つ国が、ほかの国の発展を妨げようとしています。
平和目的の核エネルギーを、まるで核爆弾のように見なしています。
イランに関しては、核の問題が政治的に利用されているのです。
わたしたちは、核兵器に根本的に反対です。
『核の平和利用の権利と核兵器の廃絶』それが私たちの主張です。」

イラン大統領に聞く 核協議にどう臨む?

欧米など関係6か国との核協議が今年(2012年)6月以降、中断状態に陥っていることについては、核の平和利用の権利が認められれば、外交的解決の余地は残されていると、前向きな姿勢を示しました。


 

記者
「欧米が濃縮度20%のウランを提供すればイランは製造をやめると以前言いましたが、その考えは変わってませんか?」

イラン アフマディネジャド大統領
「欧米が提供してくれるなら製造はしません。
高くつくからです。
我々は欧米諸国に多くの提案をしいます。
今後も交渉が続くことを望んでいます。」

イラン大統領 発言の真意は?

傍田
「アフマディネジャド大統領に単独インタビューした、テヘラン支局の禰津記者に聞きます。
実際にインタビューしてみて、大統領の印象というものはどういうものでしたか。」

禰津記者
「過激な発言で知られるアフマディネジャド大統領ですが、終始穏やかな口調で、外交的な解決は可能だと繰り返していたのが印象的でした。
そして、イランに対する軍事的な圧力も強まる中、濃縮度20%のウランの製造については、条件付きで停止に応じる考えを示すなど、事態の打開に向けた糸口を見つけたいという意向も見せました。
ただ、核開発についてはあくまでも平和利用だとする従来からの主張を変えることはなく、インタビューの中では何度も『公平さを求めたい』と強調していました。
欧米が原子力技術を独占することは許さないと訴えることで、イランを途上国の代表として位置づけようとする狙いもうかがえました。
アフマディネジャド大統領は、26日に、大統領の任期中、最後となる国連総会での演説を行うことになっており、欧米との対立が深まる中で、その発言が注目されます。」

イラン情勢 イスラエルは?

鎌倉
「スタジオには、イラン情勢にお詳しい、日本エネルギー経済研究所・常務理事の田中浩一郎さんにお越し頂いています。」

傍田
「今の大統領のインタビュー、いくつかポイントがあったかと思うんですけれども、まずはイスラエルの出方ですね。
大統領の発言では、『イスラエルは攻撃したがっている。しかしこうした軍事攻撃は起こらない』こういう言い方をしていたんですけれども、これどこまで、どういった根拠があって大統領、こういった発言をしたというふうにお考えですか。

田中浩一郎さん
「イランの指導者はずっとそう言ってきているんですね。
やろうと思っても絶対にできないし、仮にそんなことをやれば、イスラエルにとっての身の破滅になるということで、逆の警告をしているんですけれども、物理的にその、全くできないかと言ったら恐らくそれはまた違う意味で間違っていると思いますので、十分に攻撃をですね、どこまで成功するかどうかは別にして、攻撃を行うこと自体はイスラエルの能力として備わっていると、私は思っています。
ですから、イラン側にとってみれば、少なくともそんな冒険をさせない方が最終的にはいいだろうということで、しないだろうということを言っているのかなと思います。」

傍田
「牽制の面がかなり強いということですか。」

田中浩一郎さん
「はい。」

イラン情勢 海峡封鎖は?

鎌倉
「それともう1点ですね、ホルムズ海峡封鎖の可能性について、今回の大統領のインタビューの中では、航行の安定、これを脅かすつもりはないという発言をしていますよね。
これはどう受け止めますか。」

田中浩一郎さん
「まず、普段の状況、つまり平時の状況ではですね、イランの原油輸出の9割ぐらいがやはりホルムズ海峡を通って出て行っている事には変わりがないんですね。
その状況で封鎖をするということ、ないしはその船舶の航行を妨害するということは、自らの首を絞めることでもあるので、ですから普通の流れの中では生じないということです。
ただし、1つわからないのは、仮にイランがイスラエルから攻撃を受けたときに、あるいはそこにアメリカが乗じてですね、イランの施設を攻撃するような対応を取った時に、イランとしてそれを黙ってさせるのか、あるいはその反撃するんだとしたら直接イスラエルに反撃する、ないしはその近辺にいる米軍に反撃する、ないしはそれが十分な脅威、危険を伴うということであれば、このように掃海艇が必要になる、機雷を敷設することにおいてある種の報復をするということは考えられると。
ただそれは、最初から行うことではなくて、相当に事態が進んだ時、そしてイランにとって他に反撃のしようがない状態の中で起きるんだと私は思います。」

イラン情勢 今後の見通しは?

傍田
「先ほど現場での合同軍事演習のリポートもご覧いただいたんですけれども、今回のこの規模の演習が行われたということ、これはイランはどういうふうに見ているとお考えですか。」

田中浩一郎さん
「2つあると思います。
1つは蒼海の訓練だということに関しては、決して攻撃的ではないという点においてはまだ受け入れることは可能なんだと思います。
しかしながら、34か国ですかね、非常に多くの国が参加しているにも関わらずペルシャ湾で最大の沿岸を持っているイランがそこに入っていないという点、これはその仮想敵国をイランに置いているから必然的に入らないということなのかもしれませんけれども、やはりそこが排除されているということは、自分達に対してのメッセージ、ないしは脅しになっているということでも受け止めますので、心中はやはり穏やかでないと思います。」

イラン情勢 核協議は進むのか?

傍田
「今日のインタビューを聞いていましても、基本的には大統領は強気の姿勢を貫いていたかと思うんですけれども、今、欧米の経済制裁でだいぶ経済的にも影響が出てきていると言われていますし、イスラエルも軍事的な圧力を緩めようとしない。
こうした中でやっぱりイランとしては、核開発を後退させるってことは、およそ今はないオプションだというふうに見た方がいいんでしょうか。」

田中浩一郎さん
「一部はですね、交渉材料とするような余地はあると思います。
すでにこの4月、5月、6月、常任理事国5か国にドイツを加えた6か国とイランが協議をしてた中でもですね、そのようなアイディアっていうのはやっぱりイラン側から提案として出ていました。
今回のインタビューの中にも指摘されていたように、20%濃縮の低濃縮ウランを国外から調達することができるのであればこれを止めると、20%濃縮を止めるということはある種の逆提案材料としてですね、考えられるということを言っていました。
この中でももう一つ面白いなと思いましたのが、その理由づけとして、高くつくからと、すなわち高くつくという具体性、具体的に何を指しているのかは明示していないんですが、20%濃縮を行うことによって、非常に強い経済制裁をかけられている現状、その経済的な損失、それから政治的な損失、これがある程度こたえているのかなということをうかがわせる発言だったかと私は思っています。」

鎌倉
「それとインタビューで、大統領が『交渉を続けたい』とも言っていますよね。
その欧米とのその核協議、これが再び進展することはどうでしょうか。」

田中浩一郎さん
「ちょうど先週ですかね、EUの上級代表であるアシュトンさんとイラン側の交渉代表のジャリリさんがイスタンブールで食事会をしたんですけれども、実質的な協議はなかったんですが、少なくともその細い線、細い糸はまだつながっていると私は思っています。
ただこれが急速に拡大したり、そして実質的になんらかの妥協をですね、双方が提示しあえるような信頼が保たれた、あるいは信頼関係が強化された協議に進むまでには相当の時間を要します。
それが今までも何回も、この手の協議が成立しては空中分解したり、あるいは先送りされたりということを繰り返してきた背景にあるんですね。
相互の信頼関係が全くないので、お互いがどういう条件を出せば自分の方からこういう対案を出すということがなかなかやりとりできないということです。」

イラン情勢 今後の見通しは?

鎌倉
「協議が今後不調に終わるということが繰り返されていった場合、今後想定されるシナリオとしてはどういったものがありうるというふうにお考えですか。」

田中浩一郎さん
「イラン自体はウラン濃縮を続けていますので、ここからがやはり勝負なんだと思います。
すなわち、そのイランはウラン濃縮をしている、それがどんどん量としてたまっていく。
そうなるとまさにイランが核兵器保有に向かっての歩みを進めていると。
この状態を許せないということで一番あせっているのがやはりイスラエルなんですね。
アメリカはまだ交渉の時間があると言っているけれど、イスラエルにはもうないと言っている。
この間で、どういう駆け引きが、イスラエルとアメリカとイランと、この3すくみでの駆け引きが行われるということかと思います。」

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