●ヤングゴルゴ13―若さゆえの過ち

「認めたくないものだな…自分自身の、
 若さゆえの『過ち』というものは…」

  ―シャア・アズナブル
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0. 序

 孤高の殺し屋(ヒットマン)デューク東郷(仮名)、通称「ゴルゴ13」…。
 日本の漫画キャラの中でもっとも有名な一人である彼は、史上最強のスナイパーとして勇名を馳せている。
 射撃の腕だけではなく、素手での格闘能力も空手やカンフーのチャンピオンクラスの腕前を持っており、身体的能力もずば抜けて高い。
 寡黙で自分はもちろん依頼者に対しても無駄口を許さない。常に冷静沈着。自分の感情を押し殺し、黙々と任務を遂行する。そして一度受けた依頼はどんなことがあっても必ず成功させる、まさにプロ中のプロ――世間一般ではこのような完璧なイメージである。
 しかし、彼も人の子。若かりし頃は今のような完璧な仕事人ではなかった。
 今回はそんなゴルゴのDQNな行為の数々を紹介しよう。

1.DQN13

図1
図1.パンツ一丁のゴルゴ13

1.1 case.1 ゴルゴ登場す

 まずは記念すべき第1話、『ビッグ・セイフ作戦』より。

 いきなり白ブリーフ(グンゼ?w)一丁で売春宿窓の前に立つゴルゴ。初登場からそのインパクトは凄い(図1)。

 直後、娼婦がちょっといたずらをしようとゴルゴの背後に立とうとしたとたん、顔面に思い切りパンチ。(図2)

図2
図2.ようしゃなく きびしかひとぶゎい

図3
図3.タイーホされました
 いくら「俺の後ろに立つな!」が信条でも、これは行き過ぎである。案の定ショバを仕切るギャングにからまれるが、難なく撃退。しかし、騒ぎが大きくなったため、警察を呼ばれて、あえなくご用となった。(図3)

 とても現在のゴルゴからは想像できない、行き当たりばったりの軽はずみな行動である。
 その後、後ろに立った女性をいきなり殴りつけることは滅多にしなくなったので、さすがに懲りたのかもしれない。

図4
図4.こんな三文芝居、今じゃみられません

1.2 case.2 オレ様カコイイ!

 初期の作品では、ゴルゴ13が依頼人とコンタクトを取る方法も少し芝居がかっている場合が多い。「おれはいつもおれのやり方で依頼人に近づくようにしているんでね!」とはゴルゴの弁だが、それにしてもやり過ぎの感は否めない。

 『狙撃のGT』ではゴルゴへの連絡人を装い、依頼人の連絡役と接触し「必ず本人に連絡しよう」と約束する(図4)。その後、真の依頼人の部屋へ無断で忍び込み、一緒にいた連絡役に「あんたはゴルゴの連絡人の…!?」と驚かせている。

 『色あせた紋章』では依頼人のハンガリー秘密警察長官に会うために、「大佐として赴任」を装い、接触を図った。この時副長官といざこざがあったのだが(図5)、その後正体がばれるのを恐れて一緒にいた通信士ともども殺害している。
図5
図5.カ・イ・カ・ン!

1.3 case.3 意外と行き当たりばったり

 一般的にゴルゴが任務を遂行する場合、標的の生活習慣・行動パターンをよく吟味した上で一番確実なポイントから狙撃するケースが多い。ゴルゴがスナイパーのイメージが強いのは、やはり逃亡ルートの確保しやすい、遠距離からの狙撃が多いためである。

図6
図6.あっさり殺し屋とバレる。そしてこの人を殺害
 ところが、初期のゴルゴは意外とその場で判断し、行動するパターンが目立つ。状況に合わせて臨機応変にするのは当然だが、わりと派手な行動に出る場合が多いのが困ったちゃんである。

 『ビッグ・セイフ作戦』では冒頭の売春宿での悶着から始まり、標的の近くに宿を取った際、うかつにも狙撃銃を構えているところを部下に見られ、即座に始末している(図6)。
図7
図7.こんなことしたら警察が黙ってませんよ
 このため、緊急に事を運ぶ必要がで来てしまい、セスナをチャーターして標的の家を爆撃するという荒技に出る(図7)。

 先に挙げた『色あせた紋章』でも、無茶な変装でハンガリー秘密警察に潜入したため副長官に怪しまれ、極秘に本部に通信をしようとしていた副長官を通信しもろとも亡き者としている。

 上記2点以外でも『死に絶えた盛装』で情報を集めるためにカジノに行った際、13番にばかり賭けていたので不用意に標的から怪しまれて帰り道に襲撃を受けたり、『デロスの咆哮』では現地に到着早々変装がバレて目を付けられたりしている。もっとも変装は現在でもあまり得意でなく、すぐに怪しまれたりしてるのだが…。

図8
図8.スネーク!応答せよ!スネェェーク!!

1.4 case.4 発見されすぎ

 現在のゴルゴは敵のアジトなどに潜入するためワザと捕まることは多いが、初期のゴルゴではマジで敵に捕まるシーンが多い。

 『デロスの咆哮』では元々マークされてた上、監視カメラで発見され、仕事が終わった直後に捕獲されてしまう(図8)。

 『バラと狼の倒錯』でも工場内に潜入した直後にいきなり発見され、逃亡しながらターゲットを捜索しなければならなくなった。

 また『黒い熱風』では敵の罠とはいえ、狙撃直前にターゲットを他人に狙撃され、犯人と間違えられたゴルゴは捕まってしまう。もっとも指定の時間5分前だからって、夜にたばこなんか吸ってたら素人にも見つかるだろ…。その後あわや死刑執行寸前まで行ったのだが、一歩間違えばあのまま処刑されていた。

図9
図9.無駄口が多いです

1.5 case.5 饒舌です

 初期のゴルゴの一番の特徴は、とにかく「おしゃべり」なことにある。今のゴルゴからは想像も付かないほどの饒舌ぶりである。

 初登場の『ビッグ・セイフ作戦』ではイギリス諜報部(MI6?)と接触した際自分のことを過大評価気味に説明している。そしてターゲットの家の側に取ったホテルの窓から銃を構えつつ感想を漏らしたりしている(図9)。

 『デロスの咆哮』でも島に着いた直後に見張りにチェックを入れられ、ボスに探りを入れられている(図10)。

 『檻の中の眠り』では特別房に入るためとはいえ必要以上に看守や所長に挑発をしていた。また『色あせた紋章』での登場時の演技もオーバーである。
図10
図10.変装は…今でも下手かな…

1.6 case.6 腕は一流だが…

 初期のゴルゴはすでに一流として名を馳せていたが、今のような超人的なほどではない「普通の一流」レベルである。

 そう判断するのは、現在と比べるとプロにはあるまじきミスが多いためである。そのため不必要に敵に捕まってしまったり、正体がばれて追い詰められたりしている。

 『白夜は愛のうめき』ではまったくの素人である女性に狙撃の現場を目撃されてしまう。もちろんこの後女性は始末されるのだが…。素人に易々と仕事の場所まで後を付けられるとは、プロとしていかがなものか?

 『デロスの咆哮』『色あせた紋章』では相手は仕留めたものの銃弾が体をかすめて傷ができている。超一流同士の対決ならともかく、並の一流相手にである。現在のゴルゴではあり得ない。

 ただ『南仏海岸』では盲目の超一流イケメン暗殺者イクシオン(図11)相手に自ら中を一度捨てて混乱させるという奇策をもって勝利した。純粋な拳銃の抜き打ちではゴルゴの方が劣っていたためである。この後、盲導犬のケンタウロスも始末するが、それは主人の元に送ってやるというゴルゴのはなむけであろうか。真のプロフェッショナルにはそれなりの礼節をと言うゴルゴの哲学が始めてみられた瞬間でもある。
図11
図11.ゴルゴ13をも焦らせる盲目のイケメンヒットマン!
 この対決以降、プロとしても超一流への心構えへと変わっていったようである。

2.考察

 これまでの事例を踏まえると、初期のゴルゴには以下のような欠点が存在したことになる。

・余計なパフォーマンス
 不必要なパフォーマンスは、それだけ隙が大きくなり、相手に有利になる。現在は必要性がある場合以外目立った行動はほとんどしない。ただし変装は相変わらず下手で、素人にも怪しまれる。鋭い目つきと、体格が良すぎるためだろう。

・計画の詰めが甘い
 潜入したはいいが発見され、間一髪脱出というパターンが多い。場合によっては捕獲されてしまったりもした。現在ではよほどのアクシデントがない限り、狙撃前後に邪魔が入るケースはほとんどない。

・饒舌・詭弁が多い
 詭弁とは、自分を大きく見せたがる心理である。弱い犬ほどよく吠える、と言うやつである。しかし「沈黙は金なり」で、余計な外的要因を排除するため余計な話をしないことは一番効果的で、口数が少なくなるにつれ、ミスも少なくなっていった。

 これらが改善されるにつれ、ゴルゴの性格も冷静沈着となり、ピンチの時にでもより正確な状況判断ができるようになった。身体能力的にはあまり変わってないと思われるが、精神的により強固になったためゴルゴを完璧超人と至らしめたのだろう。

 『狙撃のGT』では針のような正確さと冷静さを持ったゴルゴと、饒舌でパフォーマンスも行う初期のゴルゴが混在している珍しい回でもある。

 以降ゴルゴは徐々に口数が減っていき、必要最低限の言葉以外を交わさなくなた。また目立った行動は避け、常に周囲を警戒するプロとしての行動も磨きがかかっていった。

4.やはり「若さ」からか…

図12
図12.28才…? 無理がねえか(笑)
 すでに現在の同じ行動となっていた『潜入ルートGT』ではゴルゴが潜入する際に28才という役柄で潜入しようとしている。とすれば、この時点でゴルゴの年齢は30前後、現在連載中の作品では成熟しきったベテランの風格も兼ね備え、おそらく40前後であろうか。

 とすると初登場時は20代後半と推測され、“仕事”も一流ともてはやされれば調子に乗ってしまうのは仕方がない年齢とも思われる。まさに「若さゆえの過ち」であったといえよう。


5. 現実の背景

 以上、作品上のゴルゴ13について検証してきたが、現実の背景について考察してみると面白いことがわかる。

 初めて掲載された1968年という時期は、007ことジェームズ・ボンドシリーズの映画がヒットしていた頃である。さいとう氏はここに目を付け、スパイアクション風の劇画としてゴルゴ13を執筆したと思われる。

 だとすると、初期のゴルゴの饒舌かつ自意識過剰、パフォーマンス的な行動は、ジェームズ・ボンドをリスペクトしたものと考えれば、非常に納得のいくものであろう。

 そして、その後様々な試行錯誤を重ね、依頼人に事件の背景を語らせ、ゴルゴがそれを聞くという形式に落ち着いていったのだろう。そう考えると、作品内でのゴルゴの変遷は非常に納得のいくものである。

6. 締

 実は『ゴルゴ学』という書籍が存在していたことを、この間まで不詳にも知らなかった。もしかしたら、今回書いた内容のことは当然のごとく書かれているかもしれない。また、90年代に流行した、いわゆる有名漫画の謎本シリーズにあったかもしれない。

 しかし、普段あまり語られることがないヤングゴルゴについて、この駄文で興味を持っていただくことが、今回の趣旨である。

 現在は文庫本が1冊500円という安価に、しかも大きめ書店ではほぼ全巻揃ってる事が多いので、1〜4巻あたりを今回の論文のことを思い出しながら読んでいただけると幸いである。

関連:ゴルゴマニア

追記
文庫本の1巻が100円であったため購入したところ、解説ページにおいて【5.現実の背景】と同様の見解がなされておりました。あとシナリオは複数人で考えられてたようで、やはりまだ完全に設定が固まっていなかったための行動のようです。なお第1話『ビッグ・セイフ作戦』は『リーダーズチョイス BEST13 of ゴルゴ13』にも収録されております。
追記2
研究本には『ゴルゴ学』の他にも『ゴルゴ13の秘密』という書籍があるようですが、これを発行しているデータハウスが出版している謎本シリーズは中途半端なものが多く、考察も甘いし誤認も多いのであまりおすすめできません。調べてみたところちょうど謎本ブームの頃出版されたもののようですので、適当に作られた感があってなおさらです。

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