非常に面白い内容の新書を献本頂いたので早速レビュー。
「芸人」から見た日本社会
(公式サイトより)
本書の著者は「マキタスポーツ」の芸名で知られる槙田雄司氏。芸人の目線から、日本社会に異論を投げかけています。
ツッコむ、ボケる、ウケる、スベる……本来であればお笑い芸人だけが気にしていればよかったことを一般の人々も気にするようになったのです。
私から言わせてもらえば、別にそんなに必死にならなくていいんじゃないか。そう思っています。一般の人たちはお笑い芸人ではないのだから。
「一億総ツッコミ時代」というタイトルの通り、本書の主題は「ツッコミ」にあります。感のいい方なら、槙田氏が抱いている違和感について、このタイトルだけで共感するでしょう。
世の中がバラエティ番組化していくと同時に、マスコミ視点で、他者に対して、ツッコミをする人が本当に増えたと感じています。
自分では何もしていなくても、他人のことは評価したい。そうすることで自分の価値を手軽に上げようとするわけです。
本の中でも言及されていますが、まさにツイッターや2ちゃんねるはそんな「ツッコミ」が集まる場所ですよね。僕自身もしばしばツッコミを受けますが、安全地帯から攻撃されている感じに毎度辟易してしまいます。
「油断できる空間」が必要ではないか
そんな過剰な「ツッコミ」文化は、日本社会の閉塞感の原因になっていると槙田氏は指摘します。ツイッターとかブログの「投稿」ボタンをドキドキして押せずにいる…なんてのは過剰なツッコミ文化の弊害でしょうね。
油断を許さない社会であり、みんな楽しみ方もわかっていない。とても息苦しい社会になっています。みんなが幸せに暮らせるようになるための「社会」なのにこれでは本末転倒です。もっと油断できる空間が人にとって必要ではないでしょうか?
(中略)
今の日本は、みんながみんな自意識過剰です。
自分のポジショニングを確認していないと不安でしょうがないという人が多いのです。そのうえで「自分はツッコミの立場に立っている」と確認していたい。自分の振る舞いや、回りからどう見られているかを常に気にしている。常に自分自身の振る舞いを厳重に監視しているわけです。
それが息苦しさの正体だと思います。
では、どう生きればいいのか?
問題点を指摘するに留まらず、本書ではこれからの生き方も指南してくれています。以下メモ的に引用。
・「夢中」になっている人の遠心力
誰かが何かに夢中になっている姿を見ると、いろいろな人が放っておけなくなって何か言いたくなったりする。これも「夢中」が持つ、ひとつの力だと思います。(中略)何かに夢中になっている人は、ツッコミを入れられる側、つまり「ボケ」です。・AKBやももクロなど「無垢なもの」が見たいという欲求
今、AKB48やももいろクローバーZが強いのは、ああいうガムシャラな人たちや、ひたむきな人たちが魅力を放っているからではないでしょうか。(中略)「純なもの」や「神聖なもの」にはツッコミ性がありません。完全にボケ側のものです。しかし、世の中はそういうボケ的な要素がどんどん削ぎ落とされています。人々は、無垢でいたいけではかないもの、制御不能なもの、ネイキッドでドロッとしたものを、ドキュメンタリー、あるいはリアリティショーとして見たがっています。それは普遍的な欲求です。・「好き/嫌いを表明しよう」
あらゆる物事に対して「良い/悪い」という評価をするのではなく、もっと「好き/嫌い」という感情を表現してみてはどうでしょうか。(中略)「良い/悪い」というような超越的な言葉、評論的な言葉、紙のような上から目線の言葉と言うのは、メタ視点的な言葉です。・コンプレックスはボケに転じてネタにせよ
自ら「こういう隙がありますよ」と自分で本当に理解できるようになると、とても楽になると思います。これは芸人としてだけの話ではありません。(中略)モテない人は、太っていることをツッコまれないように防御しています。自分がツッコまれないように他人に矛先を向けているのです。だからまわりの人もどう付き合っていいかわかりません。・「ボケ」の需要が高まっている
パーテーションに籠って、覆面で他人にツッコミをし続けても人生です。でも、枠から飛び出して、ベタなことをやったり、理不尽や面倒なことも引き受けてみると、人生はどんどんカラフルになっていきます。「一億総ツッコミ時代」においてボケの需要は高まっています。今こそ、やりたいことを人の目を気にせずやってみてはどうでしょうか。夢中になってやってみるのです。あなたの好きなことは何ですか?思わず朝までやり続けてしまったことはありませんか?
僕は文章を書いている側なので、どちらかというと「ボケ」に回ることができている人間だと思います。もちろんカンペキに振り切れてはいませんが…。
この本を読んで思い出したのが「31歳にしてうんこをもらしました」というブログ記事。まさにボケに回るというのはこういうことですよね。面白過ぎる。
ボケ側に回るのは勇気がいることで、決して無傷ではすみません。小石どころか、凶器が飛んでくることもあります。が、そのうち自分の防御力・スルー力も強くなっていくので、慣れてきてしまえば「ボケ」のメリットだけを効率的に享受することができるようになります。
僕が多くの人にブログを書いてほしいと願うのは、ボケ側に回る喜びを実感してほしい、という狙いもあります。安全地帯からツッコむだけなんてサルでもできます。自分の意見を恐れず発信することこそ、真に人間的で創造的な行為だと僕は思います。
というわけで大変おすすめの一冊。勇気をもらいたい方はぜひ。