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元少年、二審も無罪 99年男性殺害・裁判員裁判東北初の無罪

 1999年1月、東京都の無職打田篤司さん=当時(31)=が殺害された事件で、殺人罪に問われた事件当時少年の男性被告(33)=仙台市太白区=の控訴審判決で、仙台高裁は27日、東北の裁判員裁判で初の無罪を言い渡した一審仙台地裁判決を支持、検察側の控訴を棄却した。

 男性は笹本智之受刑者(38)=無期懲役などの刑確定=らと共謀し99年1月、都内のアパートで打田さんの首を絞めるなどして殺害したとして起訴された。
 裁判員裁判は昨年3月に始まったが、東日本大震災で中断。同年8月に再開された裁判では、新たに選任された裁判員が中断前の公判を収録したDVD映像をほぼ視聴するだけで判決を出した。事件の物証はほとんどなく、男性の関与を認めた笹本受刑者の証言の信用性が争点。一審判決は信用性を認めず、無罪となった。
 控訴審で検察側は「自身の死刑を覚悟して事件を暴露した笹本受刑者の供述は信用性が極めて高い」と主張、弁護側は控訴棄却を求めた。
 仙台高裁の飯渕進裁判長は「笹本受刑者の証言は核心部分を裏付ける客観的な証拠がなく、一部が不自然で信用性がないと判断した一審判決は(論理的整合性や一般常識に当たる)論理則、経験則に反しているとはいえない」と指摘した。
 さらに「笹本受刑者が自供した動機や共犯者との関係などで検察側の立証が不十分。検察側の主張、立証だけで笹本受刑者の証言の信用性を担保するには限界がある」と結論づけた。
 判決について、弁護側は「正当な判断」と評価。仙台高検は「主張が認められず、遺憾だ。判決内容を検討の上、適切に対応したい」とのコメントを出した。

◎裁判員裁判の判決尊重定着

 【解説】27日の仙台高裁判決は、一審の正誤のチェックに徹する姿勢を鮮明にし、無罪判決を支持した。控訴審が裁判員裁判の判決を尊重する流れが定着しつつあるといえる。
 裁判員裁判は従来の法曹三者による裁判以上に、法廷でのやりとりを重んじる。高裁は検察側の立証に注文を付け、裁判員に十分な判断材料を示せなかったとみなした。
 被告の男性の関与を自供した笹本智之受刑者に関して「尋問は十分ではない。証言の信用性の判断に不可欠な事項に関し、的確な立証がなされていない」と批判。立証の集大成といえる論告についても「納得できる説明があったとはいえない」と踏み込んで言及した。
 控訴審で検察側は笹本受刑者の供述調書の取り調べを求めたが、却下された。弁護側は「高裁が法廷のやりとりよりも調書に重きを置いて判断していたら、結論は違ったかもしれない。法廷での当事者の責任は極めて重要だと感じた」と語る。
 控訴審による裁判員裁判判決の見直しをめぐっては、裁判員制度の設計段階から論争があった。最高裁はことし2月、「一審の見直しは論理則や経験則に照らし、明らかに不合理な場合に限られる」との判断を初めて示した。
 この判断は、二審が一審と異なる心証を得ても、論理則や経験則に反することを具体的に指摘できなければ、有罪か無罪かについても、一審判決を受け入れざるを得ないことを意味する。ただ、裁判員裁判の過度の尊重は、控訴審が追認機関と化す危うさもある。三審制の原則に照らせば、当事者である高裁判事の責任も重要さを増している。(報道部・水野良将)


2012年09月28日金曜日


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