○前に、ブログ「鹿籠という地名」で、鹿児島の小川亥三郎という地名研究家を紹介した。小川亥三郎の遺作、「南日本の地名」（１９９７年刊：第一書房）は、子息小川秀直氏によって、父親の没後に発刊されたものであることが後書きで分かる。それぞれの論文は、極めて丁寧に時間を掛けて実証し、検討を加えて書かれたものであることがよく分かる文章である。お陰で、読むのにも、相当時間を要する。決して容易に一読出来る書物ではない。
○その、「南日本の地名」に、『枕崎という地名』という文章があって（Ｐ２７７）、枕崎の地名由来について、詳細な検討を加えている。
○前回、鹿籠という地名が気になって、枕崎市を訪れ、市立図書館でいろいろ調べたが、思うような結果を出すことが出来なかった。それでも、鹿籠の中心部は、今の枕崎市街より、随分奥まったところに存在していたことなど、多くのことを知ることが出来た。一回、二回出掛けても、さほど多くのことを知ることが出来るわけでもないのだから、繰り返し訪れてみたい。やはり、鹿籠は気になる地名である。
○同様に、現在の地名である枕崎市も、相当変わった地名である。枕崎に残る伝説として、小川亥三郎は、
昔エビス様の御神体が箱枕の引き出しに入って、近瀬という瀬に流れついたので、そのあたりを枕
崎というようになった。
を紹介し、「枕崎市史」によれば、
昔枕崎港の近瀬という暗礁に丈け五寸の金仏が漂着し、浜田門の人が拾って奉安していたのを、慶
長十年、枕崎浦の浪人で豪商であった四本六兵衛が、これを本尊として邸宅の東方に神社を造り、大
将軍宮と称した。
としている。このことについて、「南日本の地名」は、その文を引用し、さらに、
この神社は神仏混淆であったから、明治五（一八七二）年、廃仏毀釈によって、金仏の御神体を石
体に変え、枕崎神社と改名し、現在は片平山公園に移転している。木原泰蔵氏の話によると、この金
仏の御神体は中国の神様ではなかったかとのことであるが、その根拠はわからない。
と説明補足している。
○最後に、小川亥三郎は「枕崎の意味」として、
三島村から十島村にかけては、主として暗礁を、時として普通の岩礁をマクラとよび、マクラとい
う地名もある。それで枕崎のマクラも、これと同じことばであると考えられる。枕崎と三島村とは、
指呼の間にあり、昔、三島・十島は枕崎と同郡内の川辺郡に属し、川辺十島とよばれた時代もあった
りして、相互に影響があったことは容易に想像される。
としている。
○おそらく小川亥三郎の言っていることは正しい。枕崎の「まくら」と言う語が気になって仕方がなかったが、小川亥三郎の説くように、暗礁や岩礁であれば、最も分かり易いし、土地の状況にも合う。それにその地名が三島村や十島村にはまだ残存し、生きていると言う。小川亥三郎の説には説得力がある。
○だから枕崎とは、枕崎市の夷鼻あたりから発生した地名ということになる。枕崎に出掛けてもよく分からなかったことが、「南日本の地名」によって、我が家で確認されると言う皮肉な結末となった。それでも、まだ「鹿籠」の地名は十分に解決せず、気になったままで、まだ枕崎市が気になる存在である。
| 
トラックバック