予約投稿で朝からこれを掲載していいものか……
迷います。が、構うもんか、突っ込め~
さて、さてさて、この話はわりと性描写が存在するため、苦手な人はご遠慮ください。
なお、この話を読み飛ばしても、ストーリーには影響は(あまり)ありません。
王子と姫
スーヴェン帝都の城はかなりの広さを有している。城内の兵士や騎士だけでも全て合わせれば五百人ほどが配備されているのだ。
そして、城下や帝都の外壁にはそれよりも多くの人員が警備にあたっており、近隣の町村にも数十人単位で常駐している。
当然、そんな広い城の中には、罪人を閉じ込めるための牢獄も存在していた。
城の正門から離れた位置にある地下への階段は、脱走者を逃がさぬように奥まった位置に造られている。石造りの階段もまた、脱走防止のために長く、薄暗いために不気味の一言に尽きる。
地上へは決して悲鳴など届かぬ深き闇の底――地下牢の中で、エルナは目を閉じていた。手足は鎖で繋がれており、わずかな蝋燭の明かりが冷たい印象を受ける石の壁を照らしている。狭い石壁に囲まれた牢屋の一室であった。
だが、そこに居るのはエルナだけではない。もう一人――黒い布で顔を隠した拷問官が下卑た嗤いを漏らして立っているのだ。拷問官とは、文字通り拷問をして相手に尋問するという役割を持つ。顔を隠しているのは仕事の性質上、恨まれることが多いための処置だ。
もっとも、拷問されるような罪人は無事に生きてここから出ることもほとんどないのであるが、自分を憎む人間に顔を見られるというのは、本能的に忌避してしまうものなのだ。
だが、エルナの目の前の男は、拷問することをどこか楽しんでいるような節がある。既に身体の各箇所に傷が目立っていた。
騎士の白銀鎧などはとうに引き剥がされ、下に着込んでいたインナーはところどころ破けて肌着が露出しているのだ。しかも破けている部分から見える肌には血が滲んでいた。
「……くっ……」
「さあさあ……皇帝陛下を狙った理由ってのをさっさと吐いちまいなよぉ。そうすりゃもう痛い目に遭わずに済むんだぜ?」
何度目かの同じ質問に、エルナは変わらず口をつぐむ。
失敗した時点で死ぬべきだった。
ここで自ら命を断つ勇気がでない自分が歯がゆい。それでも、口を割ることだけはできない。
エルナの復讐は私怨によるものだが、身元がバレると非常に不味い。仮にもガイラル王国の第二皇子――カーネルの娘なのだ。下手をすれば戦争になってしまう可能性すらある。
このスーヴェンを訪ねて情報を必死に集め、イルミナがカーネルを暗殺したと確信したエルナは、もう何年も前から復讐を決意していた。だが、確かな物証はなく、皇帝を追求することなどできようはずがない。例え短絡的であろうとも、あのような手段しかエルナには思いつけなかったのだ。
目的を達成できれば、むしろその場で殺されることを望んでいたのだ。そうすれば、全ては謎のままで終わる。だが、情けないことに拾った命を一度実感してしまうと、いかにも惜しく思えてしまう自分が情けない。
室内に空気を裂く音が響き、何度目ともなる鞭が振るわれる。
「く……ぁ」
衣服と同時に肌の一部が削られ、ぷっくりと血の塊が顔を出し、赤い流れへと変わっていく。
「どうした? 話す気になったか? ……強情なヤツだ。しょうがない、これよりも効果的な道具を持ってくるから楽しみにしてろよ……くひひ」
耳触りな嗤いとともに背を向ける拷問官が牢屋の扉に近づくと、乾いたノックの音が響いた。
「なんだぁ?」
煩わしそうな声とともに扉が開かれると、そこにはもう一人の拷問官の姿があった。同様に黒い布で顔を隠した男は、低い声でもう一人に話しかける。
「交代の時間です。ここからは私が尋問を行いますので……」
「あぁ? もうそんな時間かよ? くそ、暗い牢獄の中は時間の感覚が狂いやがる」
そう吐き捨てた男は、さっさと扉から出て行こうとする。それを追いかけるようにして、新しい拷問官が一緒に部屋を出ていった。
「ああ……待ってください。どこまで情報を聞き出せたか、教えてもらわないと――」
しばらくの静寂……エルナは唇を噛みしめた。
まだまだ拷問は終わらないのだ。自分の神経がどこまで耐えられるかと思うと、暗い密室の中で恐怖がどこまでも膨らんでいきそうになる。
それでも、耐えなければいけない。どうしても耐えられなくなったら、死ぬ勇気も出るだろうか。だけど……死ぬ前に一つだけ知りたいことがある。
何故、彼はあの時、あたしを邪魔したのだろうか。
勿論、城に仕える騎士としては正しい行動なのだろうと思うが、意識を失う瞬間に見た顔は懐かしくもあり、それ以上に驚きを与えてくれた。彼が自分に危害を加えるということが、どうしても信じられなかったからだ。
それももう知ることはできないか、とエルナは諦めの色を瞳に浮かべた。
しばらく経ち、さっきの拷問官が扉を開けて入ってきた。エルナは目を瞑り、何も考えぬように思考を停止させる。
「随分酷くやられているな」
そんな声とともに近づいてきた拷問官は、エルナの身体に手を這わせていく。
肌が粟立つような不快感を必死で耐える。
「ぇ……?」
が、不思議なことに、触れられた箇所の傷の痛みが緩やかに消えていく。しばらくすると、傷跡も無くなってしまった。
「……勘違いするなよ。人間というものは限界以上の苦痛を与えても痛覚が麻痺してしまうからな。こう傷だらけだと、かえってやりにくい。そのためにこういった魔法を習得している拷問官もいるんだ」
どうやら一度元の状態に戻してから、新しく痛みを与えるということらしい。手の込んだ真似をするものだと、エルナは内心苦笑した。
「さて……理由を話す気はあるか?」
「……」
「仕方ないな」
この拷問官はどうやら道具を持っていない。
道具も持たずに行う拷問……それは限られている。
拷問官の男がエルナの纏っている衣服に手をかける。
鞭で破れている箇所に少し力を入れるだけで、それは容易に裂けていってしまう。
「……ちょ……やめ」
無言のままに拷問官はその行為を続けていく。
ついには、エルナの身に纏うものはほとんど無くなり、わずかばかり肌を隠しているだけの状態になってしまった。
蝋燭の明かりに照らされ、白い肌が上気して赤くなったようにも見える。拷問官はエルナの肌をなぞるように触れては、弄んでいく。
「ぅ……う」
恥辱のためか、エルナは何も言わずに黙ってそれを耐える。
次第に拷問官は手を胸の膨らみ辺りに移動させ、ゆっくりとなぶるように動かしていく。
「ゃ……め……」
当然、その行為は止まることもなく続けられた。
ひとしきり拷問官が満足するまで堪能した後……エルナはただ顔を下に向けていた。
そして、わずかに残っている衣服さえも剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿となったエルナは微かに声を上げたのだった。
――暗い地の底のような牢獄。石で造られた室内に音が響く。
濡れた肌がぶつかりあうような音とともに、男の低い吐息、くぐもったような女の声が混ざる。荒い息遣いは、しかし分厚い石壁の外に漏れることはない。
「ふ……ぅっ……ぁ」
恥じらいを込めたような嬌声は止むことなく牢の室内を満たし、艶やかな声はより一層相手の情動を刺激させる。
――どれくらいの時間が経ったろうか、拷問官の凌辱が終わり、エルナはぐったりと石床へと体を横たえていた。手錠や足枷はそのままだが、鎖のほうは行為の最中に外されたのだ。
エルナはゆっくりと顔を上げ、自分を辱めた相手へと視線を向ける。
その表情は伺い知れないものだ。
「――あのさぁ……久しぶりの再会だっていうのに、あんた、何考えてるのよ?」
エルナが口にしたのはそんな言葉だった。
その言葉に「え?」と声を上げた拷問官は、ゆっくりと黒い布を外し、顔を露わにした。
黒髪に紅い眼、それはエルナが良く知っている顔だ。
「……えーと、いつから気付いていらっしゃいました?」
飄々としたその態度に、やや怒っていた気持ちが静まっていく。
「最初のあの時から。っていうか、拷問官がいちいち怪我治してくれるわけないでしょっ!」
「や、だって痛そうだったから」
「なら普通に治してくれればいいでしょっ」
「まあそう怒るなよ。王子様がお姫様を助けにきた感動的な場面だろ?」
「お、王子様が……王子様が――――こんなことするかぁーっ!」
がぁーっと怒りの雄叫びを上げるエルナに、ジークは謝罪しながら反省の意を述べた。
「でもな、気付いてたなら途中で止めるように言えばいいのに……」
「言ったわよ、途中――」
「あぁ……え、いつ?」
「さ、最後の一線のとき?」
(あぁ、そういえば何か言ってた)
「ところでだ、あんまりのんびりしている時間はないぞ。色々訊きたいこともあるが、まずはここから出る」
今ここでこんなことをしたのは誰だ、と問い詰めたくなったエルナだったが、それは思考の片隅に追いやる。
それよりも、一つ聞いておきたいことがあるのだ。
「待って――ねぇ、なんであの時、あたしの邪魔をしたの? 答えて」
「……邪魔したわけじゃない。あのままだと確実にエルナが殺されるだけだったから、助けたんだ。イルミナの隣にいた銀髪の男な、めっちゃ強いぞ」
「じゃあ……なんであたしを助けてくれるの? 仮にも騎士のジークが皇帝を殺そうとした犯罪人を逃がすって、大変よ?」
これについては、ジークが少しばかり考えるようにしてから答える。
「正直に言えば、エルナを助けてほしいってある人にお願いされたのが一番大きい」
「そう……」
「だけどな、元からエルナを助けようと思ってたのは確かだ」
「なんで……?」
ジークは持ってきていたエルナの着替えを用意しつつ、さも不思議そうに呟く。
「俺はエルナを助けたいと思った……それで何か問題あるか?」
「答えになってないけど……もんだい、ない」
頬がにやけてしまいそうになるのを、エルナは必死に押し留める。何か負けたような気がするからだ。
薄暗い地下牢の一室を抜け出し、冷たい石床の廊下を二人は走る。
ジークの後ろを追いかけるエルナは、ふと心の中に今まで封じていた気持ちが浮上するのを感じた。
死ぬことを決意していたし、将来を夢見ることも一度は諦めた。それなのに、こうして今自分は生き延びてしまったのだ。目的を忘れてはいないが、もう自分の命を投げ出すようなやり方を選択しない。いや、したくない。
――こんな気持ちにさせた責任は、とってもらおうかな。
ジーク、お前ってやつは。お前ってやつは……
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