イソ弁になれず、10人ほどの仲間と共同法律事務所を設立したDさん(30歳)の口から出てくるのも、ため息まじりの嘆き節ばかりだ。
「事務所が共同なだけで完全自営業。自力で稼ぎ、家賃や光熱費、事務員の給料などは、すべてワリカンでやっています。
必ず出ていく経費としては、弁護士登録料が月2万円。奨学金ローンが3万5000円。事務所家賃その他の諸経費が7万円超。最低でも13万円は必要なのに、月収10万円を切る月もある。だから多めに入った月は、とにかく貯蓄に回します。明日はないといった不安が常につきまとっています」
こうした現状に加え、さらに先行きを暗くする"ダメ押し"まである。
昨今、弁護士が数多くこなしてきた「過払い金訴訟」が頭打ちで、今後は減る一方になるのだ。
サラ金やクレジット会社などの高利金融業者は、これまで出資法(上限利率年29.2%)と利息制限法(同15〜20%)の間を取ったグレーゾーン金利で潤ってきた。ところが'06年の最高裁判決以降、利息制限法の制限金利を超える部分は元本に充当され、元本がゼロになった後の支払い分については、過払い金として返還請求ができるようになったのだ。
この請求業務が弁護士業界に"過払い金請求バブル"をもたらしてきた。しかし、6月から施行された改正貸金業法により出資法の上限金利が20%に引き下げられ、グレーゾーン自体が撤廃された。新たな過払い金訴訟が生まれなくなれば、必然的に過払い金請求は下火になっていく。
「うちの事務所も売り上げの半分は過払い関係だから、先行きは暗澹たるものです。しかも最近は、過払い金を取り戻すのも大変になってきました。
全国から返還請求を突きつけられて資金が枯渇した業者に支払い能力がなくなり、裁判で勝っても1円も取れないケースも増えているからです。過払いバブルで、債務整理専門の大手事務所が乱立したけれど、これからは悲惨なことになりますよ。スタッフが確実に余っていくんですからね」
(都内に事務所を構える民事専門のボス弁)
中にはこんな話もある。
「弁護士は債務整理を代行し、その手数料として、取り戻した過払い金などの数割をもらうわけですが、中には過払い金の大半を吸いあげるような事務所もあります。就職先のない若手は、そうした事務所に入るのは弁護士としての魂を売り渡すようなものだと分かっていても、背に腹は替えられないと、目をつぶって入るのです」(同前)
それなのに逆恨みされて・・・
経済的な困難に加え、弁護士は生命の危険にもさらされている。
去る6月、横浜市で前野義広弁護士(享年42)が離婚調停をめぐるトラブルから男に刺殺された事件は記憶に新しいが、同様の事件はこれまでにもたびたび起こっているのだ。
'00年以降に限っても、事務所に送りつけられたダンボール箱が爆発して弁護士と事務員が怪我を負った事件('00年6月)や、強制執行先で弁護士が相手方から日本刀で斬りつけられた事件('01年7月)、離婚の調停で相手方の夫が逆上、弁護士を殴ったうえで包丁で切りかかり、顔面神経切断の重傷を負わせた事件('04年9月)、弁護士の顔などにコーヒー缶に入れた灯油を浴びせ、炎症を負わせた事件('08年9月)など、枚挙にいとまがない。前出の保田氏が言う。
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