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ぶらりごろりぱくりぶらりと出かける ごろりと寝転ぶ ぱくりと食う 嗚呼しあわせかな しあわせかな

むかしむかし矢沢永吉という人が「キャデラックでタバコを買いに行くのが俺の夢だ」みたいな事を言っていて、僕は矢沢永吉という人を好きだったこともキャデラックを欲しいと思ったこともありませんけれど、矢沢永吉さんの言わんとしていた事は解るように思う。実は僕もそう遠くない昔、馬に乗ってタバコや菓子パンを買いに行きたいと願っていたことがある。
ここでいう馬とはサラブレッドの事なのだが、どうしてそんな馬鹿な事を考えたかというと、今からもう20年以上前になるが競馬に熱中していた頃、毎年1万頭近く生産されるサラブレッドのうち競走馬として活躍できるのはほんの1割か2割、たとえ競走馬として登録されても満足な成績を残せなければ引退後の末路は乗馬ウマか食用肉として殺処分だと知ったからで、ハムやニューコンビーフ肉として処分されるぐらいなら二束三文の値段で譲ってもらえるかも知れないと思ったからだ。
競馬の華々しさやサラブレッドの美しさばかりが囃される世界の中で、3分の2以上の馬が殺処分されている現実は暗黙の了解によって封印されているんだろうと思う。
「純血」の代名詞でもあるサラブレッドを僕のようなビンボー人でも手に入れられるなら、赤いマラネロの跳ね馬に乗って菓子パン買いに行くよりも、正真正銘のサラブレッドで菓子パン買いに行った方が楽しいじゃないか! とバカな妄想に浸っていたのであります。テンガロンハットをかぶって駿馬を駆り、颯爽とコンビニの駐車場に乗り付けて、
「すいません、ヤマザキのカレーパン1個ください」
なんてイカスじゃん? イカさないか。全然イカさねえな。
でもまあマカロニウエスタンやスティーヴ・マックィーンを貪り観ながら大人になった僕は、どこかで馬のいる生活みたいなものに憧れていたのかも知れん。

けれど、今や僕が密かに欲しいと願っているのはサラブレッドではなくロバだ。一体ナニユエにロバなのかというと、足繁く通う伊那の町で数年前にロバを見かけたからなのである。
バイクで一瞬すれ違っただけなのでロバを牽いていたのが男だったか女だったか、年寄りだったか若者だったか、ハーメルンの笛吹きだったかパン屋だったかは解らん。けれどロバの長い耳と、ボクトツとした顔と、サラブレッドよりも遥かに小さな体躯だけが、伊那の寂れた旧市街の背景と共に僕の記憶に焼き付いている。
サラブレッドが欲しかった時も体重500kgにならんとする巨体に幾分ビビって、じゃあもう少し小さいのにしてみようかと調べてみたことがある。ポニーとかもそれなりに小さいんだが、もっと小さいサムベリーナ(Thumbelina)とかいうミニチュアホースが存在しておった。親指姫と称すに相応しく確かに小さい。小さくて可愛いんだが、これだけ小さいともはやウマじゃなくてイヌだわな。

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左 : サムベリーナ 右 : ろば(見よ、このかわいさを)

実物を見たこと無いし、見たら見たで声を上げるほど可愛いと思う。しかし、僕が子猫や子馬や子象を可愛いと思うのは、身体や挙動や思考の未成熟な子供だからカワイイと思うのであって、見た目は小さくとも中身は紛う事なき40歳だったら白木ミノルみたいで気色が悪い。チワワなんてのはまさにソレで、人間の年齢に換算して76歳のチワワとかがいたら、妖怪もどきの若作りしたババアじゃないか。
斯様な理由でサムベリーナは却下したのであるがロバはいい。ロバはいいぞ。サラブレッドや農耕馬に比して親近感の湧く小ささや、脱力系の不均整さや、長い耳と人の良さそうな顔がいい。
バイクを「鉄馬」なんぞと称してアウトローを気取る人もいるが、たとえばサラブレッドがドゥカティやアグスタで、無骨なベルシュロンがハーレーなのだとしたら、ロバはさながらカブというところか?
以前バイク仲間との宴会で「お前にはこういうバイクが似合う」という話になったことがある。お前はリッターのツアラーだの、そっちのお前はモタードだの、そしてそこにいた何人かが僕を指して、「お前はボロボロのオフ車ってイメージだな」と宣言された。ただのオフ車でもなく、精悍なオフ車でもない、ボロボロのオフ車だ。
こういったパブリックイメージが本人の思惑や自尊心を大いに傷つけようとも、どちらが正しいかといえば概ね客観的評価の方が正しいと僕は思う。自分がどんなに二枚目のつもりでいても周囲の目にはそうでないと映るのなら、自らが世間様に投影する姿はスットコドッコイな漫才師に近いものだと認める勇気が必要だ。

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僕は以前スズキDF200というボロボロのオフ車に乗っていた事がある。そのボロボロのオフ車で九州まであちこち寄り道しながら2000kmのツーリングをした事もある。今所有しているTDMはとても気に入っているバイクだけれど、その大きさと重心の高さ故、取り回しには常に緊張感が付きまとう。もちろんそれはTDMのせいではなく僕自身のヘタクソさが原因な訳だが、思い返すに今まで所有したバイクの中で一抹の恐怖心も抱かず気楽に付き合えたのはDFとKSR110ぐらいのものだったか知れない。
DF200=ロバ。似てる。似てるじゃん。

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欲しいなぁ、ロバ。




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