ここで、まず最初のボタンをかけちがえることになる。
原発から230キロ離れた首相官邸は、法的には本来「後方基地」にすぎないはずだった。しかしセンターの機能不全でその役割が全部回ってきた。さらに福島県庁の災害対策本部も地震で建物自体に入れなくなり、機能しなくなった。
そもそも、原発直近の事故の時に住民が立入禁止になるような地点に情報ハブがあること自体、設計を間違えている。これは「原発事故が起きても、格納容器が破裂して放射性物質が敷地外に拡散するような事態は起こらない」という前提で立地されているからである。
【3】「首相官邸」には、責任も権限もまったく違う4種類の人たちがいた。新聞やテレビが使う「政府は」「首相官邸は」という主語は雑駁かつ曖昧すぎる
(1)「政治家」=菅直人首相、枝野幸男官房長官、福山官房副長官、海江田万里経産大臣など。選挙で選ばれた国会議員(衆院、参院)あるいは民間から。与党が任命する。
任期、政権交代、当選・落選などで数年で交代する。また腐敗防止のために数年で交代することを期待されている。その性格から、専門性は期待されない。それを補完するために官僚や学者がいる。
(2)「官僚」=寺坂・原子力安全・保安院院長をはじめとする経済産業省、文部科学省などの国家公務員。終身雇用制度を前提にしている。大学卒業後ある省庁に就職すると、基本的にずっとその官庁に身を置く。「原子力災害対策特別措置法」「災害対策基本法」といった法律の解釈、運用のほかさらに細かい施行規則、運用手順(プロトコル)に通じているはずだった。つまり法と制度の専門家である。
(3)「学者」=班目春樹・原子力安全委員長をはじめとする原子力工学・発電所・防災などの専門家。原発事故の進展について政治家にアドバイスするはずだった。
(4)「東京電力」=武黒一郎フェローが部下数人とともに首相官邸にいた。
なお、福山官房副長官は「原発の事故を沈静化させるのは、一義的には事業者(東京電力)の責任」と話している。これは原災法など法律的には正しい。ただし、その原災法は「敷地の外には放射性物質は漏れ出さない」という前提の法律であることは注意を要する。法律の前提が間違っているので、そに法律に従って現実に合わなくなったのが今回のケースだからだ。
もう1つ、福山氏のそうした見解を後押しするのは、福島第一原発の内部の構造から事故の現況まで、もっとも情報に近い立場にいるのは事業者=東京電力だという事実だ。さらに、監督官庁である原子力安全・保安院もそうした原発内部の図面は持っており、内部構造にも通じていることになっている。そのために災害対策や安全検査の担当者がいる。一部は福島に常駐している。東電や保安院が何をしていたのかはまだ取材する必要がある。
【4】震災当日3月11日16:45に全電源喪失の通報を受けても「住民避難を開始」という認識は首相官邸内部にはなかった
『原子力防災』の筆者である松野元さんが繰り返し私に強調したのは「15条通報が住民避難のヨーイドンだ」ということだ。「この15条通報を起点に25時間以内に30キロ内の住民を退避させること」を松野さんは福島第一原発事故でとりえた政府の住民避難として指摘していた。
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