クリソン・オマヤオ(手前)を4回KOで破り喜ぶ井上尚弥(佐藤哲紀撮影)=後楽園ホールで
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井上、衝撃デビュー。史上初めて高校時代にアマ7冠を達成したボクシング界の怪物ルーキー、井上尚弥(19)=大橋=が、フィリピン・ミニマム級王者で東洋太平洋7位のクリソン・オマヤオ(19)=フィリピン=を4回2分4秒、左ボディー一発でもん絶させ、KOデビュー。プロ初戦をド派手に飾った。1987年7月の赤城武幸以来7人目、10代では初の8回戦デビュー。WBA世界ミニマム級王者井岡一翔(23)が持つ、プロ7戦での国内最短世界奪取記録超えの機運はさらに高まりそうだ。2戦目は来年1月、階級はライトフライ級になる。
ドスン。ものすごい音がした。井上の狙いすました左アッパーが、オマヤオの土手っ腹に食い込んだ。その場にうずくまって苦しむフィリピン王者。怪物と呼ぶにふさわしい衝撃的なKOシーンだった。
「ホッとした。KOできて良かったけれど、ガードが空いたりと反省点もある。明日からでも練習したい」
1回からスリリングでスピーディーな展開。右ボディーでダウンを奪い、秒殺KO勝利もあり得た。だが、意識的にいかなかった。「あそこで詰めれば倒せたかもしれないけれど、2回、3回のことも考えていたのでセーブした」という。
小学1年の時、ボクシングの練習をする父真吾氏の姿を見て「ボクもやりたい」とおねだりした瞬間に運命が決まった。ともにジム通いが始まり、家でも基本の繰り返し。小学4年のころ、技術的な課題がクリアできず「やめたい」と思ったことがあるが、言い出せなかった。「自分でやりたいと言った手前、言えなかった。何より、面白かったから」と振り返る。
初めての試合は小学6年時の全国大会。中学2年生にRSC(レフェリーストップ)勝ちした。陰で見守った母美穂さん(40)は「私たちのやってきたことは間違いじゃなかった」と確信したという。高校3年時、史上初めて高校生でアマ7冠を達成。だが、今年3月に挫折を味わった。カザフスタンで行われたアジア選手権決勝で地元選手に判定負けし、ロンドン五輪の道が閉ざされた。子供のころからの夢が断たれ、しばし途方に暮れた。
「胸にポッカリ穴があいた。でも、プロで悔しさを晴らそうと切り替えた。プロという目標がなかったら、いまだに引きずっていたかも」
プロ3戦世界奪取構想をぶち上げた大橋会長も「記録にこだわる必要もない」と撤回。小手先の話題作りより、大きく育てたいと判断したからだろう。本当の怪物伝説は、これから始まる。(竹下陽二)
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