心の由来:「心」についての身もふたもない話

精神医学・臨床心理学に関連した、あまり実益のない無駄知識を中心とした科学読み物です。

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依存症なままでは早死にしちゃうよ? パートII

拒食症、過食嘔吐症、過食症といった「摂食障害 eating disorder」が一種の「病的嗜癖・依存症」だと認識している人は意外に少ないようです。 しかし、摂食障害という症状を維持強化している脳内のメカニズムはその他の「病的嗜癖・依存症」と共通するところもありますし、さらに遺伝的にも症状経過的にもその他の「病的嗜癖・依存症」と関係する(相互乗り入れする)こともあって、摂食障害はアルコール依存症や薬物依存症、ギャンブル依存、買い物依存、などの一連の「病的嗜癖・依存症」の一種とみなして良い側面もあるでしょう。

摂食障害の中でも、その死にそうなくらいに激やせしているショッキングな外見から「拒食症=神経性食思不振症 anorexia nervosa」の人は、それ以外の摂食障害(過食嘔吐症、過食症)に比べて重症だと思われがちです。 実際に有名人が拒食症のために栄養失調死したという芸能ニュースなどを聞くと、摂食障害の中でも拒食症は特に「死に至る病」だという認識が一般の人にはあるでしょう。
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では、実際にどうなのか? 本当に拒食症は「死に至る病」であり、拒食症の人たちは早死にしてしまうことが多いのか?

そこでスウェーデンのPapadopoulos先生たちは、拒食症のために入院したことのある人たちを約6000名も集めて、平均13年間も長期間追跡調査しました。 その結果、この追跡期間中に265人(全体の4.5%)もの人が死亡していました。これは同年代の一般人口の人たちと比較して約6倍もの死亡リスクがあるということになります。

問題はその死亡原因のうちわけです。 なにしろ激やせとそれに伴う栄養障害による身体の衰えがあるであろう拒食症のことですから、弱った身体に感染症を起こしたり、心血管障害を起こしたりして死んでしまう人も結構いました。 しかし264人の死亡者の約半数は「不自然死」だったのです。 しかも1/3は自殺でした。 これは同年代の一般人口の人たちに比較して約10倍もの自殺リスクがあることになります。 (もっとも死ぬほど激やせしていく拒食症は、それ自体が積極的な手を下さないまでも自殺行為と言えなくもないので、自殺か、自殺ではない拒食による死亡か、という間に明確な一線を引くことは出来ないでしょう。) さらに、アルコール依存症を合併してしまい、それによる死亡もありました。 さらにさらに、犯罪被害による死亡(他殺)も同年代の一般人口の人たちに比較して5倍ものリスクがありました。

こうしてみると、拒食症の人は早死にしやすい、といっても、それはかならずしも単純に痩せすぎて身体をこわして早死にしてしまうということを意味するのではなさそうなのです。

ここにアルコール依存症の人が早死にしやすい、ということとの類似を見ることができるでしょう。 アルコール依存症の人が早死にしやすいといっても、それはかならずしも単純にアルコールの飲み過ぎで身体をこわして早死にしてしまうということを意味するのではなかったことと似ているのです。

では、拒食症 anorexia nervosa以外の摂食障害(過食嘔吐症、過食症)ではどうでしょう?

拒食症の人と違って、過食嘔吐症や過食症の人は、外見的に必ずしも死にそうなほどの激やせをしていることがないせいか、一般の人たちは、より軽症だとみるむきがあります。 本当にそうでしょうか?

Crow先生たちは、(入院ではなく)外来に通院する、拒食症、過食嘔吐症、過食症(Crow先生たちの研究では「特定不能の摂食障害」という呼び方にされています)などいろいろな摂食障害の人たちを集めて8年〜25年の追跡調査をしました。その結果、やはり拒食症は4.0%もの死亡率があったのですが、過食嘔吐症も3.9%過食症でも5.2%もの死亡率があったのです。 

拒食症以外の摂食障害も、拒食症なみに「死に至る病」ではないですか。

しかも、死亡原因を自殺に限って計算してみると、同年代の一般人口の人たちに比較して、拒食症でも、過食嘔吐症でも、過食症でもあまりかわらず、約4〜6倍の自殺リスクがあると計算されるのです。
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実際、自殺既遂にまでいたらなくても、自殺未遂や自傷行為は、より衝動的な性格傾向の強い過食嘔吐症や過食症の人たちに目立つところがあり、実際、これらの人たちの約1/4は自殺未遂をしたことがあるという統計もあります。

では、アルコール依存症でも、摂食障害でもない、他の「病的嗜癖・依存症」ではどうでしょうか?

例えばギャンブル依存症 pathological gamblingがあります。 この人たちも自殺既遂や自殺未遂が多いことが知られていて、約1/4もの人が自殺未遂をしたことがあるという統計もあります。 しかも、こうした自殺への傾向は、ギャンブルにのめり込んでいればのめり込んでいるほど強くなるのです。

なぜそうなってしまうのか? なぜ「病的嗜癖・依存症」の人たちは生きることの価値や意味を失い、命が軽くなり、自殺を選びやすくなるのか? 
・・・アルコール依存症と自殺の問題で議論したことをわざわざ繰り返す必要はないでしょう。 「病的嗜癖・依存症」とは、そういう恐ろしい病気なのだということなのでしょう。 

そして、この本当の恐ろしさを知らないでいる人は少なくないのです。




参考書:
(1) Latxer Y & Hochdorf Z.  Dying to be thin : attachment to death in anorexia nervosa.  The Scientific World Journal, 2005; 5: 820-827.

(2) Papadopoulos FC, et al.  Excess mortality, causes of death and prognostic factors in anorexia nervosa.  British Journal of Psychiatry, 2009; 194: 10-17.

(3) Bulik CM et al.  Suicide attempts in anorexia nervosa.  Psychosomatic Medicine, 2008; 70: 378-383.

(4) Crow SJ, et al.  Increased mortality in bulimia nervosa and other eating disorders.  Am J Psychiatry, 2009; 166: 1342-1346.

(5) Petry NM & Kiluk BD.  Suicidal ideation and suicide attempt in treatment-seeking pathological gamblers.  J Nerv MEnt Dis, 2002; 190: 462-469.


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