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大間原発建設再開 事後報告、怒り噴出

2012年10月02日

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函館市の工藤寿樹市長(左)に建設再開を伝えるJパワーの渡部肇史常務(右)=函館市役所

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警備員が見守る中、大間町役場前で建設再開反対を訴える大間原発訴訟の会のメンバーら=青森県大間町

■函館市長「同意もなく」

 道南の声を無視した再開はあり得ない――。Jパワー(電源開発)は1日、大間原発(青森県大間町)の建設工事を再開すると正式に表明した。だが、津軽海峡を挟んだ函館市や道は、事後的に簡単な報告を受けただけ。道南の首長や市民から、怒りの声がわき上がった。

 函館市役所には1日午後、Jパワーの渡部肇史常務ら3人が訪れた。建設再開の報告を受けた工藤寿樹市長は「最短23キロの所に同意もなく大変危険なものをつくるのは本当に腹立たしい。改めて函館で説明会を開いた上でやり直すべきだ」などと同社の対応を批判した。

 さらに「津軽海峡にはあらゆる船が航行する。テロ対策や外国不審船への対応は考えているのか」などと立て続けに疑問をぶつけ、不満をあらわに。面会終了後の会見では、建設を食い止めるための提訴の準備を進めているとした上で、「実際に現場に作業員が入り、工事自体が始まる時期」と、提訴のタイミングまで語った。

 面会後に工藤市長から説明を受けた近隣の北斗市や七飯町の首長らも、批判を口にした。北斗市の高谷寿峰市長は「そもそも反対しているところへ常務、賛成しているところに社長がいくのは筋違いで腹立たしい」と話した。

■住民からも反発

 住民らにも反発が広がった。建設差し止めを求めて函館地裁で係争中の「大間原発訴訟の会」の竹田とし子代表(63)は、同市役所前で反対活動をし、「(福島第一原発事故の前に出た)昔の許可で再開しようとしている。信じられない」と声を上げた。

 函館市でイカ釣り漁業をする安井龍也さん(60)は「5〜6月は私たちの方に向かう南東の風が吹く。原発事故があれば函館は全滅だ。再開なんて許されない」。函館商工会議所の酒井康次専務理事は「次世代に禍根を残すのは駄目だ。(原発に問題が出れば)水産も含め経済への影響は大きい。風評被害は目に見えている」と話した。

 「訴訟の会」の函館市のメンバーら数人は、Jパワーの北村雅良社長が訪れた大間町役場前にも乗り込んだ。役場の駐車場には柵が設置され、10人以上の警備員が立つ物々しい雰囲気の中、地元の仲間らと横断幕を手に再開反対を叫んだ。

 中には故・熊谷あさ子さんの娘の小笠原厚子さん(57)の姿もあった。母は大間原発反対を貫き、原発にほど近い土地を最後まで売らなかった。小笠原さんは、その土地とログハウスを受け継ぎ、ここと北斗市の家で生活する。

 町役場を出る北村社長に思いをつづった手紙を手渡そうと社長の車に駆け寄ったが、声は届かなかった。

 「これだけの自然、マグロなどのブランド品があるのだから、原発に頼らずともやっていけるはず」と話した上で、「同じ思いを持つ人が大間にもいるはず。表だって行動できなくても、そっと私たちの背中を押してほしい」と話した。

■道庁「甚だ遺憾」

 道庁には1日、Jパワーの日野稔副社長らが訪れ、建設再開の決定を伝えた。道は9月26日、同社に再開しないよう求めたばかり。多田健一郎副知事は「日もたたぬうちの再開は甚だ遺憾。新たに払拭(ふっしょく)された疑問もない」と述べた。

 同社は1日の道庁訪問前に、ホームページで再開決定を知らせていた。事後報告となったことについては「情報提供をお願いしたにもかかわらず、重ねて大変残念だ」と批判した。

 一方、同社の北村社長は同日夕に青森市内で会見し、函館市の工藤市長が提訴を辞さない構えを見せていることに「訴訟が提起されることは大変残念な思い。安全対策を説明して理解を得ていきたい」と述べた。

(中沢滋人、芳垣文子、伊藤政明、諸星晃一)

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