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'12/9/30

生活保護見直し 自活支援歓迎できるが

 生活保護制度の見直しを柱とする「生活支援戦略」の素案を厚生労働省がまとめた。

 不正受給に対しては厳罰化で臨む一方、働く意欲のある人に自活を促す。膨らみ続ける生活保護費を抑制するための「両面作戦」といえる内容である。

 もちろん不正がはびこってはならない。国や自治体の財政をつとに圧迫している現状が見過ごせないのも確かだ。

 だが生活保護費の「適正化」を求めるあまり、真に救われるべき人の排除につながっては元も子もない。来年度の予算編成に向け、厚労省は年末までに最終案をまとめるというが、拙速は避けてもらいたい。

 厚労省によると、生活困窮者のうち就労可能とされる人は約30万人に上るという。

 素案のポイントの一つは、こうした人の働く意欲をかきたて自活につなげるかである。

 具体的には、ただちに企業で働くのが難しい場合、社会福祉法人やNPOが用意する職場体験や軽作業を体験してもらう。本格的に働く前の「中間的就労」との位置付けである。

 就職活動に励む受給者には保護費を上乗せ給付する。さらに受給者が働いて得た収入の一部を仮想的に積み立て、生活保護から脱却した時点でまとめて支給することも検討するという。

 働ける間は働くよう、周囲が支える方向性はうなずけよう。

 とはいえ、この不況下では社会的弱者の就労は一層厳しい。受け入れ企業への支援充実など別の観点も含めた総合的な雇用対策が不可欠ではないか。

 素案のもう一つの側面である不正対策では、不正受給に対する罰則を引き上げ、制裁金の導入も検討するのが柱となる。

 受給者らの所得を自治体が把握しやすくするため、照会があれば税務署は回答を義務付けられる。福祉事務所は健康診断の結果も入手できるようにする。

 気になるのは、受給者の親族が「扶養は困難」とする際に、その理由を自治体に説明する義務が生じる点だ。

 親族で助け合うのが望ましいとしても、迷惑を掛けたくない人も多い。生活保護の申請をためらうケースが増えはしないだろうか。配偶者間の暴力から逃げ惑う被害者も、住所を知られたくない場合が少なくない。

 今回の素案とは別に、厚労省は生活保護水準を見直す検討も本格化させる。だが「切り下げありき」は考えものだろう。

 生活保護の利用資格がある人のうち、受け取っていない「漏給層」が7〜8割程度に上るとの推測データもあるからだ。

 救うべき人を放置したまま支給水準を切り下げれば、日本弁護士連合会も危惧するように、際限のない引き下げにつながりかねない。

 生活保護の水準は最低賃金をはじめ、地方税の非課税基準や介護保険の保険料区分、困窮家庭への就学援助などとも連動している。その見直しは多方面に影響し、それこそ社会保障の根幹にかかわってくる。

 「最後のセーフティーネット」である。公正で持続可能な制度の構築に向け、あらゆる角度から検討を尽くすべきだ。

 貧富の格差は拡大し、雇用環境の改善が遅れる日本社会。生活保護の見直しだけでは根本的な解決に程遠いことも、忘れるわけにはいかない。




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