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【社説】

表紙を変えただけでは 自民新総裁に安倍氏

 自民党総裁に安倍晋三元首相が返り咲いた。野田民主党政権と対峙(たいじ)し、政権奪還を目指すが、「表紙」を変えただけでは、国民の信頼は取り戻せない。

 自民党国会議員にとっては無難な選択なのかもしれない。次期衆院選や来夏の参院選の「顔」として、新鮮さはあるけれども、総裁としての力量は未知数の石破茂氏(55)より総裁経験者の安倍氏(58)の方が適任とみたのだろう。

 ただ、かつて福田赳夫元首相が「天の声」と呼んだ党員・党友票の選択と異なる結果は、自民党議員と国民感覚とのズレを象徴しているように思える。

現実的政策見えず

 安倍氏は当選後のあいさつで政権奪還に向けた強い決意を示し、「政権奪還は私たちのためでも自民党のためでもない。日本を取り戻し、強く豊かな日本、子どもたちが生まれたことを誇りに思える日本をつくるためだ」と述べた。

 その通りだ。政治は国民の暮らしを豊かにする政策実現のためにある。一政党の私物ではない。党利党略が優先されるようなことは断じてあってはならない。

 ただ残念でならないのは、今回の総裁選を通じて、行き詰まりを見せる日本の政治、外交、経済、社会をどう立て直すのか、国民の暮らしを豊かにするための現実的なシナリオが見えてこなかったことだ。

 国内総生産(GDP)第三位に転落した経済の長期低迷、国と地方合わせて一千兆円に上る巨額の財政赤字、原発事故を招いた厳格さを欠く原子力行政、天下りに代表される政官業癒着と強固な官僚主導政治、沖縄県民に過重な負担を押し付けることで成り立つ日米安全保障体制、などなど。

 これらは三年前、民主党政権になって突然始まったのではなく、前政権からの延長線上にある、自民党政治の「負の遺産」だ。

声高に叫んでも…

 確かに、自民党の失政が招いた閉塞(へいそく)状況からの脱却を期待し、民主党に政権を託した国民にとっては、裏切られた三年間だった。

 政治主導の政策実現は期待外れだったばかりか、国民との契約であるマニフェストに反する消費税増税を強行した。政権担当能力不足は否めず、国民の暮らしがよくなったと思える状況でない。

 政権を選ぶ眼力が国民に不足していたと言われればそれまでだ。

 しかし、ただ民主党政権を批判するだけでいいのだろうか。

 自民党にとって今、必要なことは、政権転落の反省に立って、かつて進めた政策を総点検し、今に至る状況を打開するための現実的な解決策を国民に示して、判断を仰ぐことではないのか。

 その処方箋もなく、ましてや党再生にも死力を尽くさず、ただ民主党の「敵失」で政権に返り咲いたとしても、何も解決しない。

 かつて、竹下登総裁(首相)から後継就任を打診された伊東正義総務会長(いずれも当時)は「本の表紙だけ変えて、中身は変わっていないということでは駄目だ」と固辞した。総裁が代わっても、党の体質を変えなければ、政権に返り咲く資格などない。

 石破氏は各地の街頭演説会で、かつての自民党政治を謙虚に反省し、民主党批判ではなく、自民党として何ができるかを示さなければならないと訴えていた。

 その主張に同調し、自民党の再生が必要だと考える党員・党友が多かったことが、石破氏が地方票の過半数を制した大きな理由だろう。決選投票で敗れたとはいえ、石破氏善戦の意味を、安倍氏は謙虚に受け止めねばならない。

 安倍氏は、集団的自衛権の行使容認による日米同盟強化や靖国神社への首相参拝など、「タカ派的」主張を繰り返した。

 自民党本来の支持層を固める狙いがあることは想像できるが、声高に主張するだけで中韓両国など近隣諸国との関係が好転するほど国際情勢は単純ではない。

 安倍氏は首相当時、靖国参拝に行くとも、行かないとも言わない「あいまい戦術」で中韓との関係改善に努めた。自民党に期待されるのは、そうした経験に裏打ちされた、老練で、したたかな外交であることを想起すべきだ。

 原子力政策も同様だ。原発を推進し、甘い規制行政を許した歴代の自民党政権は、原発事故の責任から免れられない。この際、原発稼働ゼロに舵(かじ)を切ってはどうか。反対する経済界や米政府を説得できれば、面目躍如だろう。

健康不安の払拭を

 安倍氏には五年前、持病である潰瘍性大腸炎の悪化を理由に政権を一年で投げ出した過去がある。

 病歴は個人のプライバシーだが首相を目指す公人は別だ。米大統領が毎年するように、健康診断結果を公表してはどうか。それが本人の言う「ほぼ完治」を裏付け、健康不安の払拭(ふっしょく)につながる。

 

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