
水のリングを求めて、滝の洞窟へ。
さくさくっと行きたいところだが、滝の洞窟がある場所には、水門を開けてもらわねば船が入れず、至れない。
水門の管理は、山奥の村の人らが請け負っているという話なので、キラーパンサーのゲレゲレをはじめ、なるべく一般人が脅えおののき、一も二もなく泣いて協力してくれるようなドスのきいた面構えのモンスターで乗り込む。
おう。そこの水門シメとんのは、どこのボケじゃ、ウラァ!
ビアンカ:「…あたしだけど、それがなにか…?\( ̄_ ̄メ」
主人公:「…ッ、間違えましたごめんなさいッ!!!!!」<条件反射
村には、幼馴染のビアンカ姐さんがいた。
ビアンカ:「久しぶりの再会で、挨拶がそれか。ええ?」
主人公:「いや、あはははは。見違えちゃったんッスよ。姐さんすっかりお美しくなられて」
ビアンカ:「それはなにか? 昔のあたしは美しくなかったとでも?(アイアンクロー)」
主人公:「いえ。そりゃお姐様は、昔から輝く美貌でございましたが…っ」
経験値を積んだ俺だ。
まともに戦えば、いまだ幼少時と同じ棘のムチしか装備していない姐さんなど、あっさり勝てるはずなのだが。
三つ子の魂百まで。幽霊城を攻略するまで、怖がろうが死にかけようが足をつかんで引きずり回された、あの頃の記憶がフラッシュバックする。
嘘偽りや隠し事など、できようはずもない。
事の仔細を自白のうえ、水門を開けてほしい、と。平身低頭お願いをする。
ビアンカ:「いいわよ」<あっさり
主人公:「え…?」
ビアンカ:「ただし、あたしもついて行くわよ。ルドマン家までね」
主人公:「ええっ! なんでっ!」
ビアンカ:「ルドマン家って言ったら、大金持ちの名家よ! お近づきになっておいて損はないわ。金持てあました若いイケメン男との出会いフラグだって立つかもしれないわ。うふふ…!」
主人公:「…ね、姐さん…ッ!!?」
ビアンカ:「あんただって見たでしょ。うちの虚弱親父。気候のいいこの温泉村で湯治生活も悪かァないけど。金と力のある若い男つかまえて、悠々自適。父さんには名医、あたしにはゴージャスな生活!!! そんな未来をもぎとるのよ。このあたしの美貌で!!!!!!!」
姐さん…。相変わらず甲斐性ありまくり…。
ということで、パーティメンバーを変更。
俺+姐さん+俺とおなじく借りてきた猫のようにおとなしくなったゲレゲレと、スライムナイト…いや、魔法使いのマーリンにしておこうかな。
ビアンカ:「わかってるでしょうけど、あたしの美貌に傷ひとつでもつくような事になれば…」
主人公:「皆! ガンガン逝こうぜ!!!!!(号泣)」
血の小便が出るまで折檻されたくないだろ、みんなたち!!!!(少なくとも俺はいやだ)
死んでもビアンカ姐さんを守れ…。守るんだ…。
主人公を一睨みですくみあがらせるビアンカ姐さんとはいえ、数回のバトルを経てみると、やはりうちの精鋭人外パーティに比べて戦力ダウンをいなめない。
というか「身の守り」が低いうえに、HPも低いんだもん。ガツガツ削られては、回復呪文でお世話させていただくというローテーション。
姐さんだって本当はかなりキツイし、怖いはずなのだが。
それでも威勢のよさは変わらぬあたり、さすが姐さん。そういうとこも昔から変わらない。
人に弱みをみせるを潔しとせず。そして目的のためなら恐怖をも押さえ込んで、達成するまでくじけません。
ビアンカ:「いいことっ。宝箱の回収は迅速に!抜かりなく! 取りこぼしあったら絞首刑よー!」
…。(泣)
いまわの際までしっかり者に違いない。姐さんの叫びを背に、盗掘しまくる。
こんなに綺麗で、マイナスイオンもいっぱいの洞窟なのに、心がすさんでいくよ、ママン…。
水のリングを見つけて、ゲット。
もちろん隅々まで歩きまくって、宝箱もがめた。
姐さんは後半血ィ流しまくったままの旅程となったが、首の皮一枚に欲の皮をプラスして紙一重で生還。姐さんは風ッス!
ダンジョンを出ると、皆で姐さんを守りながらサラボナへ帰還。
お義父さーん。ルドマンのダディ〜。リング二つ揃ったよ♪
さあ娘を寄越せ、俺に!
てか、どうかお嫁さんになってくださいフローラさんー!!!!!!!
フローラ:「そちらの女性は…?」
うええええええぇぇぇぇぇぇぇえええええぇえぇぇっ…!!!!(号泣)
姐さんのことを、フローラに誤解されまくりだーっ!!!!!!!
主人公:「違うんです! コレはあなたの家の財産につらなるコネとイケメンを狩りにきた女豹で、断じて俺との仲がどうとかは…!」
ビアンカ:『よーしいい度胸だ。そこ動くな。いまスピアで串刺しにしてやるから』
と、
普段なら切り替えしてくるはずの姐さんが、こんなときに限ってしおらしい。
え…。え…。まさか…。冗談だよな、姐さん。
各界の稼ぎよさそうな若い衆に影響あるだろうルドマン氏に、しとやかな女性として売り込むためのイメージ戦略だろ? そうだと言ってくれ、姐さんっ(焦)
ルドマン:「ビアンカさんとフローラ、どちらを嫁にしたいか。今夜は宿屋にでも泊って一晩ゆっくり考えるといいぞ」
って、俺はベッドしかない宿屋で、姐さんは「はなれ」かよ。ゴージャス・アネックスかよ。
差別だ差別だ。ルドマンさんは僕をお婿に迎えたくないんだーうわあぁんーっ!
泣きつつも、逆らえやしないので宿屋へ。
そして夜が更けていく。
俺が、幼馴染の姐さん女房を選ぶか、白バラのような初恋のお嬢さんを選ぶか、トトカルチョでもりあがっていそうな町の喧騒を抜け、俺は愛しいフローラのもとへ向かった。
俺のことを覚えている? ていうか、無理強いの結婚になっちゃうの? もしかして嫌なのかな?
尋ねようと思ったのに、フローラ…。爆睡中…。
……どんまい……っ。【ノ_;】
泣き顔ぬぐってビアンカ姐さんのところへ。
姐さんは寝付けなかったそうで、起きていた。
なんだよ姐さん、さっきの態度はっ。脅かすなよ。ビックリすんだろ!
ビアンカ:「なに本気にしてんのよ。バカね、あんたって子は。ほんといつまでたっても」
主人公:「あのねぇ、姐さん…」
ビアンカ:「まあね。あんただって、正直悪くはないわ。バカは治らないにしても、そのおかげでバカ力はついたみたいじゃない。モンスター狩りまくってお金と経験値貯めまくれば、あたしのような美女をつれ歩く資格くらいはできるかもだわね。ご面相なんてもんは、慣れとも言うし」
主人公:「褒められてんだか、貶されてんだかわかんねーよッ!」
ビアンカ:「ほんとバカね…っ!」
主人公:「…かしこさのパラメーター比べようか…?」
ビアンカ:「(殴…!)」
あああ。やばいな。なんとなく判ってしまった。
姐さんって照れ屋の口下手なんだ。
ビアンカ:「フローラさんと結婚したほうがいいに決まってるわ。悩む事ないじゃない」
主人公:「……うん……」
きっと姐さんは…。あるいはもしか、ひょっとかすると、ちょっと本気で……。
宿屋への帰る道々、悩みまくる主人公。
断っておくが、どちらにプロポーズしようかというレベルの悩みではない。断じて違う。
プロポーズするのは、フローラにだ。もちろん。
幼い頃の憧れの少女。再会したときと合わせて二度の一目惚れだ。心は決まっている。
あんな、まるでお姫様みたいな可憐なフローラを、けれど世界を手にするという俺の野望に付き合わせてよいものだろうか。苦労をかけてしまうだけなんじゃなかろうか。
そういった迷いならば、たしかにあった。
ついさっきまでは。
しかし、杞憂であると確信にいたったのは、あのフローラの寝顔。
結婚という人生の大きなイベントを前に、思いっきり気持ちよく安眠できる精神のタフさ。
もしあれが狸寝入りだとするなら、またそれもなおさら。
フローラは…、彼女ならばこそ、俺が手に入れる世界の皇母となる日が来ても、臆すことなく平然と受け入れ、つとめる女傑に違いない。
それだけの胆力を、俺はフローラのなかに見た。
姐さん…。あなたに恋愛感情が沸かなかったのは、たぶんそこなんだと思う…。
気が強く、男勝りを装っている姐さんだけど。本当はやさしくて、心根が繊細だって事を、こどもの頃の俺だって知っていたよ。
姐さんのことだから、俺が魔王と戦うって言ったなら、たぶん平気な顔してつきあって励ましてくれるんだろうけど。
でも、そうしたくない…。させたくないよ、姐さん…。
姐さんの気持ちに思い悩みつつ、そういえばどうしてるんだアンディ。
通りがかったので、様子を見に行く。
フローラを争う恋敵が、いよいよ明日にはプロポーズという今夜。
こいつ、まだ寝込んでやがる…。ダメだこりゃ…。
もしもアンディが、炎のリングを争う火山の洞窟で、
俺たちには適わず指輪をとられてしまう、と見抜く力があったなら。
そんで、仲間になるふりで馬車に同行して、最後の最後で炎と水と両方のリングをちょっぱり、ルドマン氏に「自分がとってきた」と言って提出するくらいの、
そんなFF7のユフィにも似た才覚と思い切りと、なりふりかまわぬ情熱があったなら。
俺、もしかしてフローラを譲ったかもしれない…。
けど、金もない力もない仲間すらもてない自分だと自覚してるくせに、
愛の一言に甘えて自分に酔ってるような、そんなドリーム男にフローラを預けられるか!!!!!!!
翌朝。まずはお約束。
ルドマン:「わしにプロポーズしてどうする!!!!!」
主人公:「こっちも、受けられちゃったらどうしようかと思いましたよ、はっはっは」
フローラにプロポーズ。
控えめに「本当に?本当に私でいいの?」 と尋ねるフローラが愛しい…。
フローラ:「私は守ってもらうことしかできない女ですよ」
主人公:「じゃあそのキラーピアスの初期装備はナニ?」
フローラ「それでもわたしを選んで下さるの?」
主人公:「だから二度も訊くなよ〜ぅ。照れるじゃないか」<バカ
フローラ:「うれしい! わたし幸せです。きっと良い妻になりますわ」
主人公:「……やっぱもう一度言って」<大バカ
うれしいって言ってくれた…。うれしいって言ってくれた。
ああもうなんて可愛いんだフローラ!!!!!
ビアンカ姐さんのことが気にならないっていえば嘘になるけど…。
うん。嫁のために、特注のベールをとりに行ってくるよ。いってきます。