大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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各地の水辺で旅鳥(たびどり)が観(み)られる季節である。北国で繁殖し、日本を経て越冬地に南下する渡り鳥で、チドリやシギの仲間が多い。国内でひと夏、ひと冬越す鳥たちに比べ、どこかお客さんのよそよそしさがある▼陸揚げされた岩国基地から、沖縄の普天間飛行場へ。しばし休んで飛び去る旅鳥のように、米海兵隊の輸送機オスプレイが渡り始めた。台風をやり過ごし、いよいよの「実戦配備」である▼住宅地にあり、世界で最も危険とされる基地に、墜落が続く新型機がたむろする。日本を守る約束には「沖縄を捨て石に」のただし書きが付いているかのよう。「頭に落ちてくる可能性があるものを、誰が分かりましたと言えますか」。県知事の怒りは当然だ▼軍用機に求められるのは、様々な「強さ」だろう。下界の平穏は、乗り心地や騒音と同じく二の次、三の次だ。日米両政府の安全宣言ひとつで、「安心」になるわけではない▼オスプレイの沖縄投入の背景には、中国の軍拡という要素もあるやに聞く。尖閣諸島をめぐる緊張と、かの国のあけすけな圧力は、安全性に対する心のハードルを引き下げた感がある。少し危なっかしくてもという「甘え」が、本土の国民になかろうか▼すぐ西には尖閣の島々、台湾海峡、中国本土。きな臭い東シナ海に、同じ臭いの渡り鳥が飛来し、有事の空気はさらに濃い。これを吸わされるのも沖縄の民だ。安保の負担に加え、外交のツケまで回され、日本という国に愛想が尽きても不思議はない。