Updated: Tokyo  2012/10/01 10:40  |  New York  2012/09/30 21:40  |  London  2012/10/01 02:40
 

東京駅、1世紀前の姿に復元-「坂の上の雲」の精神がよみがえる (1)

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  10月1日(ブルームバーグ):赤レンガの東京駅丸の内駅舎の保存・復元工事が完了し、約100年前の開業当時の姿が1日、復活した。明治以来、近代化の道をまい進した「坂の上の雲」の時代の雰囲気を漂わす同駅が、日本の新たな玄関口として現代に再びよみがえる。

新駅舎は、全長335メートル、両端に高さ35メートルの独特のシルエットドームを有する重要文化財で、大地震にも耐えられる最新技術が施されている。内装も当時の資料に基づき忠実に装飾やカラーまで細部を再現、創建時の姿が復元された。

JR東日本の冨田哲郎社長は9月の会見で「98年前は明治、大正にかけて日本が欧米列強に追いつき追い越せと坂の上の雲を目指した非常に躍動感のあった時代。日本人自体も非常に進取の精神があり、高揚感があったと思う」と語る。東京駅の雰囲気はそれらを表していて「今の日本にやや欠けている部分を表現しているのではないか」とも述べた。

同社長は「東京駅が復元することで日本全体が元気になってほしい」と願いを込め、JR東日本にとっても「元気になるきっかけなればいいと思っている。100年前の建物を復元し次の100年のスタートとしたい」と抱負を述べた。

発展する東京駅  

東京駅丸の内駅舎は、日本での鉄道開業時から発展した新橋駅と上野駅をつなぐ形で、日露戦争に勝利した1914年に皇居の正面となる位置に建設された。鉄道発祥の国である英国の留学経験を持ち、日本銀行本館の設計で名声を得た建築家の辰野金吾工学博士が設計した。開業時の乗り入れは東海道本線、山手線など4系統だった。

その後、東京駅は日本の中核駅として発展し続ける。マグニチュード7.9といわれる1923年の関東大震災ではほとんど被害は無かったものの、第二次世界大戦では1945年に空襲による火災で屋根を焼失、戦後に3階建てから2階建ての駅舎として復興された。現在は総面積が東京ドーム3.6個分の18万2000平方メートルで、ホーム数28本、運転本数は1日当たり約3700本の巨大な駅にまで成長した。

同社は1999年に、老朽化のため同駅の建て替えを決めた。以前から駅舎を高層ビル化する意見もあったというが、松田昌士社長(当時)と石原慎太郎都知事が会談して創建時の姿に戻すことに基本合意し、復元に向けた動きが始まった。

駅舎の保存・復元に関わった青山学院大学、総合文化政策学部の鈴木博之教授はブルームバーグ・ニュースのインタビューで「都市が近代化し、東京でも丸の内の再開発が進む中で、どこかに原点が必要だとの意識が駅を当初の姿に戻そうという決断につながったのではないか」と指摘する。

ステーションホテルも新装開業

駅舎内の東京ステーションホテルも拡張され3日に新装開業する。さらに国内外から東京に訪れる人々の利便性向上を目指し、訪日外国人にも対応するため日英中韓と4カ国語で旅券販売や旅行情報を提供するトラベルサービスセンターを新設したほか、文化発信の美術館である東京ステーションギャラリーもほぼ6年ぶりに改装され再開する。

東京駅の梅原康義駅長によると、1日の乗車人数は約38万人、乗り換え人数を含めると百数十万人が利用しているという。同駅長は9月24日の内覧会で「100年前は日本の中央駅、それがいまや世界の中の日本の中央駅という位置付けに変わった。観光でもビジネスでも外国の方も利用できる日本の玄関口だ」と語った。

来週、国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会が都内で開催され、世界中から金融関係者やメディアを含めて数万人規模の来日が予想される。同駅長は「万全の態勢で受け入れられるよう現在準備を進めている」と語った。東京ステーションホテルはIMF・世界銀行の公認ホテルのひとつに指定されている。

1泊約80万円

駅舎の中にある東京ステーションホテルの改装は大規模なものとなり、3階部分には1泊約80万円の広さ173平方メートルのロイヤル・スイートを筆頭に全150室の客室を備える。同ホテルのオペレーション総支配人の金田文典氏によると、ロイヤル・スイートには9月24日時点で既に数件の予約が入っているという。

そのほか宴会場や和洋中のレストランやバーなどの施設もあり宿泊客だけでなく、ビジネスマンなどの利用も取り込む計画。冨田社長も「従来の3倍の客室で、高級感溢れるヨーロッパスタイルになっている。これがきちっと稼働してくれるとかなりのものになる」と業績への寄与に期待を寄せている。

冨田社長は、今回の復元工事には約500億円が掛かったと明かした上で、駅周辺が「特例容積率適用地区」に指定され、「丸の内駅舎上空の空中権を売却できたことで賄った」と説明。JR東は、この制度を利用し、未使用となる容積率を売却。買い取った三菱地所はこれにより、容積率で周辺の新丸の内ビルディングなどのビルを通常より高く建設することができた。

また、忠実な再現だけでなく、阪神大震災クラスの地震にも耐えられる構造体に強化された。安全のため、床部分を建設当時の鉄骨を残して鉄筋コンクリートで補強した。新設された地下の既存建屋の間には免震装置が設置された。既存の建物の耐震性を向上させる免震工事を行ったのは、鹿島を代表とするゼネコンの企業連合。総工事期間は約5年半、延べ78万人の工事関係者が24時間体制で携わった。

総工費2000億円

JR東は今後も東京駅を発展させる計画。日本を代表する駅としてグループのシンボルに据えた都市空間の創造を目指し、「東京ステーションシティ」のコンセプトで発展させる。東京駅の八重洲側では、第1期工事としてグラントウキョウ・ノースタワーⅠ期、グラントウキョウ・サウスタワーが07年10月末に完成済み。

現在、第2期工事としてグラントウキョウ・ノースタワーの大丸東京店の増床部を8月末に竣工させた。さらに八重洲側の中央部とそれを覆う白膜の大屋根となるグランルーフを13年秋に竣工させる計画。JR東の広報担当者、落合嗣郎氏によると、東京駅の周辺も含めた全体事業の総工費は、約2000億円に上るという。

同社は1日、東京駅丸の内の駅前広場に特設会場を設け、来賓に天皇、皇后両陛下をはじめ、野田佳彦首相や関係閣僚、石原都知事、同社のCMに出演している女優の吉永小百合さんらを迎えて完成式典を行う予定だったが、台風17号の通過による影響で中止を決定した。

記事に関する記者への問い合わせ先:Tokyo 松田潔社 kmatsuda@bloomberg.net;東京 Chris Cooper ccooper1@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Neil Denslow ndenslow@bloomberg.net

更新日時: 2012/10/01 09:07 JST

 
 
 
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