年収1000万円を優に超える、リッチな生活。高い学費を払い、苦学の末に手に入れた金のバッジは、勝ち組人生へのチケットだったはずだ。しかし、取材に協力してくれた現場の弁護士は、口を揃えて「儲からない」と言う。謙遜かと思いきや、事態はこんなに深刻だった。
「正義のために働きたいという気持ちの裏に、『おカネが儲かって、勝ち組になれる』という打算があったのも事実です。
でも、現実はまるで違いました。現在の私は、年収500万円で200万円の借金を抱える多重債務者です。ロースクール時代の借金を未だに返済できず、"ボス弁"から振られた雑用をクタクタになってこなしながら、爪に火を点すような生活を送る—そんな毎日を繰り返しています。
今は我慢の時だと自分に言い聞かせていますが、気持ちが折れそうになることもたびたびです」
都内の弁護士事務所で"イソ弁"をしているAさん(28歳)は、そう呟いて下を向いた。
サラリーマンを辞めて弁護士を志し、今年資格を得たばかりのBさん(32歳)の名刺には、090で始まる携帯電話の番号が印刷されていた。固定電話の番号ではない。事務所を持たず、携帯電話1本で仕事をしているからだ。
「就活で50軒ほど法律事務所を回りましたが、想像を絶する就職難で、まったく決まりませんでした。でも奨学金の返済はあるし、食い扶持も稼がなくてはならない。そこで、やむなく携帯1本で独立することにしたんです。
仕事? ほとんど入りません。今は債務整理を3本ほど抱えているだけ。この業界はコネが命です。みんなが就職したがるのも、"ボス弁"から仕事を振られたり、クライアントを紹介してもらえるから。月収はいい時で30万円程度。カツカツですよ」
高い収入とステータス。数ある士業(さむらいぎょう)の中でも、"高嶺の花"だった弁護士業に、大異変が起きている---。といっても、きっとあなたはピンとこないだろう。
AさんやBさんのような弁護士はごく一部で、大部分の弁護士はリッチな暮らしをしているはずだ、と。しかし、そんなイメージは、もはや古き良き時代の幻想に過ぎないのだ。
生きるだけで精一杯
小泉政権下の'01年、司法制度改革推進法で法律家の大幅増員が決められて以降、弁護士の数は年々増加の一途をたどってきた。国民へ十分な司法サービスを提供するためだ。'95年に1万5000人程度だった弁護士は、'09年には約2万7000人と倍近くに膨れあがった。政府は今後も司法試験の合格者数を毎年3000人程度まで増やしていく予定だ('09年の合格者は約2000人)。
一方、当初の計画に反して、訴訟件数は減少傾向にある。
弁護士が新たに受任した訴訟件数は、'04年は574万件だったが、'08年には443万件と、2割以上も減少。結果、増えすぎた弁護士が仕事にあぶれる状況が生まれているのだ。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、'05年の弁護士の平均収入は2097万円だったが、'08年には801.2万円に減っている。
日本弁護士連合会(日弁連)会長の宇都宮健児弁護士が語る。
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