【取材記事】学生の学生による学生のための出版選手権

2011年12月13日 Posted in 15 - イベント

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11月27日、国立オリンピック記念青少年総合センターにて、「学生の学生による学生のための出版選手権」と題された、第7回出版甲子園決勝大会が開催された。主催は様々な大学の学生から構成される出版甲子園実行委員会である。出版甲子園とは、全国の学生から本にしたい企画を募集し、たくさんの審査を繰り返し、選ばれた12の企画のみが今回の決勝大会に進出し、プロの編集者・書店員の前でプレゼンできるというものだ。なんと今回は過去最大の257の企画募集があった。そしてその中でさらに良い企画、審査員の目にとまった企画はなんと実際に出版化され、書店に並ぶこととなるのである。出版甲子園は2005年に開催されて以来、計14冊、約130000部の学生書籍を出版化してきた。「学生でも本が出せる。」そんなことを知らしめる大会だ。さらに審査員は小学館、講談社、集英社をはじめとする有名出版社のベストセラー担当編集者達だ。そして、今回の第7回大会では、ゲストとして200万部突破のベストセラー「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」の著書である岩崎夏海氏が参加した。全国から選び抜かれた学生とベストセラー編集者の熱い熱い戦いが行われたのである。

いよいよ決勝大会が始まり、第7回出版甲子園実行委員長である前原浩佑さんは始めの挨拶で次のように述べた。「学生作家誕生の瞬間、学生の人生がちょっと動く瞬間を見て頂きたい。社会に大きな影響を与える人材が出るのではないか。」学生の人生がちょっと動く瞬間とはどのようなものなのだろうか、社会に大きな影響を与える人とはどのような人なのだろうか。会場内の期待が高まった。

DSC06293.JPG決勝大会は2部に分けて行われた。メインの第1部では12人の学生による審査員の前でのスクリーンを使用したプレゼンが行われ、それに対して審査員が、評価し、また気になるものがあれば学生に質問をする。熱い。とにかく学生が熱い。どの学生も話す声には熱が入り、広い会場に大きな声が響いた。限られた時間の中で、それぞれの学生が本を通して伝えたいことを必死に表現する。「大日本トイレ奇譚」の企画者である藤原文味子さんは、「こんなくだらないことをしている学生もいるのだと知り、学生に何かアクションを起こして欲しい。」、また「新・現代社会の教科書 ~東大教授のアタマの中をのぞいてみよう~」の企画者である東大知力向上委員のお二人は「夢抱く若者に答えたい。手助けをしたい。」と述べた。「学生に何かを感じてほしい」そ のような想いをもった参加者が多かった。DSC06272.JPGそして、どの企画も本当に学生が企画したものなのかと驚くほど、わくわくするような内容であったが、プロの審査員の目は厳しかった。ただ面白いだけでは意味がない。お金を出してその本を買ってくれる人が必要だ。売れなくては意味がないのである。商業出版の難しさを見た気がした。しかし良い評価もたくさん出た。学生に対して、「感銘を受けました。」「感動しました。」というような言葉が審査員の口から出るのもしばしばであった。熱いのは学生だけではなかった。学生に負けないくらい審査員も熱かった。学生のプレゼンに対して良い評価をするにも悪い評価をするにも常に真剣な眼差し、態度で接している。このような風景を見て初めは、違和感を覚えるほどだった。しかし分かったことが一つある。私達学生が思っているより、はるかに社会は私達に期待しているのではないか。私達学生はもっと積極的に社会に対して発信してよいのだ、ということである。そんなことを12人の個性溢れる学生が教えてくれた。

DSC06286.JPG第2部では公開審査というものが行われた。これは今大会初の試みだったようである。公開審査とは、ステージ上で、第1部で選びぬかれた12企画中の4企画について審査員が机を囲み、普段行っているような実際の会議をする。いよいよここで、グランプリ、準グランプリが決定するのだ。実際にどのような視点で編集者が話し合いをしているかが分かる。どの審査員も有名出版社のベストセラー編集者の方々であったが、様々な意見が飛び交い、会議はとても白熱した。それほど4つの企画に甲乙がつけがたかったということであろう。普段は絶対に見ることのできない会議の様子を見ることができ、出版業界に興味がある学生にとってとても面白いものであったのではないだろうか。

DSC06305.JPGそして、とうとうグランプリ、準グランプリが決定した。グランプリには高田真理さんの「世界一の紙芝居屋ヤッサンの人生を貫く7つの心」、準グランプリには無能さんの「無能の就活。~人事に体を売らないで!資格も実績もいらない内定理論~」が選ばれた。今大会のゲストである岩崎夏海氏は高田さんに対して「プレゼンがうまかった。ホスピタリティ、聞く側への配慮が一番だった。」と絶賛した。また、ゲスト特別賞である岩崎夏海賞を村瀬さつきさんの「実録!『肉食合コン』のすべて」が選ばれた。「自分の想いが少しでも伝わって良かった。」と述べた村瀬さんの目には涙が浮かんでいた。12人の学生それぞれに大会に到るまでに様々なドラマがあったのであろう。あれほどまでの熱さと、「学生でもできる」ということを示し、私達学生に勇気を与えてくれた彼らに大きな拍手を贈りたい。

DSC06184.JPG審査員のリブロ池袋本店の店長である菊池壮一氏は「今年は目新しいものがあった。出版甲子園も過去の経験が受け継がれている意味で、“元年”になったのではないか。」と述べた。このように絶賛された今大会であるが、主催者である出版甲子実行委員会の学生はどのような想いでこれまで活動してきたのだろうか。出版甲子園実行委員会の実行委員長である、前原浩佑さんにお話しを聞くことができた。今年で実行委員をやって3年目という前原さんにも様々な想いがあるはずである。観覧者の人に、「学生だって本を出せる。学生の力はそんなに小さなものじゃない。」ということを感じて欲しいと話してくれた。また、初めの頃の苦い思い出も話してくれた。そのような悔しさをばねに、今回実行委員会代表として「とにかく行動をする」ということを念頭に活動してきたそうだ。「7回目となり安定期に入り、横ばいになってきた状況を打破したかった。昨年を越えられないのではとも思ったが、そんなことはない、伸び白があると信じていた。」と話してくれた。上限を定めず活動してきた結果、過去最大の出版甲子園が実現できたのであろう。しかし、これからの出版甲子園を担う後輩達に、もっともっと大きなものにしてほしいと述べてくれた。これからの出版甲子園にも期待がかかるばかりである。

(文責:キッカケ関東 渡邉まどか)