9月4日のログに対して、mimoさんからコメントを貰った。「ブレードを支点としたときのクラッチ(スリーブ)の動きを解説して欲しい」というリクエストだ。
1年半程前にこのブログで連載解説したT大木下研究室の論文の中に右上の挿絵がある。これはRowing中のキャッチからフィニッシュに至るオールと艇の動きを示している。
図を見れば一目瞭然。ちゃんと漕げている漕手には解説するまでもないが、キャッチからフィニッシュに至る動きとその要点を述べると:
- ブレードエントリー(キャッチ)後、漕手の脚のドライブによりブレードファイス面に圧力が加わり、ブレードが若干スリップする。ブレードが一枚キッチリ入っていればこのスリップは小さいが、ブレードが浅いとスリップが大きくなり、オールの振り角に対して艇(=クラッチ)の前進距離が短くなる。即ち、有効レンジが短くなる。
- 図中にオールが5本書かれているが、キャッチを1、フィニッシュを5とすると、2〜4の間でオールと艇の為す角度は直角に近くなり、推進器であるオールは推進効率が最も良くなる。即ち、この間に強く水を押せば艇が効率よく加速するということ。一方、これはブレードが一枚キッチリ水に入っていることが前提条件であり、ブレードが一枚入っていない浅いオールでは前述の通りブレードが大きくスリップして艇の前進距離は短くなる。
- 理屈を理解していない未熟な漕手は、往々にしてハンドルや漕手のバックスピードばかりに気を取られて、ハンドルを速く動かすためにブレードを浅くしてしまう傾向が見られる。推進効率の観点からすれば、これは全く逆効果だ。寧ろ同じ力で水を押すのであれば、オールを確り深く入れてスリップを小さくした方が艇が良く進む。但し、ブレードを浅くした場合に比べて長い時間、重い水を押し続けなければならないので、漕手の負担は大きくなる。でも艇は良く進む。(本来、これが正しい漕ぎ方)この辺り、粘り強さとシツコサが肝要である。
- フィニッシュ周りでは艇とオールの為す角度が効率の良い90度から離れて行くので、オールの推進効率徐々に悪くなる。フィニッシュでの振り角(SweepではMax.35度)が大きくなり過ぎない様にリギングでフィニッシュ角を調整する訳(でも最近の漕手は逆にフィニッシュ角が小さ過ぎるかな?)であるが、ブレードを離水する辺りで幾ら強く押しても艇は効率良く進まない。押切った後はブレードで艇の走りを邪魔しない様にクリーンに離水することが必要となる。
- キャッチからフィニッシュまでのブレードセンターの動きが図中に破線で示されているが、この破線のキャッチからフィニッシュまでの長手方向(艇の推進方向)の戻りをスリップと言う。同じ力で漕いだ時に、このスリップが小さい漕手(泡がコンパクト)は艇を効率よく進めている漕手であり、逆に大きなスリップ(泡が浅く広がる)で漕ぐ漕手は艇を効率よく進めることが出来ない漕手ということになる。
- 理屈を解説すると上記の通りとなるが、要するに、キャッチからフィニッシュの離水直前までブレード一枚確り水に入れて、美しく滑らかでピークの高い、丸々と肥ったForceカーブで漕ぐことが出来れば、艇はスムーズに加速してゆく。漕手はそれが出来たときの感触や艇の走りを感じ取り、毎ストロークそれが実現できる様に、執拗に練習する。そして良い漕ぎを体に憶え込ませる必要がある。それが乗艇練習の基本である。
今から冬場に入るが、上記の基本を頭に良く叩き込んで、基本が実現できる様にひたすら漕ぎ続けた漕手・クルーが来年のレースで花開かせることが出来るというもの。
以上
仮説なのですが、艇の走行中にグリップ左端(ブレード右端)位置で漕手がストップした場合、ブレードはどういう走行(軌道)をするでしょうか?
私の感覚的には進行方向に進み、イメージ的には図よりもブレードの後退が少ないです。
オヤッさん、解析していただけませんか?
当然の事ながら、ブレードエントリーはブレーキをかけないために艇速に合わせて若干戻りながらブレードが水に入ります。(艇が止まっている時にはフォワード中に放り投げる様に入れ、エントリー状態で止まることが出来ますが、艇が走っている状態では、戻りながら入れないと綺麗に入りません)エントリー後に動きを止めたら、艇止めで大ブレーキになってしまいます。
キャッチ周りのポイントは素早く一枚入れて、且つ、一枚入ったら直ちに脚でドライブするということです。
仮説として、板面であるブレードが前後(進行)方向に対しスリップゼロであるとしたとき、キャッチからミドルまでの間ブレードはブレード面のアールに沿ってエッジ方向に走行します。理論上この走行があるから揚力が得られるとされています(揚力が投影面積の現象を補っている)。とすれば、上図の破線走行は、理想理論と少しズレがあるように思いますがいかがでしょうか?
これも私の理論理解と感覚的部分の合成で仮説した考えです。オヤッさんはどう思われますか?
*感覚的部分とは、エントリー後に艇走行とブレード移動が同調した時ブレード面に水が載りブレードが進行方向とエッジ方向に走り出すという感覚で、オンパワーはそれを感じてからでした。また、ブレードの一枚入水完了をしなくても水との同調(推進力の伝達)は行っていました。考え方として、ブレード下が水面と重なった時点をエントリー(艇コンタクト)と捉えていました。
でもSweepではレースペース等、水中を確り押している時には、どちらかと言えば、右上の図に近いスリップが発生している様に思いますが。。。誰か戸田コースの橋の上からRowing中のブレード軌道をコマ送りで撮影してくれると本当のところが分かるのですが。
*印以降に書かれたみもとさんのブレード感覚については、人それぞれ感じ方が違いますし、SweepとScullでも感じ方が異なるので何とも返答出来ません。
>でもSweepでは(中略)本当のところが分かる。
の点ですが、理論を理想として追い求めるのか、それとも現時点の現象をゴールとするのか、出てくる結果が違うと考えます。
2000年LM4Xでエルゴスコアで劣る日本クルーが、イタリア・ドイツ・オーストリアを凌いで勝つことが出来たのはこのポイントが大きいです。最後の10日間はここの理屈を求めてドリルをしました。今の武田のローイングはこの基本の延長上にあります。
艇速を追求したときに「いい塩梅」というのはありますが、イメージは理論理想からの解釈が上達の近道に思いますが、おやじさんは練習中のイメージはどの様ですか?
日頃の乗艇練習の主体がスカルなんで「おやじスカラー」何ていうブログのタイトルにしていますが、学生時代、社会人選手時代はSweep主体でやってきた人間なので、実をいうと、Sweepの方が得意なんです。Sweepについては漕暦や練習量も豊富なのでいつでも思う通りに気持ち良く漕げます。一方、スカルについては学生時代に約半年間、社会人になっても少しやりましたが、力を入れて取り組んでいるのはここ3年間であり、Sweepの様には上手く漕げず、レースペースでは無駄な力が入って思う様に漕げないのが実態です。
さて、前段が長くなりましたが、SweepとScullはやはり技術的に異なるところがあると思います。特にキャッチ周りとフィニッシュ周りは異なる様に感じます。やはり両手で1本のオールをコントロールするのと片手で1本のオールをコントロールするのは違う様です。ブレードに体重を載せて体重移動でボートを運ぶという感覚ではSweepの方が分かりやすく漕いでいて気持ちがいいですね。だから長時間漕ぎ続けるのも苦になりません。一方Scullは1Xを主体にやっている為か、不安定さが気になり思う存分漕ぐというよりは修行の一環の様な間隔です。Sweepに比べると、まだまだ下手なので練習すればするほど新たな改善できるところがあります。そういった改善の余地が残っているのでScullは面白いとも言えます。何か話が逸れてしまいましたね。
最近、大学の後輩と一緒にボートを漕ぐ機会があり、ベテランのおやじと最近弱くなってしまった後輩ボート部員の漕ぎの違いは何かということを考えました。どうやらフィニッシュを強く突き放すということを強調しすぎて、本来ボートで一番重要である体重を使ってハンドルにぶら下がりながら漕ぐという事を見失っている様です。やはりボートで一番重要なのはミドルで如何に確り押すかということだと思います。押した結果として艇速が上がるというフィードバックを得られれば、自ずと更に艇速を上げるためにどうすれば良いのかということを考えるんだと思います。今回のブレードの軌跡云々もボートを漕ぐ上で結果としてそうなっているんであって、そうなる様に漕いでいる訳では無いと思います。まあ、ブレードの固定感を感じ取って固定感が良ければブレードの軌跡が理想に近づき、結果として効率よくボートを進めるということを理解していればそれで十分だと思います。恐らく、RedgraveやTomkins等の超一流の漕手も同じような感覚で漕いでいるんだと思います。ボートを介して世界の様々な人間と同じ感覚を共有できると思うと何だか嬉しいですね。
ですね!!また会話をさせて下さい。ありがとうございました。