【ニュース】
ソフトバンクによるイーアク買収の舞台裏、iPhone 5の1.7GHz対応が契機
2012/10/01
イー・アクセスを子会社化しようと決めたのは、9月18日の夜に「テザリングをやろうと考えた瞬間」――。ソフトバンクの孫正義社長は、株式交換によるイー・アクセスの完全子会社化(関連記事)に関する緊急記者会見の場でこのように発言した(写真1)。イー・アクセスを子会社化するディールの成立まで、わずか12日程度しかない急転直下の展開であったことを打ち明けた。
当初、ソフトバンクモバイルから発売されるLTE対応のiPhone 5は、同社のネットワークのキャパシティーでは支えきれないとし、テザリングサービスを提供しないとしていた。しかし、同じLTE対応のiPhone 5を発売するKDDIがテザリングを提供すると発表したため、ソフトバンクモバイルは9月19日に緊急記者会見を開催。2013年1月15日から“後出しじゃんけん”の形でテザリングを提供するとしていた(関連記事)。
孫社長がテザリング解禁を決めた裏には、イー・アクセスが持つ1.7GHz帯の周波数帯を手中に収める算段があった。実はこの周波数帯は、3Gの時代には世界的に活用する事業者が少なかったが、LTE時代に入り「LTE band 3(もしくは9)」として国際的に標準化され、価値が一変している(関連記事)。欧州や韓国、アジアの事業者はこの周波数帯でLTEサービスを開始し、その国際的な需要の高さから、人気機種であるiPhone 5(GSM model 1429)もサポートするまでになった。
この周波数帯をソフトバンクモバイルが手に入れることで、ソフトバンク自身が2013年3月までに置局するとしている2.1GHz帯の約2万局に加えて、イー・アクセスが1.7GHz帯で置局した約1万局を上乗せし、iPhone 5を収容できる(写真2)。これだけの基地局があれば、テザリングを解禁してもネットワークを落とさずに運用できると孫社長は踏んだわけだ。
この計画を実現するために、孫社長は短期間でイー・アクセスに猛烈なラブコールを送った。イー・アクセスの千本倖生代表取締役会長は「実は(ソフトバンクを含む)複数社から同様の提案があったが、ソフトバンクがもっとも熱意のある提案だった。いろいろ悩みもしたが、我々自らが成長するようも遙かに高い価値を提供できるのではないかと考えた」と打ち明ける。結局2012年10月1日の昼にイー・アクセスが開催した緊急取締役会で、株式交換による完全子会社化を受け入れることになった。
その“熱意のある”というソフトバンクの提案とは、株価が1万5000円前後で低迷していたイー・アクセス株に、大幅なプレミアムを積んだ5万2000円を提示したこと。ソフトバンクはイー・アクセスの企業の価値として、設備投資額や顧客獲得コスト、シナジー効果などを含めて7220億円と大きな評価している(写真3)。とはいえ、これだけ急展開で経営統合を決めたのは、“iPhone 5でテザリングを可能にするための1.7GHz帯”が最大のポイントだった。
テザリング開始も12月に前倒し
イー・アクセスを子会社化することによって孫社長は、ソフトバンクモバイルによるテザリングサービスの開始を2012年12月15日に前倒しするとした。ただ、このテザリングサービスは、ソフトバンクモバイルが展開する2.1GHz帯のLTEサービスで実施する。ソフトバンクモバイルのiPhone 5でイー・アクセスの1.7GHz帯を利用できるようになるのは「(LTEで回線交換の音声サービスを実現する)CSフォールバックをイー・アクセスの1.7GHz帯のLTEサービスとの間でできるようになってから。おそらく2013年春くらいになるのでは」(孫社長)とした。
なおイー・アクセスによるイー・モバイルブランドのモバイルサービスは、両社が統合した後も継続する。イー・モバイルブランドの端末でソフトバンクモバイルの900MHz帯、2.1GHz帯を利用した音声、データサービスを利用できるようにするなど、ネットワークの相互運用も進める。さらに将来的には、モバイルと固定を含むイー・アクセスとソフトバンクグループのコア・ネットワークを統合し、こちらでのコスト削減効果も狙う。
700MHz帯の割り当ては辞退しない考え
ソフトバンクがイー・アクセスを手中に収めることで、日本のモバイル事業者の競争環境は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループに集約されることになった。孫社長はイー・アクセスを統合することで、モバイル業界でドコモに次ぐ第2位の契約数(ウィルコムも含む)になったと強調した(写真4)。
今回の再編を促したのが、iPhone 5を契機とするLTEの競争であり、さらにはiPhone 5のような人気端末がサポートする周波数帯の有無だったという点で、新たな競争時代に突入したことを感じさせる。
イー・アクセスは1.7GHz帯に15MHz幅×2を保有する。現在はそのうちの10MHz幅×2を利用し、最大75Mビット/秒のLTEサービスを提供している。だがソフトバンク傘下に入ることで既存サービスの移行を進めやすくなり、15MHz幅×2の最大112.5Mビット/秒(カテゴリ3端末の場合)、もしくは最大150Mビット/秒(カテゴリ4端末の場合)も提供しやすくなりそうだ。同周波数帯に隣接する5MHz幅×2の追加割り当ても今後予定されており、「こちらもぜひ我々が取りたい」(千本会長)と主張した。
なおソフトバンクがイー・アクセスを経営統合することで、ソフトバンクモバイルが取得した900MHz帯の15MHz幅×2(2015年までは5MHz幅×2のみの利用)帯域に加え、イー・アクセスが取得した700MHz帯の10MHz幅×2もソフトバンクグループが手中に収めることになる。700M/900MHz帯の周波数の割り当て方針では、700MHz帯、900MHz帯のどちらかいずれかの周波数帯を獲得した事業者は、いずれか一方は獲得できないという方針となっていた。この点について公平性が保たれるのかと質問を受けた孫社長は、「他社(ドコモとKDDI)は、以前から保有する800MHz帯の15MHz幅×2に加えて、今回の700MHz帯で10MHz幅×2を得ている」と語り、ソフトバンクの900MHz帯の15MHz幅×2とイー・アクセスの700MHz帯の10MHz幅×2でちょうど釣り合っていると主張。700MHz帯を辞退する考えがないことを示した。
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