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今日は「脚蹴り」についておやじの考えを述べたい。
おやじが東大ボート部に入ったばかりの頃、先輩のトレーナーから教えられた脚蹴りの具体的なやり方・定義は以下の通り:
上記の定義に記載の通り、フォワードは変えずに水中のみ全力で押すので、脚蹴りは極言するとレースの途中で陸上の3段飛びをする様なものである。これがおやじの考える「脚蹴り」であり、ボートを始めた時から現在に到るまで、おやじの脚蹴りの定義は変わっていない。
新人の長距離漕で脚蹴り合戦をすることはあるが、大抵の場合、ここで出る、勝負を決めるという場面で脚蹴りを入れる。勝負どころでの脚蹴りの本数は5本というのが一般的である。(1回に入れる脚蹴りが5本を越えると、ダメージでその後の水中が落ちる)お互いにコンスタントで漕いでいる中盤の場面で脚蹴りが決まると、1本で50cm、5本で概ね2.5m(大体2シート程度)出ることが出来る。相手の艇速が失速している場面で脚蹴りを有効に使った場合は更に効果的である。
おやじの漕暦の中で脚蹴りが一番効果を発揮したのは東大が全日本選手権エイトで4連覇を達成した決勝レース。決勝は5杯レース(上の写真で、右から東大、一橋大、(トヨタ=見えない)、早大、法大)前日のインカレ決勝では東大が1Qを1艇身先行し、苦しみながらもそのまま逃げ切った。(1Qで1艇身先行し、そのまま逃げ切る展開が、この年の東大の必勝パターンになっていた)翌日の全日本決勝で一橋大は必勝を期し、1Qを全力で先行して逃げ切る玉砕戦法打って出た。東大は1Qで一橋に1艇身以上(水が空いた)先行される。2Qで徐々に差を詰め1000m地点で逆カンバス差に詰める。その後1300m地点辺りで東大BOWが一橋整調に並ぶ位置まで詰め、ドンドン差が縮まる。整調のおやじも一橋の気配を感じたところで、「ここで勝負だ!」とCOXに指示する。待ってましたと言わんばかりに最終戦術(後は何も出来ないの意)の「脚蹴り10本」をCOXがコールする。2位東大と3位クルーは既に水が空いており、勝負は既に東商の2杯レースとなっているので、クルー全員が「ヨシ!」とばかりに10本全力で漕ぎ、脚蹴りが決まる。正に1本1シートずつ追い越し、10本漕いだ後は、一橋に対して水を空けて先行していた。1500Mを通過する時点で既に一橋に対して1.5艇身以上差を空けており、追走する他のクルーもその後ろとなっていた。しかし、東大クルーも脚蹴り10本のダメージでヘロヘロの状態。整調から「勝った!」(後はゴールまで事故無く安全に行けの意)の一言で、COXは「阿うんの呼吸」で了解。ラストQは少しずつレートを落としてゴールまで漕ぎ余裕で4連覇を達成した。
脚蹴りの定義に記載した通り、脚蹴りは全力で漕いで始めて脚蹴り足り得る。脚蹴りコールが入ったときにクルーの中で温度差が出て、脚蹴りを躊躇して全力を出さない者が1人でもいると脚蹴りは成功しない。この意味で、脚蹴りと言われた瞬間、良い意味でクルーの緊張は一気に高まり、水中を押すことになる。これは普段の練習でキチンと脚蹴りをシミュレーションしておかないと、クルーの緊張があらぬ方向へ向ってバラバラに発揮され、下手をすると力を入れるタイミングがずれてムカデ漕ぎの様になり、疲れるばかりで反って艇速が落ちてしまう。これがレース中に生じたら負けである。脚蹴りをレースの戦術として使うのであれば、本来の定義に沿った脚蹴りを普段の練習から確りやっておかねばならない。
ハイレベルのエイトレースに於ける勝負は、クルーのシンクロナイゼーション度合いの勝負と言っても良い。従って、レース途中の戦術に対して、あれ?どうして?等と1人でも混乱したらそのクルーは100%の力を発揮することが出来ない。レースの戦術は出艇前のミーティングで全員に確実に伝えておかねばならない。この意味で普段の練習からレース本番のお決まりのパターンを造っておく必要がある。東大4連覇のクルーではコンスタントのリズムを安定させる意味で300m、その後500m, 1000m, 1500mのクォーター節目毎に水中強度確認及びリズム安定の為に脚蹴り3本を入れていた。これ以外の臨時の戦術は半枚上げや1枚上げといったレートコントロールで行い、余程のことが無い限り、Extraの脚蹴りは入れなかった。実際、上記の脚蹴り合計は3本*4回=12本であり、これだけでも相当な脚へのダメージ(乳酸負債)がある。(上記の4連覇時の脚蹴り10本は特例)低レベルのレースを見ていると、未熟なクルーが無闇やたらと脚蹴りを乱発するのを見かけるが、何回も脚蹴りを入れるのは愚の骨頂である。コンスタントを確り漕いでいれば脚蹴りは何度も出来るものではない。仮にレース中盤で脚蹴りを何度も入れたとしたら、そのクルーは途中で失速してしまうであろう。そうでなく、何本でも脚蹴り出来るクルーは、コンスタントの意味を間違って捉え、コンスタントは楽に漕ぎ、脚蹴りコールが入った時だけ何となく強く漕ぐという不真面目、若しくは、ボート競技を間違ったイメージで解釈したクルーであろう。こういう未熟なクルーはハイレベルのレースでは勝てない。
脚蹴りは上手く決まれば、これほど達成感のある爽快な戦術はない。しかし、失敗した時のダメージが大きく、また、乳酸負債という脚へのダメージが残る両刃の刃でもある。先日の東大学部レガッタの2000m招待レースでは、おやじは脚蹴りの戦術を一切使わなかった。理由は、週1回しか練習せず、しかも現役時代の漕ぎのイメージが異なる中年クルーでは、脚蹴りは殆ど成功しない。練習で何度かトライしたが、漕ぎに無駄な力が入ってガタガタするだけ。リズムが崩れるは、バランスは崩れるは、何も良いことが無いので使わないことにした。従って、先日のレースでの中盤の戦術は、レートを半枚若しくは1枚上げて2位以下の引き離しを狙った。この戦術(レートコントロール)は相手を一気に引き離すだけの効果は得られなかったが、少なくとも崩れることはなく、失敗は無かった。(当然ながら、レートの上げ下ろしは、普段の練習から取組んでいた)以下、脚蹴りの有効性を纏めると:
以上