2005-12-29 中国当局が脅迫か…上海総領事館員の首吊り自殺
在上海日本総領事館の男性電信官(当時46歳)が昨年5月、中国側から外交機密関連情報などの提供を強要されたとする遺書を残して自殺した問題で、電信官に接触してきた男は、沖縄県・尖閣諸島の魚釣島を巡る問題に対する日本側の方針や、総領事館員の出身省庁などの情報も提供するよう求めていたことが分かった。
男は電信官に、中国の警察当局にあたる「公安」の職員と名乗っていたことも判明。外務省など日本側関係当局では、この男は、外国人に対する諜報(ちょうほう)活動を行う中国側の工作員だったとみて、情報収集を進めている。
政府関係者によると、電信官は、総領事館と日本の外務省が連絡を取り合う際に使用する暗号の組み立てや解析を担当。当時の総領事にあてた遺書に、自分が受けた強要などの内容を詳細に書き残していた。
外務省の調査などによると、電信官は昨年初めごろ、知人の中国人女性に男を紹介された。男は、中国人女性が違法行為を行ったとして「(知人は)罰せられる」と電信官に告知。さらに違法行為の“共犯”として、電信官も処罰や強制送還の対象になると告げた。
そのうえで、中国が領有権を主張する魚釣島を巡る日本政府の方針を尋ね、「教えなければ(知人と電信官の)2人とも罰せられる」と迫ってきたという。
男はその後も電信官に情報提供を求め続け、要求項目の中に、総領事館員の氏名や出身省庁、機密文書を運ぶ航空便名などが加わっていった。電信官は当時、別の国の領事館への異動が内定していたが、男は「異動先にも追いかけていく」などと話していたという。
電信官は、遺書の中で、総領事館員の氏名は答えたものの、他の情報については回答を拒否したと記しているという。
(読売新聞) - 12月29日3時8分更新
政府は、在上海日本総領事館の男性館員が、中国公安当局による「遺憾な行為」によって自殺したことを異例にも認めた。「遺憾な行為」とは、端的に言えばスパイの強要などを意味するが、なおその真相はつまびらかではない。だが、旧ソ連や中国など共産圏では、日本の外交官などを狙った活発な工作活動が行われているとされ、今回の事件は「氷山の一角」(政府関係者)との見方も出ている。
鹿取克章外務報道官の「遺憾な行為」との表現について、外務省筋は「中国側の対応を強く批判した異例な表現だ」と解説する。政府が、表向き「遺族の要望」や「プライバシー」を理由に、真相に立ち入ることを一切避けているなかで、精いっぱいの表現ということのようだ。しかし、真相をつまびらかにしない背景の一つとして、実際に中国側に何らかの機密情報が流れていた可能性や、男性館員が揺さぶりをかけられていたのではないか、との憶測を呼んでもいる。
外務省や防衛庁は機密情報を扱うことから、工作活動の標的になるケースが多いという。
共産圏では、こうした事件は過去にもあった。例えば、昭和五十七年、国家保安委員会(KGB)の機関員であるソ連紙の特派員が、米国議会で工作活動を証言し、多数の日本人エージェントを使って政治工作をしていた実態を暴露した「レフチェンコ事件」などがそれだ。
中国も対外工作活動を積極的に展開しているとされる。今年五月、在シドニー中国総領事館で働いていた一等書記官がオーストラリアへ亡命申請し、雑誌のインタビューで、日本国内で活動している中国のスパイは千人を超えると証言。警察庁が昨年、警察法施行五十周年を記念してまとめた特集では、中国の情報収集活動について「機関員が前面に出ることなく、日本人エージェントなどを活用するなどの方法で、諸工作を展開している」と分析している。
だが、今回のように、海外に駐在する日本の外交官にまつわる事件が表面化したのは、まれなケースだろう。
こうした工作活動が語られるとき、「女性の影」が取りざたされることも少なくないようだ。北京でも日本の外交官が過激なサービスを行う店に出入りしたり、大使館ナンバーの車が深夜、スナックの入り口近くに長時間駐車されていることがあるという。中国では女性が同伴、過激なサービスをするスナックやカラオケ店が多数あるが、多くは公安、軍関係の後ろ盾があるとされる。たとえ自ら「違法行為」を犯さなくとも、その場にいただけで取り調べを受ける理由になり、「弱み」になるケースもあるという。
今回の事件に関し、中国駐在経験のある元外交官は、首都の北京での勤務と、経済自由化の進む上海とでは「雰囲気が違う」と指摘し、開放的な上海市の空気による自覚の緩みが背景にあった、との見方を示しているのだが…。
(産経新聞) - 12月29日2時31分更新
ホステス使い色仕掛け
上海日本総領事館の領事(46)=当時=が中国当局が用意した色仕掛けにハメられ、昨年5月に自殺していたことが分かった。27日発売の週刊文春によると、亡くなった領事は外務省と領事館の暗号通信を担当。領事の自殺は暗号解読をねらった中国当局の執拗(しつよう)な恫喝(どうかつ)が原因だったとみられ、中国政府の外交官に対する非道な工作活動に波紋が広がるのは必至だ。
週刊文春によると、領事は昨年5月6日午前4時ごろ、上海総領事館の宿直室で首をつって自殺した。領事は旧国鉄出身で、分割民営化後に外務省に入省した。米・アラスカのアンカレジやロシアに勤務した後、平成14年3月に上海総領事館に単身赴任した。
赴任後、領事は同僚に連れられ、外国企業が多く集まる虹橋地区にあるカラオケクラブに足を踏み入れる。そして、1人のホステスに魅せられ、足しげく出入りするようになった。
クラブは事実上、個室で、ホステスが“接待”してくれる。そのうち、ホステスは中国当局に摘発され、取り調べで上客だった日本人の名を供述するよう強要された。
供述の中に領事の名前があることに目を付けた当局は、15年6月、このホステスを利用して情報機関に所属する工作員の男に領事を接触させた。
当初、工作員は機密レベルの低い情報提供を要求。領事は昨年4月に外務省へ転属願を提出し、ロシアの総領事館に転勤が決まったが、工作員の男は、ホステスとの関係を「領事館だけでなく、本国にバラす」「(女性との)関係はわが国の犯罪に該当する」と何度も脅迫した。同年5月に入り、工作員の脅迫はエスカレートし、転勤先のロシアの情報も提供するよう迫られた。
きまじめだった領事は工作員と深い付き合いとなってしまったことに責任を感じ、総領事や妻、同僚に計5通の遺書を残して自殺。総領事あての遺書には「自分はどうしても国を売ることはできない」などと記されていたという。
領事は外務省と総領事館の衛星通信や情報伝達を担当する「電信官」で、総領事しか知らない国家機密も把握。特に衛星通信に使われる極めて複雑な暗号の解読方法を熟知していた。
中国当局はこの暗号に強い関心を示し、領事が転勤と決まるや何とかして暗号の解読を引き出そうと、強い圧力をかけたものとみられる。
冷戦さながらの色仕掛けによる諜報(ちょうほう)戦。外務省は、国を守ろうと“殉職”した職員について事実関係を一切、公表していない。