特集ワイド:原発の呪縛・日本よ! 作家・白石一文さん
毎日新聞 2012年09月21日 東京夕刊
世論に押されてか、政府は14日「2030年代までに原発稼働ゼロを目指す」戦略を打ち出した。しかし閣議決定は見送られ、「原発ゼロ」の方針はわずか5日で大きく後退した。「結局、選挙対策だったということでしょう。マニフェストの時と一緒。もう誰も信じていない」と白石さんは冷ややかに見る。
白石さんは別の面にも「戦時の発想」の符合を見る。「最近は、経済合理性だけじゃなくて、核技術を維持するために、という主張も出てきた。原子力はまず核兵器として使われた。一番それに向いていたっていうことだよ。技術自体、市民社会と相いれない軍事的側面を持っている」
立て板に水、という調子で語り続けてきた白石さんが、ふいに相好を崩した。愛猫のつばさくんがのんびりと近づいてきて、ごろんと横になる。元は捨て猫、野良猫だった計4匹が引き取られている。
他の猫たちにも紹介されてつい長居をし、白石さん宅を辞するころには夕闇が迫っていた。潮の香りのする風を浴びながら、白石さんの最近のツイートを思い出す。
<僕が総理になったら、第一日目にやることは再稼働の停止と犬や猫たちの殺処分の即日停止>。幸せそうな猫たちの柔らかい毛並みが手のひらによみがえった。【井田純】
==============
◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス03・3212・0279
==============
■人物略歴
◇しらいし・かずふみ
1958年、福岡県生まれ。早稲田大政治経済学部卒。出版社勤務を経て2000年に「一瞬の光」でデビュー。10年に「ほかならぬ人へ」で直木賞。毎日新聞夕刊で「神秘」を連載中。