第48回 丸山 茂雄氏
6. プレイステーション開発秘話
丸山:稲垣も一緒に取締役になったはずです。
--稲垣さんに対してライバル意識みたいなものはあったんですか?
丸山:ライバル意識と言っても彼と私は芸風が違うので、稲垣の領域に私は入らないように、という気の遣い方はものすごくしました。向こうも私に対してすごく気を遣っていたと思います。でも、自分で言うのも何ですが、私の方がもっと気を遣っていたと思いますよ(笑)。
--(笑)。この後はキューンレコードですか?
丸山:そうですね。キューンを作ったのも、上手くいっていなかったセクションを全部私が面倒を見ることになって、それで作ったのがキューンなんですよ。
--この「キューン」は、本当に「キューンと行くように」ということで名付けられたんですか?
丸山:そうですね。あまりキューンとは行かなかったんですけどね(笑)。それでキューンを石井(俊雄)に任せたら、またやることが無くなってしまったんですよ。私は任せたら一切口を出さないのでね。それで次はゲームですね。
--音楽からゲームとはすごい転身ですよね。
丸山:いや、あまり転身という気分ではなかったです。一番最初のアイディアはスーパーファミコンの下にプレイステーションをくっつけて、CD-ROMを入れるとスーパーファミコンで遊べるというものだったんですよ。
--そういう発想が最初にあったんですか…。
丸山:それで「そのソフトを丸さんやってくれないか?」というんで、引き受けたんですね。それで「何がいいかな?」と考えていたんですが、当時まだカラオケボックスがあまりなくて家庭用のカラオケというのが売れていたんですが、テイチクが全盛でソニーは弱かったので、「これでやれば」と考えたんです。スーパーファミコンは必ずテレビに繋がっているわけですから、そこにカラオケを入れれば「カラオケのマーケットを独占できる」という気になったわけです。
--それは画期的なアイディアですね。
丸山:そうでしょう? それでその準備をしていたら、発表の直前まで行って任天堂にキャンセルされて、パーになってしまったんですね。それで「このまま撤退するか? それとも独自にゲーム機を開発するか?」という話になって、私は「絶対にゲーム機をやったほうがいい」と主張したんですね。次の時代はCD-ROMになるとわかっていましたし、私がやめたとしても、スーパーファミコンを使った家庭用カラオケを任天堂が独自でやるに決まっていると当時思ったんです。結局任天堂はやりませんでしたが、撤退してその部分を他の誰かがやるんだから、ソニーがゲーム機をやるべきだと思ったんですよ。
--それで丸山さんが本格的にプレイステーション開発に関わるようになったんですね。その時、久夛良木さんは何をなさっていたんですか?
丸山:任天堂のスーパーファミコンにCD-ROMドライブを付けるという企画は、もともと久夛良木が自分で動いて任天堂と話をまとめたんです。
--そうだったんですか。
丸山:それがパーになってしまって、それで「ソニー独自でやるべきだ」と考えたのが、私と久夛良木の二人だけなんですね。ところが久夛良木は当時課長ですから、上には部長や事業部長がいて、大賀社長と直接話が出来ないわけです。でも私はSME(ソニー・ミュージックエンタテインメント:'91年4月社名変更)から話せる立場だったじゃないですか? ですから久夛良木は私を使って大賀さんに言いつけるわけです(笑)。
--なるほど…。ということは丸山さんがいらっしゃらなかったら、プレイステーションは誕生していなかったということですね。
丸山:それは絶対に生まれていませんよね。私が政治的な動きをしたのはその時だけです。その時は足を引っ張る人がたくさんいたんです。
--大賀さんはすぐには賛成してくれなかったんですか?
丸山:内心は賛成してくれていたのかもしれませんが、反対する人がたくさんソニーの中にいましたからね。
--反対する理由はなんだったのですか?
丸山:当時は任天堂全盛期じゃないですか? 簡単に言うとソニーが負けていい相手は、悔しいけど松下だけなんですよ。
--つまりプライドの問題だったんですね。
丸山:そう、プライドの問題。任天堂などという京都の花札屋に万が一負けたらどうするんだ! ということですよ。おかしな話ですよね(笑)。
--その後プレイステーションが発売されるわけですが、ソニーコンピュータエンタテインメント(以下 SCE)設立からどのくらいで発売になったのですか?
丸山:SCEを設立したのが'93年の11月で、プレイステーションの発売が'94年12月3日ですので、約1年ですが、会社を設立すると決めたのが'93年の1月、その前の1年くらいゴタゴタしたわけですから、発売までに約3年かかっていますね。
--このプレイステーションがまた爆発的に売れるわけですよね。これは大変大きな仕事ですね。
丸山:ここまで大きくなるとは思いませんでしたね。もちろん上手くいけば大きくなるとは思っていましたが、こんなに綺麗にいくとは思っていませんでしたね。