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木下研究室論文解説、その3、「ローイングVPP(艇速予測プログラム)を用いた漕法、オールの改良について」について、昨日の後編を纏める。
本日は、下記のパラメーターを変化させた場合の艇速、効率変化について解説する。
漕手がハンドルを引く力Fhは、オールの振り角θの関数としてVPPに入力している。このFhについて、
に大別することが出来るので、それぞれの場合について、シミュレーションを行った。下図にVPPに入力したFhカーブを示す。実線が後半重視、破線が前半重視である。
実艇実験では、艇速の遅いGroup Aが後半重視(艇速を遅くキープするために前半を流さざるを得なかったと、おやじは推測する)、相対的に艇速の速いGroup Dは前半重視(艇速を早くするためには、前半から確り押す必要あり)の傾向のデータとなっている。このFhカーブをそれぞれ、後半重視、前半重視のパターンとして、他のグループに適用した。尚、漕ぎ方パターンが変っても、1ストローク中の仕事量がOriginalと変らぬ様に、オールの振り角に対するFhの変化を定めた。
このシミュレーションの結果は下図の通り、艇速の変化は有意な差は見られなかったが、低速域では後半重視の方が僅かに低速・効率共に改善する傾向が見られる。一方、レースペースに近いGroup Dについては、後半重視にすると、僅かに低速が悪化する傾向となっている。
レースペース(2分/500m以上の高速)をキープするためには、前半から確りと押さないと艇速が出ないので、自ずと前半重視の漕ぎにならざるを得ないとおやじは考える。前半重視・後半重視等、漕ぎ方を選べるのは、せいぜいSR25以下の低負荷の領域までと考える。
F)ハンドルの引き方の変化と、G)ハンドルを引く強さを変化させた場合の艇速及び効率変化のシミュレーション結果:
それぞれのGroupにおいて、レートを固定したまま、ハンドルを引く力をOriginalに対して、−10%から+10%まで5%刻みで変化させて、シミュレーションした。Originalの状態に対して、艇速及び効率の変化を上図に示す。ハンドルを引く力を増加すると、系に対する入力エネルギーが増加するため、当然ながら艇速が増加する。一方、効率の変化を見ると、ハンドルを強く引くと艇速は増加するが、推進効率が悪化する結果となっている。これは、強く漕ぐことでブレードの過重が増加し、スリップが増加することによるオールの推進効率悪化が原因と考える。これらを総合して、ハンドルを引く強さ±10%に対して、艇速の変化は±3%になる結果となっている。(スタートダッシュや、脚蹴り時は多少効率が落ちても艇速増を優先させるために、躊躇せず、強く押す必要があるのは言うまでも無い)
さて、上記の結果を踏まえた、おやじの持論を述べたい。強く漕ぐとブレードのスリップにより推進効率が悪化する訳であるが、これを最小限に止め、効率良く漕ぐ為にどうすればよいのか?これは、同じ仕事量をするのであれば、キャッチからフィニッシュに至るハンドルの引きの強さをできるだけ平準化し、凸凹を無くすことで、ブレードがスリップする原因であるブレードを押す力のピークを平準化することが最も有効とおやじは考える。おやじが良く述べる、オールのベンドカーブが綺麗で面積の大きい一山を描く様に漕ぐというのはこの考えに基いて言っていることである。(ベンドカーブについては、別途詳報する予定。)漕ぎ方以外で、効率悪化を防止する対策としては、本解説の前編で述べた通り、ブレード面積の大きいオールを選択したり、梃子比を重くすればブレードの過重が下がり、スリップを少なくすることが出来る。これはクルーの漕力次第である。
VPPでは、オールの振り角に対する漕手の重心移動の加速度変化を入力値としている。
先ず、ストローク過程での重心移動の変化に対する艇速・効率の変化をシミュレーションした。具体的には、キャッチ直後のドライブを脚だけを使って漕ぐOriginalのケースに対して、キャッチ後直ぐに上体を起こして、相対的にキャッチ直後の重心移動を少なくした場合をModifiedケースとしてシミュレーションした。この結果を下図に示す。この結果、キャッチから上体のスウィングを早めに使ってストローク前半の重心移動を抑えたModifiedケースの方が、艇速が改善する結果となった。(Group-Dで1.5秒/500mの改善)効率については結果がややバラついているが、艇速の速いGroup-Dについては効率が改善している。
おやじ自身も、大学時代にキャッチから上体を積極的に使って漕いでいたので、この結果に合点が行く。当時考えていたのは:
次に、フォワード過程で、フィニッシュ直後、直ぐに重心を加速する、即ち、スライドを出すタイミングを早める場合についてシミュレーションした。Originalと今回のModifiedのケースの重心加速度の変化と艇速・効率のシミュレーション結果を下図に示す。低速域においては、Modifiedのケースは艇速・効率が悪化しているが、艇速の速いGroup−Dでは艇速・効率ともにModifiedのケースが改善している。Group-Dでの艇速改善は0.5秒/500mで、僅かではあるが、2分/500m以上の高速域ではこの艇速改善量がさらに増加すると考える。おやじは大学時代に、前述のキャッチ時の上体の振りと併せて、このスライドを出すタイミングを早める漕法を実践して成功している。狙いは、次の通り:
最後にストローク中にブレードの流体力係数(ブレードの固定度合い)Cnを変化させるシミュレーションを行った。Cnの変化は、下記の3ケースで実施。:
このシミュレーション結果を下図に示す。この結果より、Cnの向上による効率改善は、ストロークの前半を改善した方が、後半で改善するより効果が高い結果となっている。即ち、ブレード形状の改善でブレード固定を改善(=効率改善)を狙う場合は、キャッチハーフでのCn改善を狙って工夫すべきである。昔、木製オールの時代に筑波大学クルーがブレード先端が大きくせり上がった大きなキャンバー付きのブレードで漕いでいたが、VPPシミュレーションにより、この狙いが正しかったことを、証明していると考える。
VPP論文の解説はこれにて完了する。
VPP論文は、ボートの効率改善に関して、非常に良い勉強の材料となった。
木下教授以下の木下研究室の皆様の研究に感謝。
以上
1)国谷の現物支給、宜しくお願いします。先ほど、Nさんからもメール頂きました。
2)高校時代にCTさんが教わった内容は、漕法基本として間違っていません。脚→腰→腕の3段ロケット漕ぎですね。体の大きい選手であれば、オリンピック選手でもこのままでOKと思いますが、小柄な選手が大柄な選手並にバックスピードを上げ、効率良く艇速を向上させるためには、工夫が必要ということです。ストロークの前半から脚だけでなく、腰も同時にドライブすることでバックスピードを上げることが出来ます。しかし、確りと腰や背筋を鍛えた上で実践しないと、腰が弱いと、腰の力がネックとなってドライブが弱くなり、本末転倒になってしまうので注意が必要です。従って、体幹の未熟な高校生は3段ロケットで良いと思います。私の書いたことは、体幹の強い一流漕手向けの高等テクと考えて下さい。
3)FWD中の加速度のグラフですが、これはあくまでフィニッシュからキャッチ前までのFWD過程のグラフです。キャッチ前にFWD速度を減速する(=ドライブ方向の加速度)ので、FWDの後半で正の加速度が生じます。このFWD減速過程を長めにとることで、キャッチ前のピッチング運動を抑え、且つ、正確なキャッチをすることが狙いです。
以上
帰国して当プログを拝見してビックリ仰天!こんな立派な解説書になっているとは・・・今まで体験したり、おぼろげに想像していたことが、木下研究室によって、計測・解析・可視化され、”おやじ”殿の適切な解説の助けで一介の趣味人である私でも「つまりそういう事か」と合点。
労作に感謝!素早さに感動!「国谷」での現物支給ならお任せを!
この一連の資料と解説は、パルテ会のオジサン達よりも、現場の若い指導者達にこそ読んでもらいたいと強く願います、各団体の「考え」の差は有るでしょうが、このアプローチは大変有効だと思います。
近い将来、リアルタイムの加速度カーブと最適カーブをビジュアル表示して、比較しながら漕ぐようになるのは、個人的には「いただけない」ですがね。
また、現物の「アテネ艇」を観察してからの続編。ブレード形状改良についての詳報も期待しています。
では、日曜日に戸田で。
”おやじ”殿や”CTさん”のように自宅エルゴを持つ猛者達の「オタク度」には足もとにも及ばないのは明白です。
と言いながら・・・今年もPartez会の遠征は「愛知池マスターズレガッタ」から。木艇1×で頑張るぞ!
(余談)全国オヤジ漕友各位:アームで眠っている艇の艤装を現代の物に交換し、シェルもメンテナンス。レース艇は「乗ってナンボ」です。想い出と一緒に枯れて行くだけの艇は哀れです。クラシカル艇でレースしましょう!