生きられる社会へ:生活保護の今 基準額切り下げ現実味 「耐えている」層を直撃
毎日新聞 2012年09月27日 東京朝刊
日本では、生活保護を利用できる水準で暮らす人のうち、実際に保護を利用する人は2割程度に過ぎないとされる。保護基準額切り下げは、保護を受けずに“耐えている”層を直撃する。
◇「最低生活」の議論、広がらず
生活保護は生存権を定めた憲法25条に基づき、国が国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度だ。5年に1度の全国消費実態調査に合わせ、生活扶助の基準が妥当かどうかを検証することになっている。現在、社会保障審議会の部会で検証中で、今年末に報告書が取りまとめられる予定だ。
保護基準額は戦後の経済成長とともに右肩上がりだった。年金の支給額を減らすのに合わせて03年度に初めて前年度比0・9%切り下げられ、04年度も0・2%の削減。老齢加算も段階的に廃止された。それ以降は経済状況の悪化などで据え置かれている。
「生活保護は最低生活をどう構想したか」の著書がある神奈川県立保健福祉大講師の岩永理恵さんは「不況で一般世帯の生活水準が下がっているのに合わせて、基準額を切り下げていくと際限がない。社会の地盤沈下を招く」と心配する。「生活保護制度の歴史をさかのぼると、保護基準は『起きて食べて寝る』だけの栄養を満たす費用として設定された。子育てや人付き合いなど当たり前の『暮らしのあり様』は、想定されていない」
吉永教授も「日本には、アフリカの飢餓と比べて『食べられて死ななければいい』という貧困観が根付いている」と指摘する。「健康で文化的な最低限度の生活とは何か」の議論が広がらないまま、社会保障費増大への懸念に押されて基準額切り下げが進みつつある。
「生活保護基準額は、実質的に『ナショナルミニマム』として私たちの生活を下支えしている。切り下げは、今の時代を生きる私たちみんなの問題だ」