沖縄県・尖閣諸島をめぐって緊張する日中関係。軍事力では日本優位といわれるが、ガチンコの武力衝突になる前に、日本が足元をすくわれてしまう深刻な問題がある。自衛隊内に侵入するスパイの工作だ。ハイテク兵器もコンピューターウイルスによって動かなくなれば単なる“鉄くず”。伝統的に「戦わずして勝つ」作戦を好む相手は、実は想像以上に手ごわい。
日中国交回復からきょう29日でちょうど40年となった。しかし、尖閣諸島について中国の楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)(よう・けつち)外相は27日夜(日本時間28日午前)、国連総会一般討論で「日清戦争末期に日本が中国から釣魚島(尖閣諸島の中国名)を盗んだ歴史的事実は変えられない」と演説。これに対し、藤村修官房長官は28日午前の記者会見で、「中国独自の主張でまったく根拠がない」と述べるなど、事態は緊張感を増している。
両国の軍事力は、総兵力こそ中国が日本の10倍となる約230万人を誇るものの、各種兵器の性能を含めた総合力では自衛隊が勝るとされる。ならば一戦交えるか-と、強硬論が高まっても不思議ではない。
が、日本優位は兵器が能力をフルに発揮すれば、のこと。『国防の常識』(角川学芸出版)などの著書がある元航空自衛隊員の軍事ジャーナリスト、鍛冶俊樹氏は「中国のスパイが自衛隊に潜り込んでコンピューターウイルスを流せば、兵器が正常に動かない危険がある」と警告する。
「(敵を正確に探知する)イージス艦のレーダーが作動不能、もしくは精度を落とされれば、もはや海に浮かぶ単なる“鉄くず”。自衛隊では定期的にウイルスチェックをしているが、いざ決戦という直前にやられたらひとたまりもない」
映画『インディペンデンス・デイ』を連想させるシナリオだが、中国のスパイが自衛隊に入り込めるのか。
「スパイが中国人とはかぎらない。中国人と結婚した隊員の夫がウイルスを運ぶこともあり得る。地方の飲食店で店員の中国人といい仲になり、結婚するケースもかなりあるといわれる。夫を抱き込まなくても、USBメモリやノートパソコンにウイルスを忍ばせれば、自衛隊のシステムが感染してしまう」(鍛冶氏)
2007年には海上自衛隊で、不法滞在の中国籍女性を妻にする隊員がイージス艦の中枢情報を外部に持ち出す問題が発生。直後に海自が行った調査では、外国籍の妻がいる隊員が約100人もいたことが判明した。
スパイ活動の中核となる情報収集は、自衛隊内部に潜入しなくても可能という。軍事評論家の神浦元彰氏は「定年退職した自衛官や研究員に焦点を絞り、技術の講師として中国に招く。元自衛官らは高級な食事やホテルで接待を受け、『先生、先生』とおだてられるうちに、つい機密情報までしゃべってしまう。こうした活動は日中の国交が回復した直後から続けられている」と指摘する。
相手の工作になすすべはないのか。前出の鍛冶氏は「情報戦に有効な防御策はなく、お互いに攻撃し合うしかない。現在も多くの日本人が中国各地に住んでおり、中枢に入り込んで軍事の機密情報を得ることは可能。やろうとする意欲さえあれば情報戦で対抗できる」とみている。
中国は「戦わずして勝つ」の哲学に貫かれた孫子の兵法の本家。挑発には乗らず、こちらも戦わずして勝つ戦略を練ることが重要だ。