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【放送芸能】

正確に伝え続けて90年 NHKラジオ第2「気象通報」

 日本と周辺地域、海洋の天気を年中無休で伝えるNHKラジオ第2の「気象通報」(午前9時10分、午後4時、同10時)が前身の無線放送を含めて今年90周年。天気図の作製に不可欠で、スタイルを変えることなくデータを読み上げる地味な長寿番組だが、ここに来て変化の兆しも見え始めている。 (藤浪繁雄)

 「石垣島では東北東の風、風力3、晴れ…」。二十分の番組は、気象庁発表の国内外五十数カ所の気象情報が淡々と読み上げられる。

 東京海洋大学の庄司るり教授(航海学)は「インターネットやファクスがある何千トン級の大型商船などでは利用が減っているが、ほとんどの漁船は二〇トン未満でネットも使えずラジオに頼っている」と放送の重要性を示す。

 また、天気図用紙を販売するクライム気象図書出版(東京)は、利用される用紙の部数こそ減っているが、登山関係者や学校の授業などのため放送の需要はあるという。

      ◇

 元気象庁職員で、減災コンサルタントの饒村(にょうむら)曜さんによると、番組の前身は一九二二(大正11)年十二月四日、神戸海洋気象台から船舶や測候所向けに無線放送で開始。世界初の試みで、全国主要二十カ所の気象情報と警報を英語で一日三回流した。

 その後、NHKラジオが二五(大正14)年に放送開始。二八年に「気象通報」として現在のようなスタイルになった。

 当時、国内向けのラジオ放送では日本近海程度しか利用できなかったが、饒村さんは「海難による船舶の損傷が激減した。効果は画期的だった」と振り返る。

 気象庁によると、太平洋戦争中、番組は中断。天気図も「秘密文書」扱いで公表しなかった。四五年秋に再開したという。

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 約三十年、気象通報を担当してきたNHK嘱託アナウンサーの瀬田光彦さんは「人命にかかわる情報。正確な発音や発声に加え、声に抑揚や表情が出ないように読む」と極意を語る。

 放送前、気象庁から送られてきたデータの分量を見て、読む速さを計算。天気図を書くリスナーに配慮し、強風など記号が複雑になるときは間を多めにとる。台風シーズンなど情報量が増えると「スピードを上げます」と断りを入れたりする。

      ◇

 NHKは現在、データの自動読み上げシステムの導入を進めており、「気象通報」では来年度中の実用を目指し、研究を続けている。

 NHK放送技術研究所の世木寛之さんが気象庁のデータを音声に変換するシステムを開発。ラジオ第2の「株式市況」の銘柄読み上げで、一足早く実用化されている。

 気象通報でも風向、風力など「定型のデータの読み上げには問題ない」と世木さん。課題は「オホーツク海の北緯四八度、東経一四五度には一〇〇四ヘクトパスカルの発達中の低気圧があり…」といった文章化された情報を、いかに自然な音声のように合成させるか。だが、この点も瀬田さんが、台風○号など、あらゆる単語を淡々と吹き込み、本当に読んでいるように聞こえる。ベテランの高い技術でクリアできそうだ。

 アナウンサーの業務が多様化している現在、負担軽減になるとみられる。ただ、瀬田さんは「アナウンサーが他の仕事に集中できるのはありがたいが、アナウンスの基本を実践する場がなくなる」と少し寂しそうだ。

 

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