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【社説】中国が暗に行う貿易制裁の代償

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 中国で日系企業の店や工場を破壊した先月の抗議デモ参加者らによる暴動は十分ショッキングだった。しかし中国の日本に対する経済的制裁は長期的に投資に大きな影響を及ぼす――またそれは日本にとって打撃になるだけではない。

 尖閣諸島のいくつかの島を日本政府が民間所有者から購入した後、日本企業による中国向け輸出品の通関が不思議と遅延し始めた。日系駐在員に対するビザの発給も滞った。野田佳彦首相はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「こんなことで経済の関係が冷え込んでいくのは本当に両国にとってマイナスだ。2国間だけでなく、地域、世界にとってマイナスになる」と述べた。

 こういったことは以前にもあった。2010年に尖閣諸島(中国名では釣魚島)を巡って対立が起きた際、やはり通関が遅延し、ハイテク機器に欠かせないレアアースの中国からの輸出が滞った。

 これは中国が長年行ってきた行動パターンだ。だが外国政府は対処したがらないか、認めることさえ躊躇(ちゅうちょ)する。2年ほど前、ドイツの研究者らは、ダライラマの公式訪問後の2年間で中国による先進国の高付加価値製品の輸入量が最大12.5%減ったことを発見した。また欧米諸国が台湾に武器を販売した後、中国は大型の注文をキャンセルした。

Associated Press

レストランの看板をブルーシートで覆う従業員(9月18日、上海の日本国総領事館近く)

 最近ではこの狭量さがノルウェーという遠方でも発揮された。非政府組織のノーベル委員会が2010年のノーベル平和賞を人権活動家の劉暁波氏へ捧げて以来、ノルウェー産のサーモンに対して検査項目が増えた。このため昨年のサーモンの輸入は60%減った。また今年、スカボロー礁の領有権を巡りフィリピンと海上でのにらみ合いが続いた後、フィリピンバナナも同様の扱いを受けた。

 どの国も外交面で有利になれるよう「経済による弾圧」というアメとムチをある程度は使う。しかし、通常は条約の合意事項を破るようなことまではしない。仮にそうすれば反動があるからだ。中国の態度が気に障るのは、それがしばしば一般国民の怒りの行動と相まって気まぐれに行われるからだ。これは、中国に投資する外国の企業が、他のほとんどの国にはない政治リスクを考慮しなければならないことを意味する。

 これまでのところ、これらの暗に示された経済制裁は大部分が象徴的で短期間に終わっている。しかし中国のやり方は不信感を生んだ。中国は国際的な通商ルールを守る必要があるとは思っていないことを示唆するようなものだったからだ。また、中国は通関作業を政治的理由で止めたとは認めないため、世界貿易機関(WTO)を通じて解決を図ることも困難であり、これはWTOのシステムを損なっていることになる。

 なぜ中国はこういった態度をとるのだろうか。これを理解するには、中国の貿易制裁は反政府活動家の処罰に通じるものがあるという事実がヒントになるだろう。学者のペリー・リンク氏は「シャンデリアのアナコンダ」というフレーズを編み出した。これは、中国当局がどこまで批判を容認するか明確に示さないことを言い表したものだ。ディナーパーティーのシャンデリアに大蛇が絡みついている。いつ落ちてくるか分からない大蛇が突然落ちてきてゲストをのみ込むように、中国政府は時として反政府活動家をひどく罰する。たとえ、その活動家が最もうるさい人物ではなくてもだ。

 その結果、中国で国家の政治を論ずることは大きな制約を受ける。それは、言論の自由に対する明確な制限がある場合よりも大きいと言える。どこまで大丈夫なのか、その境界がわからなければ、安全に過ごす方法は自己検閲しかない。これと似たようなことが国際的にも起こっているようだ。台湾支持政策は得策ではないとの認識が世界的に広がりつつある。その大きな理由は、中国に投資をする外国企業が自国で中国政府のためのロビー活動を行うからだ。

 こういった「いじめ」は代償を伴う。共通の利益のためにルールに基づくシステムを作ったパックス・アメリカーナはアジアでずっと支持されてきた。中国がいかにこのシステムを損なおうとしているか(と同時にそこから利益を得ようとしているか)を見るにつけ、周辺諸国はバランスをとるために米国との緊密な関係構築を図ってきた。

 中国は、世界貿易機関(WTO)に加盟したことでルールによる縛りを受けているのではなく、恩恵にただ乗りしている。中国が貿易を武器として使っていることがその証拠だ。それは、なぜデモクラシーがより信頼のおけるパートナーなのかを示す証拠でもある。政府が自国民をどう扱うかは、どう隣人を扱うかの良い指標となるからだ。

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