'12/9/18
新司法試験 「過疎」生まぬ見直しを
中国地方に4校ある法科大学院がすべて、ことしの新司法試験の合格率で全国平均の25%を下回った。とりわけ島根大は1桁台にとどまり、来年度は国からの補助金を削減される。
全国でおしなべて低迷する合格率や入学志願者の激減を受け、政府は制度を抜本的に見直す方針だ。法科大学院の統廃合も視野に入ってこよう。
新しい司法試験は、大都市圏に集中する弁護士の偏在解消も狙いの一つだった。制度を見直すとしても、司法過疎を生まない理念を忘れてはならない。
2006年に始まった試験は、少人数で実務教育を重視するロースクールを持つ米国がモデル。法科大学院の修了を受験の条件とした。
ことしの試験では合格者が2012人と昨年より39人増え、過去最多に達した。合格率もわずかに上がった。
とはいえ、当初想定していた70〜80%の合格率には程遠い。なぜ率が上がらないか。法科大学院の校数や定員が多すぎたと言わざるを得ない。
全国74校のうち、既に5校が撤退を決め、一部の学校は定員の削減を進めている。
中国地方の法科大学院は、広島大の合格率が21%(合格者19人)、広島修道大は18%(8人)、岡山大15%(12人)、島根大6%(2人)。広島大と広島修道大は率、人数とも昨年を上回ったものの、大都市圏の上位校とはかなりの開きがある。
島根大は09年度から定員割れが続く。10年度以降は定員を30人から20人にしたが、本年度の入学者は3人にとどまった。
国の統廃合の動きに対し、島根県内の弁護士たちは島根大法科大学院の存続を訴えている。「山陰唯一の法曹養成機関。その存在意義を大都市と同一の次元で考えるべきではない」との主張はうなずける。
地元に定着し、住民を助ける弁護士を育てるため、法科大学院が果たす役割は大きい。
その点、新司法試験は成果を生んでいる。地方裁判所の支部管内に弁護士が1人以下の地域は、01年には全国で64カ所あった。現在では石川県輪島市の周辺だけに減っている。
政府は先月、司法試験を含めた法曹養成制度を見直す有識者会議を設けた。来年8月までに結論を出すという。
法科大学院の統廃合は、合格率などの基準で一律に判断するのは望ましくない。過疎地には特例を設けるなど、地域バランスに十分配慮してもらいたい。
司法試験の合格者数は議論の的になろう。新試験では法曹をもっと市民に身近な存在にするため、合格者を従来の千人から3千人に増やすとしていた。しかし、実際は2千人前後にとどまっている。これに対して、日本弁護士連合会は若い弁護士が就職先に困っている実態から、合格者を1500人に減らすよう提言している。
適正規模を判断する物差しを示さなくてはなるまい。
お年寄りが巻き込まれる消費者問題は後手に回り、認知症の人たちの成年後見人も不足気味である。高齢化社会の進展で、弁護士が担うべき役割は重くなっていくはずだ。
日本社会は一体どのくらいの法曹人口を必要とするのか。実態と将来の予測を踏まえた、慎重な検討が欠かせない。