交流サイト最大手の米フェイスブックは、約9億人に上る会員の個人データを活用する新たな販売拡大策について試験を始めており、プライバシー侵害への懸念が再燃している。
フェイスブックはここ数カ月間、広告の効果を上げるため、小売り会社が会員のプロファイルに載った電子メールアドレスや電話番号、さらには会員のネットサーフィングの癖に基づき、ターゲット広告を配信するのを試験的に認め始めている。同社はまた、フェイスブックを超えて会員をフォローするような広告の試験販売も開始した。
フェイスブックは、同社広告とオフライン店舗での会員の買い物の習慣との関係を調査するため個人データを利用しているもので、プライバシー擁護を唱える団体は問題視している。フェイスブックの企業向け広告売上高は年間37億ドル(約2900億円)に達している。
同社は、どの企業が調査に参加しているのかは明らかにしていない。基本的には、フェイスブック上の広告が売り上げを全体としてどの程度増やすのかを調べる。当初の段階ではまずまずの成果を挙げているという。
フェイスブックは、小売り企業を引き付けるため会員データを活用することと、個人データを秘匿するという会員や規制当局への約束との間の細道を踏み外さないよう歩かなければならない。同社の広告商品を管理しているゴクル・ラジャラム氏は新たな販売拡大策について、「我々は、小売り会社が適切な時と場所で適切な顧客に到達するのを容易にするよう取り組んでいる」と指摘する一方で、「ユーザーのプライバシーを尊重する方法で行っている」と断る。
フェイスブックは、個々のユーザーのデータは小売り会社には売っておらず、ましてや小売り会社にデータを直接閲覧させてはいないと強調している。しかし、プライバシー擁護団体は、同社は多くの場合他のインターネット会社よりも個人情報を多く扱うので、特段の注意が必要だと訴える。グーグルは、検索やブラウジングの癖からユーザーを推測するが、フェイスブックは名前や友人、電話番号、趣味など小売り会社にとって貴重な個人情報を会員が提供することで成り立っている。
フェイスブックは9月に、販売会社が自前の電子メールアドレスや電話番号リストを基に、1度に少なくとも20人のフェイスブックの特定ユーザーに対しターゲット広告を配信するのを認め始めた。フェイスブックはこの外部のデータを、ユーザーのプロファイルに入力した情報と照合する。例えば、衣料品店は、買い物の癖を基に送信相手を絞り込める。銀行ならば、預金残高の多い顧客に広告を送り込める。
フェイスブックはまた今夏に、同社のデータを使って、他社のウェブサイトやアプリ向けに広告を販売する試験も開始した。例えば、ゲームサイトのジンガ・ドット・コムに広告を掲載し始めた。9月には、第3者のスマートフォン・アプリに広告を掲載し始めると発表した。いずれのケースでも、フェイスブックのアカウントにログインする特定の人向けに絞って広告を発信する。
一方、同社は8月、データ分析会社データロジックスと共同で、フェイスブックの広告を見て現実に店舗で商品を購入するようになるのかどうか調査していることを明らかにした。調査では、データロジックスが小売店から顧客が購入する商品に関する情報を収集、それをフェイスブックのユーザーの電子メールアドレスなどと照合し、どの程度の人がフェイスブックの広告を見ていたのかを推定する。
同社によれば、テスト調査では50件近い広告が掲載されたが、このうち70%についてフェイスブックの広告に1ドル投じると3ドルの増収になることが分かったという。
訂正:見出しを「フェイスブック、個人データの試験販売を開始」から「フェイスブック、会員情報の活用拡大を試験的に開始」に訂正しました。