2006-06-17 majisska dot orz
■[ウルトラマスカ]第二話『闖入者を撲て』(前編)
──うーん…。
高校生ナガハラ・ハルカは、小山からチョッとつきだした、八畳敷きほどもある一枚岩の上に仰向けになって、暮れかけた空をぼんやりと眺めていた。
…そろそろうちに帰らないとな…。
場所は、自宅からほど近い、「四方津神社」の森である。神域とされていて、本来出入りはできないことになっているが、ハルカは小さい頃にはよく友だちと一緒にこっそり遊びに来ていたし、両親や祖父母からもそういう話を聞かされたこともある。
さて、ハルカが腰を上げていよいようちに帰ろうと思ったとき、薄暮の空に二条の流れ星が目に入った。しかもそれはどんどん近づいて、ついには四方津神社の森の中へ落ちたのだ。
(妙だな?)
ハルカがそう思ったのも無理はない。流星はたしかにすぐ近くに落ちたにもかかわらず、地響きもなんの音もしないからだ。
(ミシャグジ池の方だ)
ハルカは二つの流星のうち、近くに落ちた方の見当を付けると、森の中へ分け入った。
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草をかき分け、枝を払って、森を進むと、ミシャグジ池の方からふしぎな光が出ている。それは、およそ地球上には存在しそうにない──、そう、宇宙からやってきたに違いないと思わせるような光だ。ハルカは池のほとりに立った。
「あっ!」
ハルカは見た! 池に落ちたのは、宇宙からの生命体だったのだ。その生命体は、地球人の何倍あろうかわからないほどの大きさで、しかし、たしかに人間のような胴体と四肢を持っている。巨人は池の底に片膝片手をついて、光のなかでハルカを見おろした。
(((──……)))
「え?」
(((──あなたはこの星の人間ですか…)))
巨人が発した声は、鼓膜をまったく打たずに、それでもハルカの意識にはっきりと響くのだった。
「なんだって?」
(((──わたしの名はマスカ。…アンドロメダ星雲の宇宙大社に仕える神官です。──わたしたちが封印していたアンドロ比良坂の窟の注連縄がなにものかによって断たれ、鎮め祀っていた邪神デビューボがこの世によみがえりました。──わたしはデビューボを追い、はるか銀河を越えてこの星までやってきたのです)))
ハルカはとても信じられない思いになったが、目の前で起こっていることは呑み込まなければならないと思い直した。
(((──デビューボを追って、昼夜を兼行して飛行すること230万光年、身体は疲労し、さらに反撃を受けて、ここに墜落してしまったのです)))
全身をよく見ると、たしかに傷つき、疲れているようだ。
(((──デビューボも傷を負って、この近くに潜んでいるはずです。しかし、わたしはこのままの状態ではこの星で動き続けることができそうにありません。お願いがあります。あなたの体をわたしに貸してください。)))
──体を貸すというのは、いったいどうことだろうか? そしてそれとは別に、ハルカには自分の肉体について普段から考えていることがあった ──瞬間、そのことを連想した。
(((──時間がありません。デビューボのあとを追うためです。それに、この星の大気はわたしの肌に合わないようです)))
マスカはいっそう疲れたというように手を池の底でつきなおした。その肌を見ると、硫酸に侵されるように徐々にかすれていくようだった。ハルカはなお時間をかけようとはしなかった。
「ああ、いいよ。こんな自分でも人助けになるなら──」
辺りを覆っていた光がさらに輝きを増し、ハルカの目を眩ませた。 ──何が起こったのだろうか。
………
チチチ…
「──あれ…」
小鳥の声と、窓からの朝日にさらされて、ハルカは目を覚ました。そこは自分の部屋だ。ハルカは、昨日下校したままの格好で、ベッドに突っ伏していた。
(──夢を見ていたのかな?)
放課後、四方津神社の森に行ったのはたしからしい。しかし、そのあと、いつ帰宅して、いつ眠りについたのだろうか。
「うーん…」
記憶がたしかでないが、ともかくも今日も学校に行かなければならない。起きあがろうとしたとき、ハルカは伏せた左手のうちに何か石のようなものを持っていることに気が付いた。
「これは…なんだろ」
手を返してみると、それはすきとおった黄緑色の勾玉だった。そしてそのこぶになっているところの中心が、きのうミシャグジ池で見たはずのものと同じ色の光を、かすかに発しているのだった。
(後編へつづく)
チャカチャカチャカ... ウー(◎△◎)デ・ビューボ!