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『肉会』というソーシャルマッチングサービスが示した「つながり」の空間

上村祐一

2012年09月29日 09:00

2012年5月18日に交流サイト(SNS)最大手、フェイスブックが上場したのは記憶に新しい。創始者マーク・ザッカーバーグは、ギークワールドからビジネス界に、その主戦場を移したと言えるかもしれない。これに先がけて、映画『ソーシャルネットワーク』は爆発的にヒットし、起業を試みる多くの人に夢と希望、そして「リアル」な厳しさをつきつけていた。いまやフェイスブックを利用したサービスやビジネスは至るところに点在し、新興企業がネット市場に参入することの大きな足がかりになっている。ただ、上場後に株価下落で損失を被った投資家たちが、フェイスブックを「フェイド(消えていく)ブック」と揶揄している記事が瞬く間に広がりを見せたことも、この市場の難しさを的確に表現している。

『肉会』 という名のソーシャルマッチングサービスが若者の間で静かなブームとなっているようだ。ホームページに掲載されている情報によれば、日本最大級のフェイスブックマッチングアプリで、2012年8月14日時点において、既に87,000件ものマッチングが成立しているという。

『肉好き男女が集まって、焼肉をいっしょに食べに行ったり、おごってもらったりする、フェイスブックを活用したソーシャルな焼肉会マッチングサービスです。』

このサイト運営の代表を務めるのが、ネット住民で知らない人はいないと言っても過言ではない、「はあちゅう主義」というブログ運営によって一躍ネットアイドル(?)の階段をかけあがった伊藤春香氏である。彼女は20代という若さと端整な顔立ちを実に上手に活かして、執筆活動をはじめとした情報発信をしながら、ネット世界の可能性を示している。

ぼくはこのサイトを見たときに、純粋に感じたことが「これは金になるだろうな」だった。なぜなら日本人が必要としているフィルター分けが適切になされているからだ。

日本にはそもそも「見合い」と呼ばれる伝統的なマッチングシステムが存在している。このシステムには世話人と呼ばれる第三者が、結婚を希望する男女の間に入り、互いの条件に適合した人をつなぎあわせるシステムで、長い間日本において親しまれてきた。この場合、男女対面が実現した暁には、対面に要した飲食費や世話人の交通費など実費相当額にあたる費用に加え、多少の礼金を包むのが通例である。

サイトを見ればわかるように、『肉会』は、フェイスブックという実名のみならず、実生活の状況という相手の私的空間も担保とした画期的なツールである。このフェイスブックというのは、特定の人物がどういった個人であるのかということのみならず、どういった友人・知人がいるのかということまで容易に把握できてしまう。最近では、企業も積極的にフェイスブックを採用活動に取り入れ、エントリーシートや面接では測りえない、「真実の個人」を評価することが主流になってきているようだ。もはやここには公共空間と私的空間の壁はとりはらわれ、同一の「信用」によって価値判断がなされる。

『肉会』のコミュニティはSNSと一体化し、相手の実生活を担保としているから、利用者は相手がどういう人物かをフェイスブックで確認しようとするに違いない。そうなると、出会いを求める人は好むと好まざるとに関わらず、フェイスブックに登録することを余儀なくされる。いまやネットを媒介とした「信用」の値段は、合コンや見合いという歴史的な現実世界を媒介とした「信用」の価格に追いつきつつあると言えるだろう。

『肉会』を運営している団体がどのようなスキームで利益をあげているのかは知る由もないが、ここに広告会社が介入したり、新たなサービス機能を補充したならば、マネーが創出されることは間違いないだろう。

さらにこのサイトがポジティブ運営を可能にしている最大の要因は、参加者が「損をしている」と実感することが少ないことだ。伝統的な見合いというシステムにおいては、食事代の他に仲介者に対して、一定の礼金が発生するが、『肉会』では肉を食べるという行為以上の費用は発生しえない。もちろんアフターでのやり取りが生じえるならば、この限りではないが。

この公共空間と私的空間が混在した世界でいきるぼくたちは、知らず知らずのうちに、社会的ネットワークの網にとらわれているのかもしれない。ここではあらゆるステータスという名の符号が圧倒的に特定の人物の「信用」に結びつき、その個人の価値を形成することになるだろう。『肉会』はネット空間というインビジビル(目に見えない)なネットワークに公共性を持たせた数多のツールのうちのひとつではあるけれど、これからの<社会的つながり>を示したものであることは間違いない。

参考文献

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異

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外資系証券会社勤務。読書、ワインなどを愛する日本人

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