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おやじスカラー戸田便り

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2005-02-05 木下研論文解説(その1):オールに加わる流体力

oyajisculler2005-02-05

本日は、木下研究室論文解説、その1、「オールに加わる流体力の非定常性について」解説する。

論文の一般情報:

著者:小林 寛、木下 健

日本造船学会講演会論文集 第1号 pp.99-100, 2003年

論文の要点と解説:

右上の挿絵に示す通り、ローイング中のオールは、ブレードが弧を描くような動きをしながら、水の抗力をオールのシャフトとクラッチを介して推進力を発生している訳であるが、このブレードの発生する非定常な力=流体の抗力を、運動力学の算式、実艇試験、水槽試験、流体力の推定及び検証を行ったものである。

論文の結論は、こう書かれている。:

実艇試験の考察により、漕艇運動において、オールのブレードは水中において非定常な翼として働き、ブレードに働く力は非定常であり、水中での運動の過度的な影響が大きいことが明らかになった。従って、定常状態を仮定してブレードに働く荷重を推定することは不適切で、ブレードの運動の過度影響を考慮した推定法を得る必要がある。オールブレードを模した平板による回流水槽での試験の結果、迎角が過度的に変化する場合に平板に働く流体力は定常な場合に比べて、大変に大きな値を示すことが分かった。平板には板に直角方向の力が主に働き、その直角な方向の流体力係数は迎角とともに変化し、流速・迎角が変化する速度の関数となり、reduced frequency(換算周波数)によって良く整理される。これにより、ストローク過程中にブレードに加わる非定常力を定量的に推定することが可能になった。

ということで、オール(ブレード)の発生する非定常な流体力を数値的に推定することが出来る様になったとうことで、メデタシメデタシ、終わり。(詳細内容は論文本文を読んで頂きたい)ここでは、この論文中でおやじが最も興味を持った、ブレードの深さと水の抗力係数(ブレードの固定度合い)のみについて、おやじの勝手な自論も交えて解説したいと思う。

水槽試験装置の概要:

下の図が、水槽実験装置の概要である。幅1.8m、水深1.0mの条件の回流水槽の中にスカルのブレードと同じ面積の平板(アスペクト比=縦横比も同じ)を、強制動揺装置(ロードセル)の下に水中にぶら下げたもの。オールの回転運動・周期を模して、ロードセルで平板を流水中で回転させて、平板と流水の間の迎角αを変化させたときに平板に加わる流体の過重(抗力)を計測するもの。流速は、0.8, 1.0, 1.2(m/s)の3種類で行った。(実ローイング中、ブレードはそれ程大きくスリップしないので、この流速で十分だと、おやじは考える)尚、以下の実験結果は全て流速1.0m/s時のデータ。

f:id:oyajisculler:20050205174316:image

平板の設定パターン:

実験は、平板を水面すれすれに一枚の深さで浸けたCase A、 平板上端を10cm没水させたCase B、10cm没水させた上で、自由表面の影響をが及ばない様に水面を遮蔽板で蓋をしたCase Cの3ケースで実施した。

Case Aの状態では、流れの後方の負圧面に自由表面から空気が激しく吸い込まれる減少(スリップしている)現象が発生し、Case Bでもまだ空気の吸い込みは解消しない。(実際のストローク中ミドル周辺は、このCase B程度まで没水していると、おやじは考える)、論文中、ブレードの流体力の推定は、特記の無い場合はCase Cでのデータを使っている。

f:id:oyajisculler:20050205174615:image

平板の抗力係数試験結果:

流速の中に置かれた平板の過重(抗力)Fは次の式で表される。

F=Cn * 1/2*ρ*U^2*S (但し、ρ:水の密度、U:流体との相対速度、S:平板の面積)

上の式のCnが平板の流体力係数=抗力係数を示す値である。このCnが大きい程、ブレードの発生する流体からの抗力が大きい、即ち、ブレードが良く固定され、無駄なスリップが発生しないということである。

さて、下の実験結果のCnカーブをご覧頂きたい。平板(以下、ブレードと称す)の深さが異なるCase AとCase BでCnのピークの値を見比べると、水面ギリギリのCase Aは10cm沈めたCase BよりCn値が30%も低い値になっていることが分かる。これはおやじの考えるイメージと良く合っている。

コーチによっては、水面付近は表面張力が大きいのでブレードを深く入れるより、ブレードが良く固定されるということを選手に指導している者がいるが、これは少々誤解があると思う。おやじは、自分で漕いだ経験から、ブレードを完全に没水する様に深めに入れた方がブレードが良く固定され、スリップが少なく(=泡がコンパクト)効率が良いことを知っている。(シャフトが大きく没水するほど沈めてはダメだが。。)この論文の実験結果で、おやじの自論が正しかったことが実証された様で、非常に気分が良かった。ヨシヨシ! 実際、世界選手権の決勝で漕いでいるトップ漕手の漕ぎを見るとブレードが確り深く入っているのが分かる。ブレードが浅いと、ブレードがスリップして水面付近を浅く引っ掻き回した様な馬鹿でかい泡が出来てしまい、ブレードの効きが悪くなるだけでなく、有効レンジが短くなってしまい、何も良いことが無い。シャフトにすだれが掛かるほど深くしない範囲であれば、ブレードはある程度深めに入れた方が良いのは明らかである。

f:id:oyajisculler:20050205175022:image

本日の解説はこれまで。

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プロフィール

oyajisculler

oyajisculler はてなダイアリープラス利用中

14年間のコーチ経験を経て、漕手に復帰した「おやじスカラー」

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