生きられる社会へ:生活保護の今 基準額切り下げ現実味 「耐えている」層を直撃
毎日新聞 2012年09月27日 東京朝刊
女性は孫たちの将来を考え、パソコンとインターネットだけは設置している。「教育にはお金をかけないと彼らは貧乏から抜け出せない。食べ盛りなので食費も減らせない。保護費が減ったら生活がどうなるか、心配で胸が痛みます」
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吉永教授は、生活保護を受けていない「ぎりぎりの生活」をしている人たちにも大きな影響がある、と強調する。保護基準額が他の社会制度や福祉サービスと連動するためだ。
●最低賃金に影響
その筆頭は地域ごとに決められる「最低賃金」(最賃)。07年の法改正で、生活保護施策と「整合性があるべきだ」とされた。生活保護基準額が最賃を上回る「逆転現象」が問題視され、今年の最賃引き上げでは5府県が矛盾を解消したが、6都道府県では逆転したままだ。そもそも今の日本の物価水準で最賃で暮らすこと自体が相当困難なことを考えれば、基準額が切り下げられ、最賃が低いまま逆転現象が解消されたことになると、最賃引き上げはいっそう難しくなる。
●就学援助にも
小中学生の学用品や修学旅行の費用を助成する「就学援助制度」も関係がある。自治体ごとに対象とする世帯の基準は異なるが、多くは「生活保護基準の1・0〜1・3倍以下の所得」などとしている。
公立小中学校の全児童生徒のうち、15%に当たる約155万人(10年度)が利用している制度だ。ほかに低所得者向けの融資制度である生活福祉資金貸し付け(多くは生活保護基準の1・7倍以下)など、保護基準の倍数で対象者を規定する制度は多い。
●住民税も課税強化
住民税を非課税とする基準額も、最低生活費を下回らないよう設定することが法律で明記されている。保護基準額の切り下げで、収入は変わらないのに課税世帯にカウントされる低所得者層が増えると予想される。また、「住民税非課税世帯であること」は国民健康保険料などさまざまなサービスでも減免措置の要件になっている。