女児を布団ごと連れ去り性的暴行 “炎上”する韓国社会
産経新聞 9月30日(日)11時31分配信
性犯罪の深刻さに韓国社会が揺れている。自宅で家族と寝ていた小1女児(7)が男に布団ごと連れ去られ、性的暴行を受けた上、殺されそうになるというショッキングな事件が起きたためだ。大統領が国民に謝罪する事態ともなった。韓国では性犯罪者に対し、所在を特定する「電子足輪」装着や個人情報公開、薬物による化学的去勢という“厳罰”で臨んでいるにもかかわらず、再犯も後を絶たない。(桜井紀雄)
■台風の中、布団にくるまれ発見…腸破裂、顔には歯形
韓国南部、全羅南道羅州(ラジュ)市で8月30日未明に事件は起きた。
聯合ニュースや有力紙、東亜日報、朝鮮日報などの報道によると、30日午前7時半ごろ、雑居ビルにある自宅の居間できょうだい3人と寝ていたはずの次女が布団ごと姿が見えないことに母親が気づいて通報。同日午後1時ごろ、捜索していた警察が約300メートル離れた橋近くの歩道で女児を見つけた。
台風による大雨の中、女児は裸でびしょぬれの布団にくるまれ、気を失ったように眠っていた。全身にあざがあり、性的暴行によって直腸が破裂する重傷を負っていた。顔の2カ所に男の歯形まで残っていた。
「目を覚ましたところ、知らないおじさんに布団ごと抱えられていた。助けてと言ったけど、おじさんは『親戚のおじさんだ。大丈夫だよ』と無理やり連れて行って悪いことをした」。女児はこう話したという。
その後、逮捕されたコ・ジョンソク容疑者(23)は「顔を覚えられたと思って首を絞めた。女児が動かなくなったので死んだと思った」と供述。コ容疑者は橋の下で犯行に及んだが、朝に一度意識を取り戻した女児が自力で歩道まではい上がって再び気を失ったという。
■「子供は元気か」母親に声かけた後、大胆犯行
コ容疑者は、日雇いの仕事をしながら住居を転々とし、犯行当時は女児宅近くの親戚宅に身を寄せていた。インターネットカフェに入り浸り、ゲームのほか、児童ポルノにははまっていたという。
犯行前日は台風で仕事がなく、仲間と酒を飲んだ後、30日午前0時ごろ、近くのネットカフェに向かった。
女児の母親もネットカフェの常連で、コ容疑者とも顔見知り。このとき、カフェで母親に会ったコ容疑者は「子供たちは元気か」と尋ねていた。このわずか約1時間半後に施錠されていなかった女児宅に忍び込んだとされる。
警察の調べに、コ容疑者は「酒に酔ってやった」と供述しつつ、「児童ポルノを見て子供とやってみたいと思うようになった」と口にした。
「もともと小6の長女を狙ったが、部屋の奥で寝ていたため、一番入り口側で寝ていた次女を布団にくるんで出た」と、場当たり的で身勝手な犯行経緯も供述しているという。
事件をきっかけに韓国メディアは韓国社会の性犯罪の実態について報道キャンペーンを始めた。李明博大統領は事件翌日に急遽(きゅうきょ)警察庁を訪れ、痛ましい事件に至ったことに「政府を代表して謝罪する」とし、性犯罪などに対する治安強化を国政運営の最優先にすると表明した。
■電子足輪や個人情報公開も、骨抜きの実態
韓国政府は、2008年から性犯罪の前歴者に対して所在地が分かるようにGPS(衛星利用測位システム)機能のある「電子足輪」を装着させる対策を取っているほか、10年から顔写真や住所といった個人情報をインターネットで公開する措置を始めた。
16歳未満の未成年者に対する性犯罪ではケースによって「化学的去勢」と称する男性ホルモンの分泌を抑える薬物投与を認めてもいる。
08年に登校途中の当時8歳の女児が男=当時(56)=に教会のトイレに連れ込まれて性的暴行を受け、下腹部の機能を失うほどの重傷を負った事件があり、性犯罪に対し厳罰化を求める世論が盛り上がったことも背景にあった。
しかし、その効果を疑わせる事件が羅州市の女児連れ去り前の8月20日にソウルで起きていた。
子供を幼稚園の送迎バスに見送った直後の主婦(37)が、そのすきに性的暴行目的に自宅に忍び込んだ男(42)に刺殺された。その後、男は性犯罪で収監され、昨年11月に出所し、電子足輪を装着したまま犯行に至っていたことが判明した。
被害者宅は男の自宅から1キロほどで、いくら位置情報が発信されていたとしても「特異な行動」とは見なされなかった。男はこの2週間前にも別の女性を襲っていたことも分かった。
7月には、性犯罪の前歴があった男(44)が登校途中の女児(10)を連れ去り、性的暴行をしようとして抵抗され殺害する事件が起きていた。その後に羅州市の事件が続いただけに、これまで以上に性犯罪に対する批判が強まった。
警察庁が9月中旬にかけ、個人情報の登録義務がある性犯罪前歴者4509人の登録内容を洗い直したところ、所在がつかめない対象者が64人に上り、実際とは違う住所を登録していた者が339人いたことも明らかになった。
鳴り物入りの性犯罪者対策も一部で全くの骨抜きになっていたのだ。
■元警察署長から「売春認める必要」発言も
9月に入って韓国警察庁は、全国の警察署に性暴力予防を担う課・係を、同庁に児童ポルノを摘発する「児童ポルノ対策チーム」を新設することを決めた。
韓国政府は19歳未満への性暴力に対する量刑引き上げを検討するとともに、性犯罪者の個人情報公開や化学的去勢の適用範囲を広げる方針を打ち出した。
インターネットで「ロリータ」などの用語をやり取りした場合、「児童・青少年の性の保護に関する法律に基づき処罰される可能性がある」と警告メッセージを自動表示する案も検討している。
相次ぐ性犯罪を受け、元警察署長の女性大学教授が「性的衝動を抑えられない男性もおり、限定した地域で売買春を認める公娼(こうしょう)制度を導入すべきだ」とテレビ番組で発言。かつてソウルの風俗街の摘発を推進した人物だっただけに物議を醸した。
20日には、4歳の女児に対する性的暴行事件で、被告にこの種の事件で最高刑となる懲役15年の判決に加え、出所後に電子足輪装着20年、10年間の個人情報公開も命じられた。
一方で、13歳未満の児童が被害に遭った性犯罪で加害者を告訴するケースは3割強にとどまっている実態も浮かび上がった。
性犯罪の児童被害者支援に取り組む施設幹部は朝鮮日報に「告訴するには児童がつらい思いを証言しなければならず、親が諦めることが多い。性犯罪に遭ったことを知られるのをためらう韓国特有の文化も大きな理由だ」と述べた。
自分の意思をうまく伝えられないことをいいことに性犯罪者らが児童をターゲットにしている事実もあるだけに、性犯罪を取り巻く宿痾(しゅくあ)の根は深い。
最終更新:9月30日(日)11時31分