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  GM、目覚める 作者:ミケ
GM、馬に乗る
 豪華としか言い様がない部屋で、ベルトリアスは途方に暮れていた。
 手ずからベルトリアスに酌などして持て成す主達に、それらの部下が殺気立っているからというのもあるが、それ以上に、ベルトリアスは彼らの部下を見る事が怖かった。
 違和感がつきまとうのである。
 何故、生きている? 何故、動く? 何故、喋る?
 恐怖にも似た強烈な違和感。だが、怖いもの見たさもまたベルトリアスを突き動かす。
 そう、彼らにも名前という「タグ」があり、そこを選択すれば、詳細が判別できる。
 賢さ……力の強さ……体力……そして、せって

「では、ベルトリアスの出来ることを確認していこうか。クエストの発布は出来るな?」

「あー……あれか」

 内心、思考と観察が中断させられたことにこの上ない感謝を感じながら、ベルトリアスは自身に意識を向けた。
 当たり前のようにある、「出来る」という確信。

「とりあえず、仕事の途中で出てきてしまったんだ。申し訳ないが、話は向こうで聞いてもいいだろうか? ついでに、向こうへの護衛依頼ができるかどうか試してみたい」

「うむ、いいだろう」

 異形達は少し考えて頷いた。
 
護衛クエスト 金貨500枚
ベルトリアス王を護衛して王都まで送ること。
 人数制限無し

 すぐに300人ほどの数の受諾が帰ってきて、ベルトリアスは絶望した。
 こんなにいるのか、異形。
 そう思考すると、異形の総数と現在地のリストが脳内に展開する。
 護衛クエストは転移不可だ。
 ベルトリアスはその事を唐突に思い出して、後悔する。
 連れてこられた馬は天馬で、ベルトリアスはわずかに安堵した。これなら乗れる。しかし。

「ベルトリアス陛下、お願いがある。まずは、私を馬に乗れるようにして欲しい。ファンタジーワールド方式で」

 アマクトの言葉に、ベルトリアスが首を傾げたのも無理は無い。
 だが、ファンタジーワールドというのは酷く懐かしい気がした。
 困惑しながら天馬に触れると、空中に丸い、絵の書かれた板が発生した。思わず、困惑する。アマクトは躊躇なくそれに触れ、ひらりと馬に飛び乗った。
 馬に乗りなれたベルトリアスならわかる。今のは少し不自然な乗り方だった。
 だが、異形達は拍手した。

「ベルトリアス陛下。こちらも頼む」
 
 王に頼むことにとても引っかかりを覚えながらも、ベルトリアスが意識を伸ばすと、全ての天馬に板が現れた。
 各々が馬に乗る。
 ベルトリアスも馬に乗ろうとして、ふと違和感を覚えた。
 視界に入るのは、丸い板。
 それに触らなければならない。だが、それに触ることに激しい恐怖を感じた。
 恐怖とも違和感ともつかないその突きあげるような感情に、おもわず後退りする。
 
「どうした? ベルトリアス。そのボタンに触れてくれ」

 ボタン。ボタンというのか、得体のしれないこれは。
 不安に思いながらも、異形の視線が怖くて、手を伸ばす。
 その途端、体が自然と動き、次の瞬間、ベルトリアスは天馬と一個の生命となっていた。
 天馬の感覚が自分にもあり、そして得体のしれない棒が当たり前のように、触れられるかのようにはっきりと頭の中にある。
 さらに、体の自由がほとんど全くない。
 恐怖にベルトリアスの顔がこわばる。

「ああ、使い方がわからないのか? コントローラーの棒を、倒すんだ」

 わけも分からず、意志で棒を押すと、棒は容易く傾き……天馬が走った。
 すぐに、手を離す。頭の中は既にパニックで、それでも体は動かない。

「これは飛ばないほうがいいかもな。ゆっくり行こう」

 アマクトの気遣う言葉が、どこまでもどうでも良かった。
 コントローラーと言うらしいこの棒を動かせば、体は勝手に動き、天馬は進む。
 そこまではわかった。わかったが、普通に馬に乗っては何故悪いのか。
 たかが馬に乗るだけ、それだけのことに、なにゆえこのように恐ろしい所業を成せねばならないのか。
 当たり前だが、ベルトリアスは体が勝手に動くのは好きではない。
 その上、コントローラーとやらは酷くおぞましかった。
 口はどうやら動いたので、ベルトリアスは問うた。

「これは、降りられないのだろうか。私は、普通に馬に乗りたいのだが……」

「ボタンを押せば、降りられるが……」

 ベルトリアスが意識すると、丸い板が知覚出来た。それに触れて力を込めると、体が勝手に動いて降りる。
 こんなのは、もう懲り懲りだ。そう思うと、ボタンが消えた。
 恐る恐る乗ると、普通に乗馬できた。
 ベルトリアスは、安堵して馬を駆る。
 異形の中心にいる状態で帰還すればどう取られるか。
 わかっていないわけではなかったが、今はとにかく早く帰りたかった。
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