生活保護:「アメとムチ」 厚労省案、安全網後退の懸念も
2012年09月28日
生活保護を受ける世帯・人数と保護率の推移
厚生労働省が28日公表した生活保護制度の見直し素案は、就労意欲を促すための加算金創設など「アメ」の部分と、審査の厳格化という「ムチ」の両面で従来より踏み込んだ。ただ、就労促進の実を上げるにはきめ細かい支援が不可欠だ。この前提が崩れれば厳格化だけが強調され、「最後のセーフティーネット」としての機能が後退しかねない。
働く意欲がある人への加算、賃金を得れば保護費が減額される仕組みの緩和−−。受給者に働くことを強く促す素案に対し、実務を担う自治体側の委員は28日の社会保障審議会の部会で方向性に賛意を示した。ただ、実効性には疑問も残る。
例えば今回の目玉、加算金創設も、何をもって「働く意欲がある」と評価するかは示していない。厚労省は採用面接を受けた回数などを想定しているが、あるケースワーカーは「外形的なアリバイはいくらでも作れる」と打ち明ける。
厚労省が就労支援に力を入れるのは、保護費を減らせると踏むからだ。同省は、保護を受けずに正社員となり納税する側に回れば、1人当たり生涯で9000万~1億6000万円が浮くと試算している。それでも09年に就労支援を強化した大阪市では、支援を受けた受給者の2%程度が保護から抜けただけ。同日の部会で高知市長の岡崎誠也委員は「相当な財源と人員が必要だ」と指摘した。
一方、審査の厳格化には、現場を知る人たちから批判が上がる。象徴的なのは、働かない人への支給を厳しくする案だ。「労働意欲がない」と一律に判断するのは難しく、同部会委員でNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表理事は「生活保護法が掲げる『無差別平等の原理』に反する恐れがある。ゆがんだ解釈をするケースワーカーが横行するのではないか」と懸念する。
実際、自治体の現場担当者は「国が『厳格化』にお墨付きを与えた意味は大きい。餓死者が出ても自治体が矢面に立たず、国の責任にできる」と話し、これを機に生活保護を絞る自治体が出てくる可能性を指摘する。【鈴木直、遠藤拓】