EMフェスタ98 > 発表大会
北海道知内での
トマト栽培への
EM活用
野口 健一 北海道   野口農園代表


 私の住む知内町は北海道の渡島半島の西南部で、津軽海峡を隔て南方には青森県下北半島を望む青函トンネルの北の玄関口として位置する町です。
 明治14年、福井県より60戸余の小作人が入植し、100町歩程度の洋式耕作を行い開発の基礎を築きました。酪農については、天明年間に牛が飼われていたと記録があり、北海道酪農の発祥の地とされています。
 気候は東北地方北部と似ており、水稲を主体とした畑作、野菜との複合経営が中心となっております。しかし、毎年6月から7月にかけて吹く冷たい偏東風に悩まされ、地域農業に深刻な被害を度々もたらしております。それでも農業は知内町の基幹産業であるとの位置付けは変わらず、生産コストの低減を重点とした対策と合わせ、生産性の向上と農業所得の増大による農業経営の安定を図る事が緊急の課題となっております。
 こうした中、水稲を補完する、転作田の有効活用とその定着化の為に、ニラ、ほうれんそう、トマト、あるいは花きなどの施設園芸作物を積極的に導入し、道内、外の販路拡大を図っている所であります。

 これと並行し、昭和58年農業用水確保の農業用ダムの建設と新規開畑400ヘクタールを柱とする、国営総合灌漑排水事業がスタートしました。昭和63年そこで造成された中山間地の農地1団地15ヘクタールを1法人2個人で取得し、三者連携を取りながらビニールハウス186棟を建てました。私はそのうち3ヘクタールを取得し、57棟のビニールハウスでトマトの栽培を始めたのです。


 平成元年に「果物になったトマト」をキャッチフレーズに、年間生産量380トンを目標とし、おいしくて安全な完熟トマトを供給しようと、契約栽培をスタートさせました。しかし現実は栽培管理、技術、選果、輸送の問題等、眠る暇もなく頑張ってきましたが、厳しい経営状態であり、色々と手法を変えながら10年間続けてまいりました。そういう中で消費者はより安全でおいしいトマトを求めるようになり、自分達の将来の経営の方向もより明確にしなければと模索していたおり、2年前EMとの出会いがあり現在に至っております。
 EMを扱う以前にも一部微生物農法を導入していたのですが価格が高く、効果がすぐに見えてこないため、コストがかさみ長くは使用できませんでした。その点EMはボカシや活性液のように拡大させる事ができるので、コストが安く済みます。そのため多くの量を続けて使う事ができます。
 それに、菌の動きが見えるのもいいです。別に顕微鏡をのぞくわけではなく、活性液の場合は容器がポンと膨らみます。また、EMボカシだと甘酸っぱい臭いがして来ます。こうやって分かる形で見えて来ると、畑に蒔くと効くんじゃないかなと思えてきます。
 また、EMに詳しい沖田機器の社員が近くにいてアドバイスをしてくれた事も多いにEMにのめり込む事になった理由の一つです。我が家の経営内容は水稲90アール、黒大豆100アール、ニラはビニールハウス14棟で6,200m2、そしてトマト33棟で9,900m2、トマトの苗本数は28,000本くらいです。労働力は家族4人、パート4人そして臨時アルバイト4人で雇用期間は冬2月から秋10月までの9か月間です。それではわが家のトマト栽培について説明します。
 トマトのハウスは2団地に別れていて、ひとつは自宅近くの転作田に6棟あります。もうひとつは先に述べた通り、国営農地造成地で海抜150m位の山の中腹で赤土の痩せた土地に27棟あります。そのうちの12棟がEM重点区とし、農薬散布の回数を減らして栽培をしているハウスです。
 まず育苗用ポットの土は、昨年秋に40坪に対しボカシ30kg、EM1号活性液の500倍液を50リットル散布しておきました。そして春3月までにこの土をもとに100リットル中ピートモス50リットル、パーミキュウライト10リットル、炭10リットル、ゼオライト1.5kg、貝粉末750g、土30リットル、これに肥料として有機肥料100g、化リン酸石灰300gを混合しております。


 そしてポットに土を入れた後、前年度使用済みのEMセラミックスを一個ずつ入れています。



 EMセラミックスを入れた後苗を植えやすくするため棒で穴をあけます。


  以前、育苗は種から始めていましたが、一度失敗した事があり、またニラの収穫最盛期にもあたるため、3年前から、自根のプラグ苗を全量購入おります。


 昨年までは、200セル穴で1.5葉期前後の物でしたが、今年からは288のセル穴で、1から1.2葉期の苗にしました。5月8日、苗の到着後直ちにEM活性液の1000倍液を灌水がわりにたっぷりとジョウロで散水しております。

 鉢上げの際手袋をすると、苗にさわる感覚が分からず作業が雑になるため素手で鉢上げ作業を行ってます。鉢上げ後10日位で鉢を広げます。

 間口5.4m、長さ50mのハウスに3000本位入れております。本来ならばもう少し減らして管理すると苗の為には良いと思いますが、育苗ハウスが多くなり管理が大変だという理由から我慢しております。


 苗の灌水は以前シャワー状で行っていましたが、現在はポット1つ1つに直接入れるようにしています。こうすると灌水時間は長くかかりますが、むらがなくなります。また、シャワー状ですと水の勢いで苗が曲がったり、倒れてしまい、そうなると、通気性が悪くなり、茎に傷が付き苗の時点から既に病気にかかる恐れがあります。この方法にしてからはほとんど病気にかからなくなりました。


 写真の苗は葉がVの字に立っております。昨年まではアグリボを使って立たせていましたが、今年からはEMで自立させる事が出来ました。4月に比嘉節子先生が私どもの所に見えられた時に苗に「EMを応用しますと葉が立ちますよ」と言われましたので、それじゃやってみようとEM1号活性液2000倍液を自然水と交互に灌水致しました。結果は自分では良い苗になったと自己満足しております。それに余った苗を他の会員に分けてあげたのですが、素晴しい苗だと絶賛してくれました。
 次に本畑ですが、昨年秋に1棟80坪当たり堆肥1.5トン、EMボカシ30kg、EM1号活性液500倍液を100リットル散布しておき、今年春に同じくEMボカシ30kg、EM1号活性液500倍液100リットルを散布しておきました。そして施肥は、ゼオライト40kg、貝粉末40kg、化成肥料20kg、有機肥料20kg、過リン酸石灰20kg、10アール当たり成分に換算すると、窒素で21.6kg、リン酸で44kgカリで9.6kgの施用となります。ロータリー耕をした後、トラクターでうねを立てます。というよりは通路を作ると言った方が適切です。この方が横に傾斜のある畑ではトラクターの直進性が良くなります。


 写真は改良したうね立て機です。



 機械でうねを立てた後手直しをし、灌水チューブを張ります。灌水チューブはエバーフローのSタイプを使用しています。そのあと黒のポリマルチを敷きます。


 育苗ポットが12cmですので、マルチを12cmに切っている所です。


 そして一度灌水し、うねを湿らせてから、上から器具で押し、植え込み穴を開けます。



  EM重点試験区12棟には、6月7日から17日までに定植しました。植える時は花が通路側に向くように植えています。


 これは定植してから10日位経過している状態です。少し誘引作業が遅れています。この頃から次第に天候が悪くなってきています。

 7月13日これは3段目位の開花の時期です。これは7月21日4段目の開花期の頃です。
 この頃になると更に天候が悪くなってきています。この時期はトマトの木にも馬力を付ける時期なので、追肥として10アール当たり、窒素で2.6kg、リン酸で2.1kg、カリで1.6kg、活性液2.6リットルを3段目、4段目、5段目にと、生長に合わせて追加していきます。


 また、灌水用の5トンタンク4基の中には、EMセラミックス5kgずつをそれぞれ入れているのですが、日照不足の為、木に力が付かず、上へ上へと細くなる一方です。


 そのため写真でも分かるように、樹勢が弱く着果数も少なくなっています。

 例年知内町は6月末から7月末まで、オホーツク海高気圧の影響で冷たい偏東風が吹きます。通称「やませ」と呼ぶやっかいな風です。こいつがやってくると湿度が高く冷たい風が吹き、山のハウスは霧の中というよりは、雲の中といった状況となります。30m先も見えない事もしばしばで、これが何日も何日も続きました。こうなるとハウスの換気は容易ではなく、灰色カビ病の菌が動き出す絶好の条件となるわけです。それが今年は8月いっぱい続き、一段目の収穫からその害を受け、実がポトポトと落ち出しました。朝ハウスを覗くと通路が落ちたトマトで敷き詰めていたように見えます。


 とうとう我慢していた農薬を使う羽目となりました。この時期に殺菌剤を3回程使いました(21)。農薬の効果が見られず5段目、6段目のほとんどが落ち、悲惨な結果となりました。トマト作り10年目で何度か味わう経験ですが、本当にがっくりきます。改めてEMでの対応策の研究をより一層進めなければならないと痛感しました。
 9月に入ると天候が一変し、快晴続きとなりますが、着色が早まるだけで、たとえ着果しても日数が足りず収穫には至りません。今年の天候は異常で、台風の発生が遅れたり、また、発生したかと思えば、立て続けに上陸し、日本各地に大きな被害を与えました。幸いにも知内町は台風の被害はなかったものの、極端な日照不足に悩まされ、水田反収も5俵から6俵程度となりました。


 特にトマトは他の作物に比べより多くの光を好む作物であり、日照時間が大きく品質、収量に影響してきます。隣町にあるアメダスの過去12年間のデータを平年値とし比較すると今年6月は37%の日照時間、7月上旬は17%、中旬は117%と多かったものの、下旬は10%と極端に少なく7月全体で47%と低い値でした。例年ですと8月には天候が回復し、夏らしい暑い日が続くのですが、日照時間は34.5%と低く、また30度を越える日は今年は1日もなかったのです。このような天候下では過去にも経験がありますが、たとえ農薬を多投したとしても、灰色カビ病を押さえる事は無理です。
 このような気象条件下での今年のトマトの成績は、反収5.9トン、A品率19.4%、B品率56.8%、C品率23.7%でした。平年ですと反収7トン、A品率30%前後から見ると低い値となりました。特に昨年EM初年度の単収8.5トン、A品率27%から見ると大きく下回っておりますが、異常気象下の中では止む得ないと考えております。しかし、平成8年まで大なり小なり必ずと言っていいほど出ていた土壌病害のイチョウ病がEM初年度の昨年も、今年も皆無と言っていいほど出ていないのは、EMの効果によるものと考えています。以上の事から今までの反省の上に立って、今後の取り組みとして、

1、EM菌と仲良しになる
 EMを始めてまだ2年目、EMに対して未知の部分が数多くあります。まずはEMの勉強が第一と考えています。その為にはEMと仲良しになる事です。EM研究機構のアドバイスをお願いします。
2、EMボカシはロールパックで完全密封


 今年春まではシートで包む手法でしたが、牧草のロールパックを参考に業者に小さく作って頂きました。



  これだと1袋約400kg入ります。上部を縛ると完全に密封出来ます。



  また、今までの米糠だけの1型EMボカシから、大豆かす、魚かすなども混ぜた2型EMボカシとし、今年秋から施用しています。


3、EMの施与量を多くする
 今までは10アールあたりEMボカシ120kg、EM活性液1リットルでしたが、今年秋からはボカシ200kg、EM活性液は海水を利用したもので10リットル用意しました。また、EM2号、3号を合わせ使用したいと考えております。それに堆肥にもEMボカシと活性液を混ぜ10アール当たり5トン鋤き込むことにしました。
4、ポカリスエットの利用
 昨年EM普及に力を注ぐ沖田機器の社員から、人間が飲んでも良いものだから、トマトにも良いかもしれないよとポカリスエットの応用を進められました。その善し悪しを述べる事はまだできませんが、植物にとってもEM菌にとっても有効なものと思われます。今年は異常気象の為、葉面散布作業がままならず、ポカリスエットの利用が遠のいてしまいました。しかし、我々の研究会のメンバーで、灰色カビを出しておらず、ポカリスエットの葉面散布を実行し、良い結果を出した人がいました。


5、作業効率の向上
 経営面積が大きい為、今所有している散布機械では、ハウス防除ロボットでは3日間、噴口を持って人手で2日間、他の作物の防除を入れますと一回りするのに4日間程度必要になります。散布作業が短時間で終えるように、散布作業機の工夫、改良をし、適期葉面散布に務め、散布回数を多くしたいと考えております。
6、栽植密度を広げ通気性をよくする
 北海道の平均は10アール当たり3000株ですが、私の所は約2800株です。これでも今年のような天候であれば通気性に問題があり、来春からは株間、45cmから50cm、2500株から2250株にと考えています。


 以上の6項目をこれからの課題として、EM研究機構のアドバイスを得ながら腐敗型の土壌からの脱出に努力し、畑を蘇らせる事ができれば、病害虫の害や或いは連作による障害がなくなり、品質が向上し、定規格品や、労働力の減少に結び付き結果的にはコスト削減となって農業経営の安定、更には規模拡大へと大きく前進する事につながります。また、EMによって健全に生産された食物が皆様の食卓に上がる事ができれば、消費者の皆様方の健康にも大きく貢献できるものと確信しております。今後もこれらの消費者ニーズに答える安全で、おいしいトマト作りに頑張って参りたいと考えております。 (のぐち けんいち)



野口 健一
 1956年(昭和31年)1月21日北海道上磯郡知内町生まれ。1979年北海道拓殖短期大学農業経済科卒業。1979年(昭和54年)より農業に従事・野口農園代表。現在に至る。知内町環境浄化研究会・農業部部会長、JAしりうちトマト部会副部会長、知内土地改良区理事など歴任。